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一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。  作者: 沼口リオ
第1部 第四章
14/29

追憶と前進1

 神無の言う通り、俺は自転車経験者だった。


 昔、師匠と仰いだ人物からロードのイロハを教わり、師匠と別れた後も1人で乗り続けていた。レースにも一度だけ出たことがある。苦々しい思い出を残した、最低最悪のレース。確かアレは、高校一年生の時。


 師匠はよく、レースに出ろと俺に言った。しかし結局、俺は師匠との特訓中はレースに出ることはなかった。そんな俺がレースに出ようと思った理由は単純。


 家の近くで開催されていたから。



 そんな軽い気持ちでレースに参加した俺を待ち受けていたのは、同じジャージを身に纏ったエリート集団達。

 もちろん全員が同じジャージな訳では無いが、同じジャージを着ている人達はグループとして固まり、1人参加の奴は見当たらなかった。俺以外。


「何だあいつ、市販ジャージで参加するつもりかよ」

「転けなきゃいいけどなぁ、巻き込まれたりしたら最悪だぜ」

「しかも見ろよあのチャリ、アルミ10速だぜ?時代遅れ過ぎんだろ、全国かかってんだぜ?」


 レース用ジャージではなく、何処ででも買えるような市販ジャージを着ていた俺は、明らかに浮いていた。ロードだってカーボンの良いものでは無い、アルミ製の結構安いやつ。

 別に誰に何を言われようが構わないが、あまり気は乗らなかった。

 が。


「君、凄いじゃないか!チームじゃなく1人参加なのかい?何かと厳しいレースになるとは思うけど、お互いに正々堂々、頑張ろうね!」


 やけに笑顔が似合う奴だった。浮いている俺に、周りに聞こえる位の大きさで話しかけ、助けてくれた。


 ――正直、嬉しかった。


 俺はこの時、正々堂々と闘おうと思い、全力を尽くす覚悟を決めた。勝てば全国にいけるような大型レース。俺が勝てる確率は低いと思うが、それでも精一杯頑張ろう――と。



 レースが始まって直ぐ、選手達は逃げ集団と追走集団に分かれた。

 俺は逃げに加わり、最初から積極的に攻めていった。その甲斐あってか、残り1km、追走集団との差は5分にまで開いていた。決定的な差だ。

 逃げ集団から優勝者が決まるであろうこの状況。この時の逃げ集団の人数は3人、俺にも優勝のチャンスは充分あった。


 そして、先ほど助けてくれた彼も逃げ集団にいた。俺はこの時、確かに胸の高鳴りを感じていた。


 残り500mで1人の選手が加速する。親切な彼と同じジャージを着ていたその選手は、彼を全力で牽く。俺を引き離そうと、全力で走る。



 残り200m、今まで牽いていた選手が叫び、同時に親切な彼が飛び出す。それに続き俺も加速をするが、牽いていた選手が壁になり、少しだけ遅れをとる。

 だが、それでも全力で走った。“正々堂々”という彼の言葉を胸に、全力で駆け抜けた。

 接戦、どちらが勝ってもおかしくないゴール前で、先に手を挙げたのは――


 俺だった。


 嬉しかった、喜んだ。きっとあの時の俺の表情は、満面の――笑顔。

 生まれて初めて何かが楽しいと感じた。これなら…自転車でなら、俺は人と共に何かを出来るような…そんな気がしていた。

 だが。


「う…ぐぅ…ぅぅうう……っ…」


 喜んでいた俺の目に飛び込んできたのは、親切な彼が泣いている姿だった。

 俺は分からなかった、何故彼は泣いているのか?正々堂々と闘った、お互いに悔いは無いはずだ。


 チームメイトが彼の元に集い、慰める。そしてその声、言葉が俺の耳に入る。


「あいつ、お前のこと風除けにしてやがったんだよ、だから脚を残せたんだ…!」


 違う、最後は横並びで風除けになんかして無かった。


「市販ジャージなんか着やがって、あいつ、油断させて勝つつもりだったんだよぜってぇ!どっかのチーム所属者だぜ⁈」


 チーム何か入ってない、ジャージだって師匠に貰ったものを着ただけだ…。


「全然牽いて無かったよな、あいつ。ずっと後ろで温存してたんだよ、そんで勝つ時だけ全力でスプリントしやがって、そんな勝ち方で恥ずかしく無いのかねー?」


 俺だって牽いていた。お前らのチームが加速した時くらいだ、前に行けなかったのは…。


 様々な言葉が聞こえる中、最後に、親切な彼の言葉が耳に突き刺さった。


「何で…っ…あんな奴に……!」



 後に分かった事だが、あのレースが全国に行く為の年内最後のレースだったらしい。だから俺と同じ年代の奴らは、必死だった。


 それを、中途半端な俺が奪ってしまった。覚悟もない、何となく参加した俺が。



 何もかも阿呆らしくなった俺は、優勝を捨てた。運営に一言『優勝を棄権します』そう言い残し、即座にその場を去った。

 あちらにしたらいい迷惑だろうが、俺は人を泣かせてまで、表彰台には立ちたく無かった。


 この時からだろう、俺が勝負を嫌いになったのは。

 そういえば、俺が棄権した事により繰り上がりで彼が優勝になったらしいが、全国はどうだったんだろうか?

 良い結果になったならいいんだが。




 俺はあれ以来、レースに出なくなった。自転車を通じて、人と関わることも無くなった。

 1人で乗り、1人で過ごす。孤独が俺の中で平和を保っていてくれた。


 だからきっと、自転車サークルに何て入るべきでは無かった。あの時、もっと強く拒否するべきだったんだ。

 そうすれば誰も…いや、違うな。俺は傷つかずに済んだのに。

 結局、俺は何処に行っても1人なのだ。独りよがりで傲慢。


 そんな俺が、俺は今も昔も大嫌いだ。

今回、短いです。

追憶で終わっちゃいましたが…キリって難しいですね。

何だか眠くて脳みそ溶けそうですけど、映画見てきます…おやすみなさい

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