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とある夏の出来事

タイトルまんまの自転車小説です。

最近人気のロードバイクストーリーを、私の経験や、自転車乗りの願望を基に描いております!

自転車に興味がある方。また、ラブコメが好きな方。是非とも読んでみてください!

 太陽に照らされ、アスファルトが狂気的に熱くなっていく。

 温められたゴムの焦げ臭い匂いが少年の鼻をかすめる。かなり独特的な匂いだ。

 だが、少年はそんな匂い全く気にしない。いや、というよりも気にできない。


 少年は今、全てを投げ捨てるほどの勢いで前にいる自転車を追っていた。同じく自転車に乗って――。


 必死で追う。常に全力。平均心拍数へいきんしんぱくすう最大心拍数さいだいしんぱくすうというくらいに全てを出し切りながら走る。

 だが、少年は前の自転車に追いつけない。何故なら、同じ自転車でも、少年の自転車と前の自転車ではモノが全然違うからだ。


 少年の自転車は少し小さめの青いマウンテンバイク。前にカゴが付いており、ギアは最大6段まで上げることが出来る、約1万円の子供物。

 対して、前にいる自転車は、100kmや200kmを走ることを前提として作られている、カーボン製の“ロードバイク”。前2段、後ろ11段の22段変速が可能な、30万円は下らない本格的な競技用。その違いは火を見るより明らかだった。どちらが速いかと聞かれれば100人中99人はロードバイクと答えるだろう。


 後の1人は、少年だ。そんなことはないと言わんばかりに必死にペダルを踏んでいる。


 と、いきなり少年の前のロードバイクが速度を落とす。――少年は足を緩めない。

 どんどんとスピードを落とすロードバイクは、やがて少年と並走するまでに下がってくる。


「――よお、ボウズ。元気良いなぁお前、夏休みか?」


 同じスピードになり、ロードバイクに乗っている男が少年に話しかける。


 黒いヘルメット、アイウェアに、黒と黄色が織り交ぜられた色のサイクルウェアを装備している。見るからにやっている(・・・・・)男だ。


「……っぐ…っ…は…っは…っ…」


 男の問いかけに、少年は応えられない。呼吸も上手く出来ない。ただただ黒い瞳で、横にいる艶がないマッドブラックの自転車を睨みつけている。


「おいおい、過呼吸になってんじゃねぇか…!止まれお前!……おい!止まれって‼︎」

「…っ…うっ…ぐぅ…っ……」


 男の指示を無視し、走り続ける少年。夏の暑さによる体力の消耗、許容範囲きょようはんいを超えた運動量により、少年は既に限界であった。


 ――それでも止まらない。


「ああ!くそっ!恨むなよ――!」


 言うことを聞かない少年に、男は遂に強行手段に出る。

 男が、自転車を漕ぎ続けている少年の脇腹を掴み、自分の体に引きつける。漕ぎ手がいなくなった自転車はバランスを崩し、車道から歩道へと突っ込み、そのまま道の端の田んぼへと落ちていく。柔らかい田んぼの土が、少年の自転車を優しく受け止める。


「おぉ…田舎の恩恵…」


 少々謎なことを呟き、右手のブレーキで男は自分のロードバイクを止める。左手にはガッチリと少年を掴んでいる。


「おい、大丈夫か?降ろすぞ」


 男が少年を左手から離し、地面へと降ろす。

 と、地面へと足がついた瞬間、少年は崩れるように倒れ込んでしまう。脚が痙攣している。無理のし過ぎで立てなくなってしまったんだろう。


「ったく…こちとら幸せにサイクリングしてただけなのになぁ…」


 男は渋々自転車から降り、ガードレールにそれを立て掛ける。


「はぁ…っ……はぁ……」


 未だに過呼吸になっている少年は、まるで打ち上げられた魚のようにピクピクと身体を振動させている。


「あーあー、限界超えてんじゃねぇかよ。ホラ、これ飲めよ」


 そう言って男は腰を下ろし、少年の口にボトルを近づける。ボトルを握ると、勢いよく水が発射され、少年の口の中に流れるように入っていく。


「あ…ががが…ぐ…っ…――ゲボッ‼︎ゲヘ…ッ‼︎」


 いきなりの液体に、体が過剰反応し、少年が思い切りむせる。だが、むせたお陰で呼吸のリズムは整っていく。


「が…っ……はぁ…はぁ…」

「よし、これでいいだろ。ボウズ、あんま無理すんじゃねぇよ。ロードを子供用のチャリで追っても追いつける訳ねぇだろ」


 呆れ顔で、男が言う。

 その言葉に、少年は男を鋭い眼で睨みつける。


「だれ…っが、決めた…そんなもの…」

「お!マトモに喋れるようになってきたなぁ。まあ、それは良いんだが、ボウズよぉ…普通に考えて無理だろぉ?自転車の問題以前にも、子供と大人だぜ?お前は小学3、4年生ってとこだろ?オレは35になるオッさんだけどよぉ。それでも体力的には小学生には負けないぜ?」


 確かに、男の言う通りである。少年と男では、そもそも体格が違いすぎる。顔つきだって全く違う。

 少年は、幼さ溢れる可愛らしい顔立ちに、ナチュラルに綺麗な黒髪を有しているが、男はそんな若々しい見た目ではない。

 ヘルメットの隙間から垣間見えるボサボサの金髪に、手入れしてない故に伸びているであろう無精髭。アイウェア越しからでも分かるほどに濁った黒い瞳は、その人生の苦労を物語っているようだ。

 そんな男に向かって、少年は言葉を放つ。


「それ…でも…!俺は、1人の奴に…1人の力で……勝ちたいん…だ……!」

「――――‼︎」


 少年の真剣な眼差し――そして、どこから湧き上がるのか分からないオーラの様なものに、男は気圧され、思わずつばを飲み込む。


「なあ、ボウズ…名前、何ていうんだ?」


 頬に汗を垂らし、ゆっくりとした喋り方で、男が問いかける。

 少年は一瞬躊躇するが、おもむろに口を開き、そして――自分の名を言った。


「リク…名前はリクだ。そっちも名乗れよ、礼儀だろ…」

「ははっ。おもしれぇなお前!確かに礼儀は大事だなぁ」


 男は自分の胸の前に拳を作り、歯を見せて笑う。


「オレは竜巻たつまき…竜巻レイだ。よろしくなリク」

「よろしくしたくない。てか、自転車弁償しろよ。田んぼに突っ込んだだろ。帰れないじゃないか」


 リクが淡々と言い、レイはその刺々しい言葉にううむと唸り声を上げる。


「よ、よし!そういうことなら弁償しがてらお前をオレの弟子にしてやろう!」


 突然のどこから来たか分からない『弟子』という言葉に、リクは困惑する。


「いや、やだ。何?弟子って。俺、1人が好きなんだけど」

「はっはっはっー‼︎諦めろ、オレはやると言ったらやる男だ!お前を一流の自転車乗りにしてやるぞ!」


 謎のカッコイイポーズをとりながら、レイがリクの方へと手を伸ばす。

 リクはそれを、汚いものでも見る様に避ける。


「はぁ…もういいんで。バスとかで帰るんで運賃だけ下さい…」


 呆れ顔で接するリクに対して、レイは急に真面目な表情になる。


「リク、お前は良い才能を持ってる。1人が好きなら、オレが1人で生きていける力をやる。だからどうだ?弟子にならねぇか?」


『1人』という言葉に、リクの眉がピクリと動く。


「……弟子になったら…何が変わるんだ?」

「うーん?とりあえず、オレに追いつけるようにはなるかなぁ。なに?興味湧いた?」


 レイが悪戯な笑みを浮かべる。


「別に…聞いただけだ…」

「そっかぁ、残ね――」

「――でも、夏休み期間だけなら」


 レイの言葉を遮るように、リクが続ける。


「夏休み期間だけなら…弟子になってやってもいい」


 リクの言葉に、レイが目を見開いて驚く。まさか承諾してくれるとは思っていなかったんだろう。

 リクは相変わらずレイを睨むように見ているが、先ほどより睨みは緩くなったようにも感じられる。


「おお!弟子よ!我が弟子よ!みっちり鍛えてやるからなぁ‼︎覚悟しとけよぉ――‼︎」


 嬉しそうに無邪気にはしゃぐレイ。どちらが子供なのか分からなくなりそうだ。


「まあ、ほどほどに」


 1人が好きなリクと。


「ビシバシだぜぇー‼︎」


 ある事情から後継者を探していたレイが出会った――


「はぁ…まあ、よろしく師匠・・


 とある夏の出来事であった。



 ◇



「とりあえず帰りたいから金くれ」

「師匠から金を奪う弟子って……」


 ※その後、レイから金を貰ったリクは、無事に帰ることが出来た。


今回は本編の序章として、主人公がロードバイクと出逢ったキッカケを書きました!

次の一章からは大学生までとび、どんどんと物語を展開させていきます!

どうぞこれからよろしくお願いします。 あと、ロードバイク雑談なども来てくれると嬉しいですw

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