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夏祭りの千円券1

久しぶりの投稿です。

そして、第2部です。


 その人を見たのは、高校二年生の夏。

 地元で開催された祭りの時だった。

 誰か友達と一緒に行くわけでもなく、彼氏がいるわけでもないアタシは、ぶらぶらと屋台を眺めながら、正直、飽き飽きしていた。

 全体的に人は多いけど、特に盛り上がることの無い屋台。何を食べたら美味しいとか、何で遊んだら楽しいとか、皆目見当がつかず、もう帰ろうと思っていた。


 その時だった。


 まだ行っていない屋台が一際盛り上がっている事に気がつく。喫煙コーナーが近い場所だったから、何となく避けていた屋台だったけど、そんなに盛り上がっていたら流石に気になる。

 だからアタシはその屋台に行った。タバコ臭さを我慢して、酒臭いジジイも我慢して。


 ……何か音が聞こえる。風を切る音だ。ただ、人が多すぎて何が音を出しているのかは分からない。

 人混みをかき分け、前へ前へとなんとか進む。


「っ……と!」


 満員電車のような人混みから急に弾き出され、四つん這い状態で転ける。ちょっと恥ずかしい。

 けどそのお陰で、一番前に来れた。

 アタシはゆっくりと顔を上げ、シュンシュンと鳴っていた、その音の原因を確認する。


 曲がりが際立つハンドル。フロントホイールを外され、フロントフォークだけの状態で機械に取り付けられている普段はあまり見ないフレーム。

 そしてそれに乗っている汗だくのサラリーマン。


「おお、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜!」


 アタシはそれがなんなのか、一瞬で理解した。

 ――ピストバイクのバーチャルレースだ!

 レースと言っても、実際に道路やトラックを走るわけじゃ無い。タイヤによって回される下の機械、三本ローラーの回転数によって勝敗を決めるバーチャルのレース。通常のレースと違って距離も短く、クランクを回すだけでいいから、最悪自転車に乗れない人でも参加することは出来る、言ってしまえば遊び。


 しかし、バーチャル故にその実力は如実に出る。ペダリングの綺麗さ、精確さ、そして速さ。

 何より瞬発力と持久力を試される!


 こんな冴えない祭りでこんな最新の自転車レースに出逢えるなんて!ツいてる!


「ただ今バーチャル自転車ゲームやってまーす!参加される方いますか〜?」


 参加受付のお姉さんが呼び込みをしている。それを見たアタシの目は猫のように光る!

 しゅぱっ!と、体を起こし、新体操の選手さながらのアクロバットな動きで飛び跳ねると、お姉さんの前に出て――


「はい!はい!アタシやります!やりまーす!」


 手を挙げて積極的に志願した。


「え……あ、は、はい!でしたらあちらの椅子でお待ち下さい」


 若干苦笑いなお姉さんだけど、そんなことは気にしない。

 アタシはお姉さんが示した席へと向かい、大物感たっぷりにドスンと座る。

 アタシの前に待っている会社帰りのサラリーマン達がちょーっとビビってたけど気にしない!


 んにしても……。

 アタシは反対側の席で待っている人に目をやる。そして気がつく。

 反対側にいるのも大半がサラリーマンだ。

 なんで、こんなにサラリーマンが多いんだろう?仕事帰りなのは分かるけど、だったら尚更もう疲れたくないでしょ?

 なのに参加って……Mとか?


 そんな事を考えていると、隣に座っているサラリーマン達の会話が聞こえてくる。


「いや〜、やっぱりキツそうですね〜。結構いい歳なもんで、絶対バテちゃいますよ〜」

「そうかい?君はまだ若い方だと思うけどね〜。私なんかもう40だよ。髪が薄くなって困るったらありゃしない!はははははは!」

「あ……はははは」


 自分で話振っといて気まずくなってんじゃねーか。ほんっと、なんで参加したんだこの人達?


「い、いや〜けど、やっぱり頑張っちゃいますよね〜。10秒内だったらこの祭りで使える千円券が貰えるっていったら!タダビールですよ!」


 な、千円券⁈


「そうだけどさ〜中々いないよ〜10秒以内の人さ〜。200mでしょ?一体何キロ出せばいいんだか」


 200mで10秒以内……結構難易度高いなぁ。普通の人だったら多分出せないよね、それ……。


「お、順番だ!いっちょ稼いで来ますか!」

「ファイトです課長!」


 課長だったんだ。


 課長さんが青い自転車に跨ると、向かいからもう一人サラリーマンが現れ、横の赤い自転車に乗る。対戦形式で行うゲームらしい。

 スタッフの人がそれぞれのサラリーマンにつき、足を固定したりズボンにマジックテープを巻いたりと作業をする。

 手際の良い作業は数秒で終わり、サラリーマン達はそれぞれ気に入ったポジションのハンドルを握った。

 頭皮気になるおじさんは上ハンで、対するまだ髪があるサラリーマンは下ハンドル。


 あー、これは……ハゲなりかけが負けるなぁ。


『それじゃあ行きますよ〜!足を止めて――!』


 マイクを持ったスタッフが手を広げ、カウントをする。


『5!4!3!2!1!スタートォォ‼︎』


 合図と共に一斉にペダルを回すサラリーマン二人。

 スタートダッシュではほぼ互角な戦いを繰り広げていたものの、僅か数秒で差がジリジリと広がっていく。

 引き離されているのは髪を気にしている方のおじさん。


 息が上がり、誰がどうみても苦しそうに顔を上げるおじさんと、下を向いたまま、全力で漕ぎ続けるサラリーマン。


 どちらが勝つかは明白だった。


 アタシの予想通り、勝ったのはまだ毛がある方のサラリーマン。

 まあ、そりゃそうだよね。課長、上ハン握ってるし。


 これは精神論でもあるけど、下ハンっていうのは体をグッと車体に引きつけやすいから、踏み込みが脚の力だけでなく腕の力を含んだものになる。体重の力もうまく乗せられるし、とてもパワーが出しやすいんだ。

 上ハンでも引きつけは出来るけど、なんにも知らなそうなおじさんじゃ無理だよね。


「あ〜あ、レベルそんな高くなさそうだな〜」


 別にそんなに期待はしてないけど。



 結局、今のレースでも勝った方は10秒以内には到達出来ず、それからもずっと13秒や12秒といった平凡なタイムが続いた。

 そして――


「次の方、どうぞ〜」


 お、やっとアタシの出番だ!

 足早に移動し、軽やかに自転車を跨ぐ。足とペダルの固定も、スタッフがやる前にほぼ完了状態にし、他との違いを見せつける。


 アタシの自転車歴は3年!ピストバイクは乗った事ないけど、スプリントならロードで腐るほどしたからね!千円券なんて……じゃなくて、10秒以内なんて余裕だ余裕!


「ふふん♪」


 楽勝気分でアタシは隣を見る。今までも対戦形式だったのだから、勿論私にも対戦相手はいる。さーて、どんなサラリーマ………ん?

 横にいた人物にアタシは少し驚いた。その人は、髪の薄いサラリーマンでも無ければ、顔真っ赤にしてタコみたいに酔ったサラリーマンでも無く、やる気のなさそうな顔をした、同い年くらいの細身な男の子だった。


 うぅむ、男の子かぁ。まあけど、自転車なら同い年くらいの男の子にだって負ける気はしないし!それになんだか細くて弱っちそうだし、問題ないでしょ!


 アタシはそう思い、強者の余裕として男の子に話かけた。


「よろしくね!結構キツイとは思うけど、頑張って!」


 笑顔のアタシ。なんかお姉さんっぽいなぁ今の!ここでアタシが勝ったら、この子アタシに惚れちゃったり?しちゃったり?するのかなー?

 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―――――


「…別に、どうでもいいし……」


 ハハハハハハハハハハ………………は?

 え、なに、今どうでもいいって言った?アタシが笑顔で話しかけたのに、どうでもいいって?

 え、なにそれ。


 腹の底から何かがグツグツと音を立ててくるのが分かった。

 どうでもいい?ハッ!終わった後に息一つ切らさずに余裕でアンタのこと見下してやるんだから!


 そんな野望を胸に秘め、アタシは下ハンドルを握る。ちらりと横を見ると、男の子は上ハンドルを握っていた。

 ――勝った!


 アタシは設置されているディスプレイに目をやる。そこにはバーチャル世界で自転車に乗るアタシと男の子のアバターがいた。

 そして、アナウンスが入る。


『それじゃあ行きます!足を止めて……5秒前!4!3!2!1!――スタート!』


 スタートという合図とともにアタシは全力で右足を踏み降ろす。そのまま前のめりになりながら全力でクランクを回し、リアホイールによる風切り音をどんどんと大きくさせていく。


「おおー!スゲー速いなあの女の子!もしかしたら10秒内にゴール出来るんじゃないか⁈」


 当然!余裕よこんなの!一気に走り去って横の奴の漕ぎヅラ見てやるっての!


「けど、追いつくのは無理そうだなぁ。ありゃ。あのボウヤ速すぎっぺ。てか、背筋伸び過ぎだろ(笑)」


 え…………?


 ボウヤ?速い?追いつけない……?


 アタシは咄嗟にディスプレイを見た。すると、そこに移ったのは既にゴールライン目前まで来ている男の子のアバターのお尻だった。

 え?嘘⁈アタシ後ろにいる?ヤ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ‼︎速く!もっと速く‼︎

 アタシはもっと加速しようと脚に力を入れるが、もう既にパンパンになった脚はこれ以上の無理を許してはくれず。そして――

もう一つ作品を書いているのですが、同時に二つの作品って難しいですね。

また、ぼちぼちと更新していくのでよろしくお願いします。

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