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天涯の檻  作者: 川字
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選抜試験2

 選抜試験の行われる闘技場はまるでお祭りのように賑わっていた。年に一度の選抜試験は、城下町の人々にとってお祭りと同じようなものだった。観客席は空席が目立たない程度には埋まり、場外ではちょっとした食べ物が売られていたり、大道芸人が芸を披露していたりしていた。


 サラを始め、試験参加者は鎧を身につけて控室で呼び出される時を待っていた。


 実技試験のルールは明快で、勝てば入隊。それだけだった。ただし戦う相手は、現役の護衛隊だ。王国護衛隊は隊長を一位として、強さだけを基準に全員に順位が振られており、それがそのまま組織の中での立場だった。試験参加者は護衛隊の隊員の中で最も下位の者、今回であれば七位の者と戦い、勝てば入隊が認められる。そして現七位の隊員は、除隊となる。

 一度勝てば入隊ではあるが、相手は百戦錬磨の護衛隊員のため、下手をすれば死人も出る。隊員にしてみても、負ければ自分が除隊されるのだから、ある意味命がけである。


 一般の観客の出入りが落ち着き始めた頃、この国の国王を先頭に王家の面々が特別席に姿を現した。一段と高い席にはなっているが、目隠しなどはされていない。国王の隣に女王、そして姫が一人に王子が一人。兵士が複数と護衛隊隊長が警護にあたっていた。王一族が王家の人々を守るために存在する護衛隊の選抜試験を見届けることは、昔からの習わしになっていた。

 観客らは今か今かと、見世物でも楽しみにしているように盛り上がっている中で、姫一人だけが浮かない顔をしていた。心配そうに、控室の方を見る。


 王一家が席に着いたのを見計らって、進行役が声を張り上げる。


「それではこれより、選抜試験の二次試験、実技試験を執り行います。呼ばれた者から中央へ」


 試験が始まり、一人ずつ闘技場中央へ呼ばれ始めた。サラは意外と冷静に、先に出ていく者たちを見送った。選抜試験の合格者は一人だけで、もしかしたら自分はチャンスを逃すかもしれない。そういう場面だとは思っていたが、なぜか他の受験者に先を越されるイメージがなかった。皆の手が、震えているのを見ているからかもしれない。


 実際に、次々と呼ばれて出て行っては少しの間もなく倒されて不合格となっていった。七位とはいえ、さすがに一般の兵士とは比べ物にならない。恐らく受験者の中には現役の兵士もいると思われるが、相手にさえなっていないといった様子だった。

 サラは少しでも攻略方法を探ろうと試験を見つめていたが、あまりに時間がもたずに皆不合格になっていくのであまり参考にならなかった。パワーとスピード。どちらも備わっているのが王国護衛隊らしいということだけ、わかったところで番号が呼ばれてしまった。


「次、36番」


 まぁ、なるようにしかならんか。ごちゃごちゃと考えるのをやめ、隊員と向かい合う。さすがの圧だった。特別体が大きいというわけではないのだが、雰囲気というか、圧倒されるオーラを持っていた。


「お願いします」


 受験者は次々と入れ替わるのに、七位の隊員は全員に勝つまでか、もしくは負けるまで戦うことをやめられない。さぞ疲れるだろうと思われたが、相手は息一つ切らしていないようだった。

 まずは一人。この一人を倒さなければ次はない。まずはこの目の前の人間を全力で倒す。サラは自分に言い聞かせる。


「はじめ!」


 号令と共にサラは右足で地面を思い切り蹴った。出方を伺っていても仕方がないと思ったのだ。さすがに一太刀目は捌かれたが、サラは攻めるのをやめなかった。


「う、ぉ」


 相手が思わず声を漏らすほど、サラは攻めに攻めた。剣がぶつかる音が激しく響く。斬りかかる、止める、すぐにまた斬りかかる。段々と隊員が防戦一方になっていく。じりじりと後退する。

 このままではまずいと思った隊員が力をこめて大きく剣を捌き、サラをよろめかせようとした。が、サラは捌かれたと同時に自ら後退し、勢いをつけて隊員へぶつかっていった。ほんの一瞬、隊員がどう受け止めるか悩んだ隙に、体を素早く捻って少しの死角へ回り込む。そして剣を振るった。

 ガン、という大きな音をさせて、サラの剣が隊員の脇腹から、切っ先は首まで届くように当たっていた。


「止め!36番、実技試験合格!」


 息をのんで見ていた観衆から、一拍遅れて歓声が起こる。合格の声を聞いて、サラはほっと小さく息をついた。


「引き続き、順位決定戦を行います」


 サラが待つ中央へ、七位の隊員と入れ替わりに六位の隊員が登場した。見た目は同じ鎧で変わりないが、少し体が大きいようだ。

 最下位の隊員に勝った受験者は、そのまま六位、五位と勝ち進めるだけ戦っていき、負けたところで己の入隊後の順位が決まる。実力至上主義の王国護衛隊で、基本的には入隊時の順位はそのまま継続となる。新入りでも、隊長になることだってできるということだった。実際には、最下位の隊員に勝つのも一苦労で、勝ち続ける者はほとんどいなかった。


 できるだけ上へ。サラは密かに目論んでいた。野望のためには、上にいた方がやりやすいに違いない。ちらりと貴賓席を見る。姫の姿が小さく映った。姫がずっと泣きそうな顔をしていることまでは、遠くからは見えなかった。

 姫様が見てる。それだけで、サラには無限のパワーが湧いてくるようだった。そしてそのパワーが誰も想像をしない結果を生む。

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