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一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。  作者: 沼口リオ
第1部 第二章
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カテゴリー《ハーレム》1

 天野との勝負の次の日。俺は半強制的に、自転車サークルの部室へと連れてこられていた。いや、選択肢なく連行されたのだから、『半強制』では無く『強制』が正しいだろう。


 ――ガチャリ…と、ドアを閉める音が俺の耳に入ってくる。

 不思議に思い、ドアの方を見ると、俺を連行した張本人の御影が怪しげな笑みを浮かべていた。何か目が光っている。――少しだが怖い。


「なあ、何でドアを閉めたんだ?」

「ん〜?そりゃあ決まってるじゃ無いか…………とおっ‼︎」


 いきなり、実にいきなりだ。御影が体操選手バリの勢いでジャンプをし、俺の元へと落下してくる。

 落下まで時間があるので、俺はゆるりとこれを避ける。


「――っと、と…。何で避けるんだい⁈」

「いや、そんな得体の知れないプロレス技みたいなのされそうになったら誰だって避けるだろ」

「プ、プロレス技ー⁈」


 何だろうか?ショックを受けているのか、御影が一歩引いた所で、若干体を仰け反らせている。

 全くもって何がしたいのか分からない。まず、今日のファーストコンタクトから既に謎であった。


 いつも通り駐輪場から自転車に乗って帰ろうとしていた俺は、待ち伏せしていた御影に一瞬で捕まり、途轍もない笑顔で腕を引っ張られながら、部室へと連行されたのだ。まず、何故待ち伏せてるのか?そして、何でメッチャ笑顔なのか?

 昨日から変な奴だとは思っていたが、何というか、益々変な感じに拍車がかかっている。


「なあ、御影。お前どうしたんだ?やってること変だし、用がないなら俺はもう帰りたいんだが」

「へ、変⁈ボクなりの愛情表現を(へん)と言うのか君は⁈せっかく昨日[彼氏をデレデレにする方法]を調べて、色々と実践してたのに!」

「あ…ああ。そういうことか…」


 一晩経って忘れてしまっていた。そういえば、御影と俺は流れ上付き合うことになっていたんだっけか。ウッカリしていて、それに対しての策を練るのをすっかり忘れていた。

 まあ、お互いに不本意な付き合いな訳だし、早目に俺から切り出して、関係を終わらせるのが筋というものだろう。


「なあ、話があるん――」

「折角の彼氏なんだから、君ももっと楽しみなよー!」


 話している途中で、言葉が遮られる。本人は遮った自覚はなく、自分の話をしていたように見えるが。とにかく、話しているタイミングでお互いの言葉が被ってしまった。

 そして御影は、俺が話しかけたことに気づいていない様子である。まあ、俺も御影が何を言ったのか、よく聞き取れなかったのだが。


「悪い、聞き逃した。今何て言った?」

「えぇ?いや、だからね?君ももっと楽しみなよって言ったんだよ。折角……その…カップル?に、なったんだし…さ」


 何やらモジモジと体を揺らしながら御影が俺に言ってくる。やっぱり変だな。それに――


 『君も』というのはどういうことだろうか?その文脈だと、自分は楽しんでいるというふうに捉えられるのだが、こいつは俺と付き合うことが、嫌では無いんだろうか?あまり聞きたい事ではないが、好感度を知るためだ。思い切って聞いてみるか。


「……なあ御影よ。お前は俺が好きなのか?」

「ん?どうしたの急に?」

「いや、な。流れで付き合う事になってしまった訳だが、嫌いまでとはいかなくとも、好きでもない奴と付き合うのは苦痛だろ?まあ、無理する必要は無いと思ってな」


 そう、無理する必要は無い。もし、俺に気をつかって楽しんでいるフリをしているのであれば、それは余計なお世話というやつだ。お互いに良いことは無いだろう。



 しばらく黙っていた御影だったが、突然、俺に背を向ける。

 怒ったんだろうか?


「……まあ、正直よく分からないんだけどさ……。でもきっと、ボクは嫌な人には冗談でも付き合うなんて言わないから、そういう点では…………合格!」


 振り向き、腕で丸を作る御影。何だか分からないが良い判定が下されたらしい。いや、何がいいんだ?


「逆に……リクくんは、その…ボクと付き合うのは嫌…なの?」


 手を下げ、御影が潤んだ瞳で俺を見てくる。


 正直に、正直に言うと……付き合うのとかは面倒だ。ずっと俺は1人を貫いてきた。そこに彼女という存在が加わるというのは、ただの負荷でしかない。だが――


「…………ぅぅ…」


 そんな今にも泣きそうな表情で見られてしまったら、断るのは俺の精神的にも不可能だろう。


「俺も嫌じゃない。ただ、お互いに気持ちがすれ違っていたらいけないと思って聞いただけだ」

「な、なんだ…そうだったのかぁ〜。良かったぁ…。嫌いって言われたら駆け込むところだったよ…」


 何処にだ、何処に駆け込むつもりだったんだ?こいつは。というか、今のは脅しなのでは……。

 俺が訝しげに御影を見つめると、御影は舌を出して悪戯な笑みを浮かべてくる。全く……こいつは。


 俺は額に手をやり、溜息を吐きつつ、御影とのこの一件について、深く考えるのを諦めた。



 ――父さん。俺、大学に入って彼女が出来たよ。けど、母さんには言わないでおいてくれ。きっとショック死するから……。



「なあ、御影。付き合う件は、まあとりあえず良しとして。何で俺は部室に連れてこられたんだ?名前は貸したし、勝負にも一応勝った。これ以上俺がサークル活動をする必要は無いだろ?」

「ん?いやいや、ちゃんと活動してもらうよ?サークルメンバーなんだから」

「おい、何でそうなる?名前を貸すだけなら良いと俺は許可したんだ。つまり俺はサークル活動に参加するつもりはない。お前に強制的に連れられて部室には来てしまったが、俺は何もするつもりはないぞ。というか帰らせろ」

「ダメー!ダメですダメ!絶対に阻止しますよボクはもう!」


 御影が腕でバッテンを作り、俺の主張を容赦なく却下する。しかもドアの前に立ってるから強行突破出来ない。

 本当にこいつはよく俺の妨害をする……。


「何故だ。メンバー集めには協力したんだからそっちの思惑通りだろ?他に何があるんだ?」

「……そのことなんだけど…リクくん。君はウチのサークルに名前は貸してくれるんだよね?それは嘘じゃないよね?」


 何やら怪しい雰囲気を醸し出しながら、御影がこちらを睨むようにして見てくる。髪で目が少し隠れているのがゾッとする。幽霊のようだ。


「ああ…それは約束したからな。約束は守るやつだよ、俺は。だけど今更(なん)なんだ?名前は既に書いただろ?」


 そう、既にサークル申し込み用紙の氏名記入欄に俺は名前を書いた。そしてそれは御影も見ていたことだ。なのに何故、今更そんなことを聞くのか。


「約束は守る……言ったね?リクくん。約束は守るって………だったら……――ボクと一緒にレースに出て!」

「嫌だ。断る。ふざけるな」

「うぅっ⁈即答…!」


 俺がテキパキと一瞬で回答を出したのに対して、御影は頬に一筋の汗を垂らし、あからさまに動揺する。


「まあ、直ぐに否定から入るのは良くないとは承知しているが……。嫌なものは嫌だ、そう言える大人で俺はいたい」

「な、何でそんなに威張ってんの⁈とりあえず理由くらい聞いてくれたっていいじゃないかぁ!」


 一理ある。


「ふむ。では言ってみろ、俺が納得する理由をな」

「うんうん。ちゃんと素直に最初から聞けばいいんだよ。全く」


 『えっへん』と言って、御影が偉そうに腰に手をやる。こいつ、何となく腹立たしい。


「えっとね。アレは昨日、天野先輩との勝負後に起きたことなんだけど……」




 ◇




「ヤッホー来たよー!」

「…ノックしろ、ノックを…」


 全くの前置きも無しに委員会室に入ってきた御影に対して、既に部屋にいた男が頭を手で抑えながら溜息を吐く。


「いやぁ、ボクと兄さん(・・・)の仲じゃないか!それで?話って何?」


 御影が遠慮なく、置いてあったパイプ椅子へと腰を下ろし、楽な姿勢をとる。

 御影が兄さんと呼んだ人物は、それを見て何かを言おうと口を開けるが、無駄だと判断したのか口を閉じ、代わりに再び溜息を吐く。


「いやぁ、兄さんも大変そうだねー?何たって聖月大学の“クラブ活動管理委員会かつどうかんりいいんかい”の委員長だもんね!」

「ああ、実に大変だよ……お前がやらかしてくれたからなぁ…」


 御影の兄が頭を抱え、俯く。


 クラブ活動管理委員会委員長、御影樹(みかげいつき)。聖月大学経営学部経営学科三年にして、御影センの実の兄。

 見た目は中々にクールな二枚目である。左目だけ隠している特徴的な髪型に、黒い髪色。そして、顔の輪郭から体型に至るまで、とにかく線が細い。

 そのキリッとした青の瞳からは、実に凛々しい雰囲気が醸し出されており、服装も就活の一環なのか、黒いスーツを着ている為、中々にキマっている。

 顔を常に引き締めていれば、通り過ぎる女子は何人か振り向くんではないかという位の良い男だ。だが、彼の顔は今、引き締まっていない。というか、疲れに疲れが重なって若干死んでいた。


「やらかした?ボクは……何も悪いことしてない…………よ?」

「心当たりあるから間があったんだろ。間が」

「う……っ」


 マズイといった表情をし、センが目線を樹と合わせないように横に向ける。つまり、心当たりがあるということだ。


「お前の新設したサークル。メンバー2人しかいないだろ?」

「ギクッ……」

「『ギクッ』…ってなぁ…お前。俺が兄貴だからって、押し切る形で無理矢理サークル作らせたけどよ…。流石に人数足りないんじゃコッチとしては認められないんだよ。分かるだろ?」

「ああ、それなら大丈夫。人数確保したから」


 センが口の端を吊り上げ、得意げに笑う。その表情に、怪訝な表情を浮かべる樹。


「なあ、脅して入れたりしてないよな?」

「ん?いやぁ、あっちからの熱い志願があったから入ってもらったんだよ!脅すなんてとんでもない!」


 嘘である。リクは熱い志願などしてないし、ある意味脅してサークル勧誘していた。


 そして、樹は何となく経験則から、センの嘘に気づいていた。


「はぁ…まあいいか。んで?今のメンバーは何人なんだ?」

「えっとね、ボクとミドリとリクくん。それと兄さん」

「なるほど、4人か…ならギリギリ……って俺⁈」

「うん、兄さん」


 当たり前ですと言わんばかりの表情で樹を見つめるセン。樹はいきなりの指名に思わず椅子から立ち上がる。


「い、いつからそんなことになってる⁈」

「ん?今決めた。兄さんならいいかなって」

「嫌だよ!俺は実績ありしトライアスロン部に所属してるんだ。そんな無名の自転車サークルに入れるか!」

「えぇ~……兄妹(きょうだい)での熱愛発覚デマ流すよ?」

「お前マジでやめろそれだけは本当に…!」


 樹の顔がサーッと青ざめていく。委員会委員長として、そんな噂流されたら……いや、普通の生徒であってもアウトだ。かなり酷い脅しだ。


「じゃあ入ってくれる?」

「う……ぐぐぐ……じ…じ…」

「……じ?」

「じ………実績を出せば…!入ってやっても…いい。どんなレースでもいいから1位になってみせろ!そ、そしたら入ってやる…」


 樹が右手の人差し指を立て、センの眼前に突きつける。流石にタダで入ってやる気はないらしい。


「ふむふむ。実はついさっきレースに申し込んだんだ〜。丁度いいからそこで優勝してみせるよ。そしたら入ってくれる?」

「あ、ああ。その代わり、勝てなかったらサークルの件も、これ以上の脅しも無しだ!い、いいな?」

「了解、了解!」


 センが満面の笑み作り応え、樹は再び溜息を吐いた――。


今回は御影さんとお兄さんとの話をメインに書きました!いや~兄弟っていいですよね!仲良ければ……

脅しダメ絶対!

とりあえず、次から現実時間に戻ります!

チラ見でも見てくれた皆さん。ありがとうございます!

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