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一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。  作者: 沼口リオ
第1部 第五章
18/29

春生小屋エンデューロ《ハーレム》1

 


 6月21日。ついに春生小屋エンデューロの日を迎えた。


 朝早くから会場へと来ている俺達は、飽きるほど乗ってきたローラー台に今も乗っていた。


「か、風が欲しいぃ……」

「アップなんだから我慢しろ。それに、直ぐに風には当たれるさ」

「うわぁー!待ちきれないよー!ミドリまだかなー?」

「まあ、気持ちが高まるのはわかるが、神無が戻ってきてもレースはまだ始まらないぞ?」


 俺達がアップをしている間、神無はゼッケンや計測器を取りに受け付けに出向いていた。そろそろ帰ってきてもいい時間だが……。


「あ、帰ってきたよ。ん?1人じゃ無い。あれは…東条くん達かな?」


 御影と同じ所を見ると、白い袋を肩にかけた神無と、東条、山里、高畑の3人チームがこちらに歩いてきているのが分かった。

 俺はローラー台とロードの上から降り、一歩前に進む。


「はい、桜島くん。これゼッケンとか諸々が入った袋ね。それと…」


 神無は俺に袋を渡すと、視線を東条へと向ける。その合図を受けた東条が勢いよく頭を下げた。


「先日はすみませんでした!興奮状態だっとはいえ、大変な無礼をしちまいました。ほんっと、すんません!」

「シンラ先輩?所々教えた敬語と違いますよ?アレほどちゃんとしてって言ったのに…」

「ま、マジィ…?」

「マジです」


 何やら打ち合わせをしていたらしく、計画通りに謝れなかった東条を見て、山里が額に血管を浮かび上がらせている。

 後輩だろうが、なんというか姉御みたいだ。


「頭を上げてくださいよ、おやっさん」

「あれ?なんかのドラマで聞いたような…」


 顔を上げながら東条が不思議そうに首を傾げた。

 照れ隠しなんだ、察してくれ。


「俺は無礼だとは思ってないし…どちらかと言えばこちらが無礼をしたと思っている。…すまなかった」

「い、いや!アレは完璧に俺に非があるし…ですよ!ほんとすんません…」

「敬語」

「ひっ!」


 山里に耳元で囁かれ、顔を青くする東条。


「いや、いいよタメ口で。その方がこっちも楽だ。俺になら、な?」

「そ、そうか?ま、まあ本人の許可も取ったし!そうさせてもらうぜ」

「ああ。それと……この間は舐めたマネして怒られたが……」

「ほ、本当に…怒鳴ってすんませんした…」


 いや、あれは怒鳴っていい事だ。それに…東条のお陰で大切なことに気づけた訳だしな。


「いいんだ。だけど…いや、だからこそ今回のレースは、全力で行かせてもらう。絶対に勝つから、そのつもりでな?」

「――!…ははっ、そりゃ厄介だ」


 俺の決意を察したのか、苦笑いながら、満足そうに東条が笑う。

 やっと対等になったような…そんな気がした。


『――えー…カテゴリー《ハーレム》に出場の選手の皆様、スタート20分前となりました。お手洗いなど、直前は大変混雑致しますので、計画的にご利用ください――』


 定期のアナウンスが流れてくる。さて、そろそろ準備しなきゃな。


「じゃあ、俺達はこれで!レース、お互い全力でやりあおうぜ!」


 そう言い、東条が拳を俺に突き出す。それに俺も自分の拳を重ね。


「ああ。全力で…正々堂々だ」


 そう応えた。


 一旦東条達と分かれた俺達は、もう直ぐ始まるレースに向けて、準備を開始した。


「ゼッケンは私が付けるから、そこに座ってて」

「分かった」


 神無の指示通り俺は地面に腰を下ろし、おとなしく固まる。


「そういえば、ゼッケンって何番なんだ?」

「えっと、私達のチームは2222番だね。いい並びだけど…2の推しがそんなに強いと…」


 2位を思わせる。

 そう言いたいんだろう。しかし、言ったら現実になりそうなので言わない。一種のジンクスだ。


「なんか2位になっちゃいそうな数字だね〜」


 御影がなんのためらいもなく言った。

 こいつ、言いやがったよ。ジンクスもなにもあったもんじゃねぇ。

 俺は能天気な御影をジッと睨む。と。


「な、何で二人ともそんな怖い目でボクを見てるの…?」


 どうやら神無も御影を睨んでいるようだった。



「はい!付け終わったよ。センと交代ね」

「ああ。ありがとう」


 立ち上がり、御影と場所を交代する。


「リクくん、これ持ってて」

「ん?ああ」


 そう言って俺が受け取った物。それは、大会の注意事項や参加者が載っている冊子だった。

 そういえば、スタートリストとか確認して無かったけど、どれ位の人が参加しているんだろうか?

 冊子を開き、カテゴリーハーレムの欄へと目を移す。



 ・参加人数 80人 ゼッケン番号2220番〜2256番



 結構な人数だな。


 冊子を見るに、ランダムでペアを組んでハーレムカテゴリーに参加するなんてのもあるようなので、おそらくそれを利用しての参加者が多いんだろう。

 チーム名を見ても、運営が決めたであろう適当な名前が多い。元から組んでいるチーム名は……


 《デモニック》《カミカゼ》《ゴールドムーン》位…か。

 デモニックは…東条達、カミカゼは知らない連中だが、このゴールドムーンってのは……。


「なあ、何で俺らのチーム名がゴールドムーンなんだ?」

「んー?可愛いからっ!」


 見事なスマイルで応える御影。いや、答えにはなってない。なんで俺らのチーム名が黄金で月なんだ?


「チーム名の由来ってなんだ?聖月大学だからか?んにしたってゴールドって…」

「いやぁ、セントムーンとか色々考えたんだけど。それよりも、一位になれるように願いを込めて“金”ってのを入れた方がいいかなーって!金って一位っぽいでしょ?」


 確かに、一位の色は何色か聞かれたら金って感じだけど…。ロードレースだと黄色ってイメージが……まあ、似たようなものか。


「……もしかしてダメだった?」

「いや、いいよ。自分で言うのも癪だが、俺にはネーミングセンス無いから」

「そうなの?まあ、なら良かった!」


 照れるように頭をかく御影。


「動かないでよセン〜。まあ、今終わったけどさ」

「ありがとうミドリ〜」


 そう言い、御影が立ち上がる。


「とりあえずこれで準備は完了か?」

「いや、もう一つ大切な物があるよ。…はい」


 神無が袋から黒い布のような物を取り出す。タイプは二つあり、青と赤のマークがそれぞれされていた。


「これは?」

「計測器がついたバンドだよ。足首に付けるんだ。これが無いと走ってる事にならないから、ちゃんと付けてね?青が男性の桜島くん、赤が女性のセンのだよ。性別を区別するための色だから、間違えないように」

「おう」

「うん」


 神無からバンドを受け取ると、端がマジックテープになっているのが分かった。なるほど、こういう計測器もあるのか。

 初めてのレースでは計測器は自転車に付ける物だったので、こういうタイプは初めてだ。


「あ、ちなみに。青のバンドを付けてる人が赤のバンドを付けてる自分のチームメンバーより先に……一番でゴールするとそのチームは失格だから。まあ、大丈夫だとは思うけど、気をつけてね」

「なるほど。ハーレムカテゴリーの為の物なのか。確かにこれなら不正は出来ないな」


 俺の言う不正とは、女性を男性が牽いたままゴールするというものだ。一番にゴールした女性のタイムが成績に反映されるならこれでもいいが、ハーレムカテゴリーはあくまで女性がエースというカテゴリーだ。

 なので、そういった行為をさせ無い為に、計測バンドなどの対策がされているんだろう。


「うん。あ、あと補給食と…ボトルね!切らしたらピットに来てくれればいつでも準備はしてるから、任せて!」

「ああ、分かった」


 そう言い、補給物資を受け取る。ボトルはボトルケージに、補給食は背中のポケットに入れる。

 ロードレースは試合時間が長い。なので、エネルギーを切らさないよう、道路上で食事を摂る必要がある。

 だからロードレーサーはサイクルウェアのポケットに様々な食べ物を入れて走るのだ。

 ある人は羊羹、ある人はグミ。バナナを入れて走る人なんかもいる。それほど補給は重要なのだ。


 そして、元から持っていた分が無くなったら、更に補給物資を受け取らなくてはならない。今回はピットという、機材交換や、補給物資受け取りエリアがあるので、そこに行けば補給食が得られる。


 ちなみに、今いるのはピットエリアの直ぐ近くだ。


「そういえば、ずっと気になってたんだが、その黒い袋はなんだ?ピットに持っていくっぽいが…」


 俺は神無の横にあるモコっと膨らんでいる袋を指差す。かなり大きい。子供でも入れそうなほどだ。


「ああこれ?……秘密兵器だよ…」


 そう言い、神無が不気味な笑みを浮かべた。

 ううむ…深く聞くのは危なそうなので、詮索はしないでおこう…。


『(ピピッ)――カテゴリー《ハーレム》に出場の選手の皆様、スタート10分前となりました。スタートラインに集合して下さい。繰り返します、カテゴリー《ハーレム》に出場の皆様、スタート10分前となりました。スタートラインに集合して下さい』


 アナウンスが流れ、人々がゾロゾロと動き始める。

 俺達も行かなくてはならない。


「じゃあ、行くか」

「うん!ミドリ、ボードで指示よろしくね」

「任せて!」


 そう言い、神無がホワイトボードを何処からか取り出す。なるほど、神無も準備は満タンのようだ。


「それじゃあ、行ってくるね!」


 そう言って、御影が拳を突き出す。それを見た神無が、拳に拳を当てる。


 こちらを見てくる2人。どうやら俺にもやれと言いたいらしい。

 そうだな、こういうのも大切か。


 ――俺も2人と拳を合わせた。


「…勝つぞ」

『お――――‼︎』


 俺の言葉に、御影と神無が元気に…周りに聞こえる位大きな声で叫んだ。




 ◇

遂にここまで来ました…一部もあとちょいで完結しそうです。

マトモなロードレースはこれが最初です。

表現が中々に難しい競技ですが、頑張って伝えたいこと伝えられるように描きます!

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