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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マルスの平日

作者: 佐伯寿和

――――今日は一段と激しい一日になった。

隣村となりむらが夜の内に近くまで攻めてきていることに気付けなかった。

昨日は一日何もなかったから、みんな、油断していたんだ。

僕たちはすぐに人を集め、隣村の連中を迎え撃つ。もちろん、逆に撃ち殺される友人もいた。


5人、死んだ。多分、向こうも同じくらい死んだと思う。

もう、そんなに悲しむことはしなくなった。連中を皆殺しにできなかったことに腹が立った。

ただ、オンオンと泣く女たちの姿には嫌気が差していた


――――今日は昼時に、1人の子どもの足が吹き飛んだ。

区画外に散らばった地雷の一つを踏んだんだ。

子どもは被弾した直後はまだ息があったけれど、一時間もしない内に死んだ。

「……寒い。」

死ぬ少し前に僕は子どもの最後の言葉を聞いた。


僕らは辺りに気を付けながら区画の線を広げることにした。

子どもの母親がまた、泣いていた。

またお気に入りの場所が一つ、減った。


――――今日は仲間内でケンカがあった。

始めはどちらが強いかで言い争っていたらしい。

僕は間に入って仲裁しようとしたら、片方から一発もらってしまった。

腹が立ったので、そのままもう片方の奴と二人で一方的に殴った。

野次馬やじうまたちがはやてるので、調子に乗って口がけなくなるまで殴った。


その晩、僕は殴った奴の父親から同じくらい殴られた。

立ち上がってみるけれど、しばらく膝の震えが止まらなくて何度か転んでしまった。

口の中に虫が入ったようで、つばを吐いてみると、真っ白な歯が地面に転がった。


――――今日は隣村に先日の仕返しをしに行くことになった。

朝霧に身を隠して、辺りの気配を伺いながら村に近づいていく。

辺りはとても静かで鶏か豚の音しか聞こえてこない。どうやら運が良かったらしい。


奇襲は成功した。僕一人で6人は殺した。

反撃の勢いが強くなって引き返してみると、2人、帰ってこなかった。

多分、僕たちのことはすぐにバレてしまう。帰って僕たちは反撃に備えることにした。


――――今日は肉を食べようという話になった。

午前中はで狩りをする。

日もまだ昇りきってなかったので泉で羽を休める渡り鳥はまだ眠っていて、たくさん仕留しとめられた。

午後は、枝の上で木の実を食べる猿を2匹、蜂の巣を2つ仕留めた。

獲物あいては銃を持ってないので、良い気晴らしになった。


昼からは銃と防御線の点検になった。

日中ひなか銃身じゅうしんが人肌程度に温まるので、手によく馴染なじむ。

見張り台から見える世界は今日も僕たちとのことを無視して澄ました顔をしている。

一通り整備の済んだ夜は寝付きが良い。


――――今日は祭りの日だった。

また、狩りに出かける。

祭りの日はどこの村も戦争をしないのが決まりだった。そのせいか、みんな、余計に殺気立っている。

多分、大物しか狙わないつもりだ。もちろん、僕もそのつもりだった。

運良く、大人のイノシシに遭遇そうぐうする。河でもワニを仕留めることができた。


盛大に、大きな火をした。

火は神様だ。

空を燃やし尽くすくらいに立ち昇る炎の尾は、今まで生き残ってきた僕たちへの賛辞さんじしまない。

僕たちはますます炎に薪をべる。仕留めた肉を天に(かざ)して踊り、()える。


――――今日は穏やかな日だ。

外の連中が攻めてくる様子もない。誰かが地雷を踏んだという話も聞かない。

食料も十分に備えてある。祭りの翌日はみんな疲れ切っていて、怒る気力もない。

太陽がオアシスのように木漏れ日を作り、風が遠くの花の匂いを運んでくる。

……穏やかな日だ。今日は何をしよう。


そうだ、学校へ行くことにしよう。

※マルス=ローマ神話における軍神の名前。また、火星の学術名でもある。

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