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一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。  作者: 沼口リオ
第1部 第五章
19/29

春生小屋エンデューロ《ハーレム》2

 スタート地点は既に多くの選手で埋め尽くされていた。

 色とりどりのジャージが目につく中、見覚えのあるジャージはかなり前にいることが分かった。

 紫をメインカラーとし、赤の線が縦横無尽にジャージ表面に描かれてる独特のイラスト。その姿はさながら蛇を体に巻きつけているようだ。


 魔王子(デモニック・プリンス)の名に恥じない見事な禍々しさを醸し出したオリジナルジャージを身に纏い、東条達が堂々と横一列で構えていた。


 後ろからでも分かるほどの威圧感、強さ、決意。レースになると、ここまで上がるものなのか。

 俺は目を動かさず、ただじっと東条達を見つめる。おそらくだが、このレースで一番厄介なのは東条達だ。

 正式なチームでの参加である事は勿論、戦績の良さもこの集団の中では群を抜いているだろう。

 気づいている奴は気づいている筈だ。別格が1人いると――。


「どうしたんだい?顔が強張ってるよ?緊張したなら人という字を手のひらに書いて飲み込むと良いって……おばあちゃんが言ってたよ!」

「絶対お前のばあちゃんは言ってないだろ」

「な⁈なんでバレたの⁈王道なセリフを完璧に決めたのに!」


 オーバーリアクションで不安定な姿勢になる御影。ロードを跨いでいるという事もあり、少々危ない体勢だ。


「間があったからな。あと、危ないぞ、身体をちゃんと安定させろ。レース前に落車とか、縁起悪いったらありゃしないだろ」

「ははは そうだね!まあけど、自慢じゃないがボクはバランス感覚には秀でてるからね!ここでもレースでも滅多には転けないさ!」


 自信満々に御影が胸を張り、それを叩く。

 妙に偉そうなのが癪だが、それより。


「なあ御影、お前ってもしかして――」


 と、言いかけた所で、僅かなノイズ音と共にスピーカーから爆音の音楽と人の声が聞こえてきた。


『さあ!時間となりましたー!遂に、遂に春生小屋エンデューロ、カテゴリーハーレムのレースがスタート致します〜‼︎実況兼解説はこの私、中村ジュリアンが務めさせていただきます〜ん!』


 男…だよな?声的に。


「あ、いよいよだね!」

「…そうだな。にしても、何だか実況者の喋り方変じゃないか?」

「ああ、ジュリアンさんって、有名な実況者なんだけど、ヒートアップしていくとオネエ口調になってくんだよね〜…多分既に何レースか後だからテンション高いんだと思うよ」

「変な人もいるもんだな」

「ちょ、直球で酷いなぁ」


 苦笑いをする御影だが、別に俺は酷いわけではない。素直なだけだ。

 まあただ、素直故に他人を泣かせた記憶は多々ある。特に幼稚園から小学校。

 幼き少年少女たちの恋路に少し口を挟んだ結果、クラスが崩壊しかけた事があった。あれは俺の中でも消したい黒歴史上位の出来事であるのは間違いないだろう。


「はぁ……」

「え、なんか既に疲れてる⁈なんでいきなりやつれたの⁈」

「いや、思い出しやつれだ。気にするな」

「なにそれ…ま、まあ気張っていこう…!」

「…ああ」


 さて。


『――それでは、カテゴリーハーレム、スタート合図…お願いしまーす‼︎』


 その言葉と共にビンディングシューズをハメる音がそこら中から聞こえてくる。

 俺と御影も同様にペダルとシューズを合わせ、戦闘準備を完了――。


(パァァァン‼︎)

 と、運動会定番のピストル音と共に選手達が一気にもう片方のビンディングシューズもペダルにハメる。


 ――レース…スタートだ。


「行くよ!」

「ああ、作戦通りに」


 一気に加速し、前についていく。

 先ほどまで五月蝿く聞こえていた音楽はもう聞こえない。聞こえるのはギアチェンジの音、ホイールの音、タイヤの摩擦音、その全てを合わせたロードノイズ。そして、御影の声のみ。


 停止状態、時速0km/hから一気に時速は40km/h以上に上がった。

 まず始めの弱者振り落とし区間だ。ここでメイン集団につけなければ勝機はない。


「リクくん、もうちょっと前行こう!ミドリの予想通りだ!」

「了解した」


 風除けを使いつつ、前に進む御影に続き、俺も加速する。

 確かに、神無の言っていた通りだ。



『――最初の加速から、集団は幾つかに絶対分かれる。チームとして信頼が無い以上、他の選手達は序盤から本気を出せないからね。だから、出来るだけ前の集団に、特に東条くん達と同じグループに入るように…!』



 神無の予想通り、集団は既にバラけ始めていた。

 多くの選手は先頭集団にいるが、その後ろには中規模集団が二つほど出来ていた。


「とりあえず、この集団の様子を見よう!ここが一番速い」


 後ろを振り向き、御影が言ったことに対し、俺は短く首を縦に振る。

 レースを支配する絶対的な選手の塊、“メイン集団”。ここに留まり、敵選手の動きを見ながら神無の指示を仰ぐのが俺達の作戦。


 しかし“逃げ”と呼ばれる、逃げ切って勝とうとする選手が現れた場合、人によっては直ぐに追わなければならない。

 ちなみに、ここで言う『人によって』というのは、無論東条達の事だ。

 あいつらが逃げたら、その規模によっては追わなければいけない。

 神無の予想では、単独チームで逃げる事は無いということだが…逆に、他のチームと協力して逃げられては、非常に厄介だ。それだけは阻止したい。


「東条くん達、結構前にいるね。メイン集団をコントロールするつもりかな?」

「どうだろうな。まあ、コントロールにせよ、逃げるにせよ、誰か他の選手とあいつが会話を始めたら要注意だ。その場合、おそらくだが…動く」

「だね。今の所は何も無い感じだけど…そういえば、桜ちゃんが東条くん達より少し後ろにいるね」

「ん?あ、ああ、本当だな。脚を休めるため…か?そういえば山里の実力は前回見れなかったからな。もしかしたら山里をエースとして今回は行くのかもな」


 てか、いつから桜ちゃんなんて呼ぶようになったんだ?ちょっとビックリなんだが。一瞬誰のことか分からなかった。


『さーて!そろそろ選手達が一周目を終え、スタート地点へと帰ってきます!現在、グループは三つに分かれており、どの集団にも動きはありません!このまま硬直状態が続くのかー⁈』


 どこからともなく聞こえてきた陽気な声に、俺は周りを確認する。と。


「なるほど、実況用のスピーカーは色んな所に配置されてるんだな」


 スタッフの横に特大スピーカーがセットされているのが分かった。耳が痛そうだが、大丈夫だろうか。

 いや、今はそんな事はどうでもいいのだが。問題は、誰が何をするにせよ、相手にはそれが筒抜けという事だ。


 スピーカーを通し、実況者が垂れ流す情報は、常に選手の耳に入る。これは、逃げるにせよ集団にいるにせよ、不利であり有利なシステムだ。

 逃げれば集団の動きが手に取るように分かり、集団にいれば逃げとの差が分かる。


 もしかしたらこの実況も、意外と使えるかもしれない。


『さあ、まずはメイン集団!先頭を引っ張るのはゼッケン番号2238のチーム《春生小屋r13》の選手達‼︎このチームはランダム参加で組まれたチームみたいねぇ…運命の出逢い、レースで芽生える愛の形…いいわねぇ〜‼︎』


 ん?なんか実況が聞こえた直後から速度が落ちた気がする。実況のせい…か?


『あらぁ?速度落ちちゃったー⁈私がキスしてあげるから、頑張ってぇ〜。ん〜ちゅっ!』


 うぐ……あ、実況のせいだ…。


「うぉぉ…精神的ダメージが…」

「ジュリアンさんは選手クラッシャーの異名を持ってるからね。無意識の内に選手にダメージを負わせてくるんだ」


 何でそんな奴雇った。てか、更に速度が落ちてるような。


『はいはい、頑張って〜!第二集団近いわよ〜!』


 そして実況は続いていく。


 実況を聞くのをやめる選択肢を取ったのか、少しだけ速度が戻ったが……なんか皆んなやつれている。特に男。


 まあ、俺も実況を聞くのは遠慮しておこう。なんていうか、脚より先に精神が終わる。


「実況は右から左に流そう…うん、そうしよう」


 どうやら御影も同じことを考えているようだった。


『さて、次は第二集団!先頭を牽いているのは――』


 続いて第二集団が餌食になっていく。


「ん?待てよ」

「どうしたの、リクくん?」

「……実況、やっぱり聞いた方がいいかもしれないな」

「え、ええええ⁈」


 御影が驚愕の声を出す中、俺はある可能性、そして作戦を思いついた。

ただ一言。

この章、部分がメッチャ多くなりそうです……。

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