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一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。  作者: 沼口リオ
第1部 第五章
26/29

春生小屋エンデューロ《ハーレム》9

 ◇




 レース後がレースより大変とは、どう言う了見か。

 というか、この状況は何だろう。何故俺は御影の首根っこを掴んで、表彰台の上に立ち、冷たい視線を浴びているのだろうか。


 いやまあ、首根っこを理不尽な理由で掴み、立っているなら俺が悪い。しかし、コレにはちゃんとした理由があった。

 まず、俺がピットエリアに入るなり、御影が俺にダイブ――

 いつも通り見事にかわした俺であったが、アドレナリンがまだ出っぱなしの御影はいつも以上に暴走をし……。結果、神無が当て身を繰り出すという事に…。

 間抜けな声を出し、疲れも相重なって御影はその場で意識を無くし、表彰台には引っ張って連れてくしか無くなった、という事だ。


 それにしても、神無の当て身マジスゲェ……全然起きないぞ、この間抜け面。

 優勝者の貫禄とか一切ない。右隣にいる東条達も、最早呆れ笑いだ。


「さ、さぁ〜て?い、良いのかなコレ。はじめちゃって……」


 オネェモードから通常モードに戻った実況者が半目で俺に何かサインを送ってくるが、俺に聞かれてもな…。

 とりあえず、親指を立てておく。


「じゃ、じゃあまあ!とりあえず、表彰式を始めたいと思いまーす‼︎」


 実況者のその言葉に、周りから拍手が鳴り響く。なんか凄い人集りだ。普通こんなに集まるか?

 たかがホビーレースの表彰式だぞ?


「ん、んにゃ?アレ…リクくん?ココは何処……………私は――」

「間を空けて言う事がソレか。しゃんとしろよ、表彰式だぞ」

「ふ〜ん………って!はっ!表彰式!ボク主役‼︎」


 全ての状況を察した御影は、腰に手を当て、胸を張り出した。そう、正にエッヘンという感じだ。

 なんとも言えない間抜けさが漂っているが……観客の反応がおかしい。なんかメッチャ写真撮ってるし、歓声が大きくなっているような……。


「御影選手凄い人気ですね!いや〜ファンクラブ出来そうなほどに!さて、優勝者も目を覚ました所で、早速3位のチームの表彰から――」


 あ、ああ…そういうことか。

 俺は今の言葉で、全てを察した。

 まあ、要するにこの人の量は……。


御影(おまえ)のせいか……」

「んー?」


 気持ちは分からんくも無いが、何か俺までとばっちり受けそうだな。

 SNSとかで拡散とかされたら、俺暗殺されるんじゃ無いのか?…ファンクラブに。



 と、まあ色々考えていると、いつのまにか3位の表彰が終わったらしい。どうやら次は2位……東条達の表彰のようだ。


「2位のチームは、チーム《デモニック》の皆んなです!ハイ!おめでとー‼︎」

「あざっす‼︎へへへ」


 2位の表彰状を東条が笑いながら受け取る。俺はソレを横目で見ていたのだが。この時、俺はある事に気がついた。

 東条の目尻が赤い。

 先程は、後悔は無いと言っていたが……やっぱり、そんな訳ないよな。誰だって、負けるのは悔しい。

 後悔は、闘うたびにどんどん積み重なっていく。けど、東条はソレを…きっと、乗り越えられる奴なんだろう。


 あーあ、厄介だな。次はもっと強くなってんだろうな。


「――!」


 アレ?何で俺、次ももう走るつもりでいるんだ?

 もしかして――


「最後!さあ、1位の表彰です!春生小屋エンデューロ、ハーレムカテゴリー‼︎映えある第1位に輝いたのは〜!チーム《ゴールドムーン》でーす‼︎おめでと――‼︎」

「リクくん!左端掴んでよ!一緒に受け取ろう!」


 ナイス提案だろうと言わんばかりに目を輝かせる御影。まあ、悪くない受け取り方ではあるが…。


「待て御影。もう一人、いるだろ?」


 そう言って俺はギャラリー最前列の神無を指差した。その指名に気づいた神無が、キョトンとした顔で自分を指差す。


「うん!そうだね!ミドリーー‼︎ミドリもおいでよー‼︎」

「え…⁈」


 急な呼び出しにたじろぐ神無。選手ではない為、最初からは表彰台に乗れなかったが、まあ、賞状授与くらいは登ってもいいだろう。


「その娘チームメイト〜?なら!あなたも表彰台の上に来なさ〜い!」


 おい、若干オネェ口調戻ってるぞ。

 まあだが、その後押しのお陰で神無も表彰台に来たわけだし、深くは追求しまい。


「も〜、いきなりでビックリしたよぉ……」

「まあまあ、リクくんがミドリいなきゃ表彰状は受け取れないっていうからさ!」

「そんな事は言っていない。…まあただ、今回のMVPは、替えのロードを持って来ていた神無だからな。表彰台に登れないのはおかしいだろ。まあ後……そういう理由除いても、チームメイトなんだからな。全員いなきゃダメだろ」

「……うん、ありがとう」


 ちょっと照れ臭そうに神無が笑った。

 そんな神無を見た御影も微笑む。きっと、俺も……。


「じゃあ改めて!優勝おめでとう‼︎」


 表彰状が差し出され、俺達は目線で合図をする。

 同時に表彰状を掴み、そして――上に掲げた。


 その瞬間、今日一番の歓声が、会場に響く。

 なんだか、悪くないな。

 共に闘った仲間。ゴールを競ったライバル。他人だが、歓声をくれるギャラリー…。


 ああそうか。もしかしてじゃないな。もしかしなくても俺は今を、楽しいと感じていたんだな。


 胸に掛かっていた鎖が、粉々に弾け飛んだような感覚があった。きっと俺は今、ようやく過去の呪縛から、解放された。


 満面の笑みで手を振る御影と神無。幸せそうな2人に挟まれ、最高の結末を迎えた春生小屋エンデューロは、こうして幕を閉じた。


春生小屋エンデューロ、完結です!

次回ちょっと時間飛びます→

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