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洞窟

「……っていきなり、何なんだよ、こいつら!」


「多分、ゴブリンです! ドワーフのなれの果て! だと思います!」


 洞窟に入ってまもなく、一行は土色の肌と真っ赤な目をした小人集団の襲撃を受けた。


「大丈夫、落ち着いて! 彼らはたいして強くありません! 数が多いだけで!」


「それが厄介なんだろーが! 先刻のゾンビ共もそうだったけど!」


 なにせ狭い洞窟の中、戦法もなにもあったものではない。聖剣を振り回すのが精一杯。


「メラッ! 火を吐く時には方向に注意して!」


 警告するリートもまた、ドワーフに創ってもらった短剣を手に、あたりをなぎ払う。ゴブリン相手に水晶の力は勿体無い。


「ピッ!」


 メラも、注意しながら、一匹ずつ着実に炎で仕留める。


「キィッ! キキキキィ!」


 どれだけ経っただろう


 ふいに、ゴブリン達は、奇妙な叫び声を上げるとサッと引き上げていった。


「何?」


 何か来るのかと身構えるアド。


「大丈夫ですよ」


 対照的に、ほうっと、ため息を吐いて座り込むリート。


「連中は『こいつら強い、逃げろ』って言ってましたから」


「……そっか」


 どさり、とリートの隣に腰を下ろすアド。


「流石に、疲れた……。細かいケガもあるし、緑竜の秘薬っての、くれない?」


「はい」


 あらかじめ水に溶かしておいた秘薬を差し出したリートの手が、ふと、止まった。


「ちょっと……」


 眉をしかめて、アドの額に手をあてる。


「……何?」


「アド君、もしかして……先刻の湿地帯で、瘴気にやられましたね?」


「え……そう?」


 自分ではよく判らない。


「秘薬よりも、こちらの方が良さそうですね」


 リートは水晶を取り出した。


治療(ヒール)


 アドの傷が一瞬で治り、疲れと瘴気が消え失せた。


「すげえ……」


 改めて竜の力に目を丸くするアド。


「あ……。リートは? 大丈夫なのか?」


 同じ湿地帯を抜けているのだ。


「私は秘薬で充分ですよ」


「だめだよ! 念のために治療(ヒール)しとけよ」


「でも、これは3回しか使えませんから……」


「後でここぞって時に倒れちまったらどーすんだ。いいから、治療(ヒール)しろってば!」


「……判りました」


 リートは苦笑しつつ、自分に治療(ヒール)を施す……振りをした。そうしてこっそりと秘薬を使う。


(ここぞって時に解毒の手段がなくなる方が怖いですよ)


 と、心の中で呟きながら。






「………出口、まだかなあ」


「まだみたいですねえ……」


 ゴブリン襲撃後、なにごともなく歩きつづける一行。


 しかし流石に、こうも長く洞窟の中に閉じ込められると、だんだん不安になってくる。


「本当にこのまま進んでいいのかな」


「と言われても……。とにかく『島の中心部』ということしか判ってないですし、何よりも他に道ってありましたっけ?」


「……なかったよなあ…。だからこれでいいんだよな……うん……」


「ッ! 止まって!」


 ふいにリートが叫ぶ。


「わたっ、とと……」


 たたらを踏むアド。


「何だよ、いきなり……」


「何かいます。何か……変、です」


「またかよ……って、リートが感じるってことは、また森の民?」


「と、いうより、『植物』です」


「植物? こんな洞窟の奥に?」


「だから……変、なんです。出口が近いっていう気配もないのに……」


「……なるほど」


 そろり、と松明代わりの聖剣を差し出すアド。


 いきなり上から何か落ちてきた。


「!!」


 飛び退く。


 落ちてきたのは、緑色のネバネバした不定形生物。


「植物……いえ、植物性プランクトン……しかも陸棲……ということは、スライム!?」


 あわててアドの聖剣を取り、あたりをぐるりと照らし出すリート。


「うっ……」


 周囲の天井と壁が、一面緑だった。


「これ、全部、こいつら……?」


「触らないで!」


 リートの制止に慌てて手を引くアド。


「彼らは上から落下し、獲物を包み込み、同化吸収します。知能はありませんが、毒を持ったものもあるそうですから、無闇に触れない方がいいです。ついでに言うと、剣は効きません」


「剣が効かない?」


「斬っても、分裂するだけです」


 どさっ


 話し声に刺激されたか、天井から、また一塊、落ちてきた。


「ピィッ!」


 驚いたメラが反射的に小さな炎を吐き出す。


 その小さな炎が壁に触れた途端


「うわっ!」


 それはいきなり燃え上がった。


 あっという間に燃え上がる床、壁、天井。


「危ない!」


 急いでアドを引き寄せるリート。しかし、すでに服の何ヶ所かにチロチロと炎が上がっている。


 安全圏まで後退しながら、バタバタとそれを消す二人。


「ふぅぅぅぅ……。やっと消えた」


「座り込まないで、そのまま立ってて! 服は脱いじゃ駄目ですよ!」


 言いながら秘薬を取り出し、服の上から燃えていた場所にバシャバシャとかける。


「これで大丈夫だと思いますけど……。どこか、痛いとか、ヒリヒリしてるところとか、あります?」


「いや、大丈夫」


 何故かクスクスと笑いながらアドが答える。


「このくらい、魔剣の封印に踏み込んだ時に比べりゃ、可愛いもんだって」


「ああ……」


 言われて思い出す。魔剣はカイラーサ山で炎の精霊(サラマンダー)に守られていたのだ。


「そう言えば、封印(ほのお)に飛び込んだんでしたっけね、アド君は」


「そん時は夢中だったけど、後で流石にきつかったよ、アレは」


「自業自得ってやつでしょう?」


「言うな」


「ピ……」


 おそるおそる、といった様子でメラがアドの目の前にやってきた。


「え?」


「ピィ……ピ?」


「『ごめんなさい。大丈夫?』だそうです」


 リートが通訳する。


「ああ……。なんだ。気にすんなよ」


 笑いながらメラの頭を軽く叩く。


「ンな、殊勝なツラしてんじゃねえよ。似合わねえから」


「ピピッ! ピッ!」


「『せっかく謝ってるのに!』だそうです」


「あははは……と、それよりも、リート」


「はい?」


「もしかして今ので、秘薬全部使わなかったか?」


「あ………」


 そのとおりだった。


「すみません。ちょっと慌ててしまいました」


「ちなみに、水晶に残ってる力って……?」


 黙って水晶を取り出すリート。

 中に残っている光は……


 白と緑、そして銀。


 しかし、銀は最後の呪文。つまりは……


疾風(ウィンド)治療(ヒール)だけ、か。疾風(ウィンド)があと2回で治療(ヒール)は1回、だな」


 指折り数えて一人肯くアド。実際は治療(ヒール)も残り2回だが。


「後は、メラの炎と聖剣が頼りですが……」


「あと、聖歌な」


「それは……どうでしょう?」


「え?」


「なんだか、段々『悪しき気』が薄れているような気がするんです。

 湿地帯の巨大ナメクジや先刻のスライムは、確かに『悪しき気』の影響で姿を変えられたものたちなのでしょうけど………。

 新種の動植物と言われればそれまでのような気が……」


「そう言えば、いかにも浄化が必要そうだったのって、最初のゴーストやらゾンビやらだけだったよな」


「もしかしたらトレントやゴブリンあたりには効いたかもしれませんけどね」


 だとしてもあの場合、呑気に聖歌を唄っているヒマはなかったが。


「ピ! ピーピー、ピーピーピィ?」


「ああ……。そうかも知れませんね」


「何? なんだって?」


「『もしかしたら、卵の中から幻竜様が少しずつ浄化してるのかも』って」


「おぉ! なるほど」


 ポンと手を打つアド。


「何てったって『精霊と妖精と竜を束ねる竜』で、おまけに『創造主』かもしれないっていう相手だ。そのくらいの力、持ってたっておかしくないよな」


「幻竜の『幻』は同時に『現』であり『源』であるって言うくらいですしね。もしそうだとすると……」


「目的地は近いってことだ!」


「……なんか、急に元気になりましたね」


「さ、早く行こーぜ!」


「そうですね。炎も収まったようですから」


 一行は、焼けこげたスライムの残骸を踏み付け、先へと進んでいった。






 何の前触れもなかった。


 先頭を歩いていたアドが、突然倒れた。


 驚いて声をかけようとして、リートは反射的に口をふさいだ。


(……胞子!?)


 目を凝らす。


 間違いない。

 空中に何かの胞子の塊が漂っている。


 半分森の民だからこそ、直前で気配を感じ取れたのかもしれない。


(……メラッ!?)


 あわてて振り向く。


 大丈夫だ。

 メラはリートの様子から状況を察したらしい。

 数メートル後ろに避難していた。


 倒れたアドを抱え、メラのところまで下がる。


『大丈夫?』


『どうやら、麻痺しているだけのようです』


 ほうっと息を吐く。


 アドをそのままそこへ寝かせると、聖剣を借り、胞子を吸い込まないよう、注意深く当たりを照らしだす。


(これは……カビ……?)


 床一面に、見たことのないカビが生えている。


 おそらく、その胞子で獲物をしとめ、己の栄養としているのだろう。


 ふわり、と風が吹いて、新たな胞子の一群が舞い上がる。


 あわてて後退するリート。


(………え? 風?)


 視線をカビの向こうに移す。


(……あった!)


 待望の出口が見えた。


 しかし……


(遠い……。アドを抱えて息を止め、一気に駆け抜ける、というわけにはいきませんね。

 やはり焼き払うしか……でも、メラの炎で、宙に漂う胞子まで全部焼き切るのは……)


 ややあって、リートはメラを呼んだ。


『ナアニ?』


『あのカビを焼きながら出口に向かって下さい。その後ろをついていきます』


『エエ!? ソンナコトシタラ、メラノ火ガ、二人ノ身体ニ、着イチャウヨ?』


『大丈夫です。同時に疾風(ウィンド)を唱えて、風の壁を創りますから』


『……解ッタ。ジャ、行クヨ』


『お願します』


 立ち上がると、右手に水晶をかかげ、左肩にアドを担ぐ。


 ゴォォォォォッ!


疾風(ウィンド)!」


 炎と胞子と風が乱舞する中、一行は出口に向かって駆け抜けた。






「ゴホ、ゴホ、ゴホ……」


 転がり出るようにして洞窟を抜け出した途端、咳き込む。


(まずい……。少し、吸い込んだ……?)


 治療(ヒール)を唱えようとして愕然とする。右手が、動かない?


(もう、末端がしびれてる……。いけない、完全に麻痺したら………)


「……………治療(ヒール)


 どうにか間に合った。


 リートの身体から胞子の毒素が消え失せる。


治療(ヒール)


 続いて、アドにも。


「………助かったぁ……」


 ふはぁっ、と、全身でため息を吐く。


「……にしてもリート? お前、あの時、治療(ヒール)しなかったんだな?」


「あはは……。ま、いいじゃないですか。結果オーライってことで」


「………そりゃそーだけどさ」


「ところで……」


 改めて辺りを見回すリート。


「ここ、どこでしょうねえ」


 洞窟の出口は、一面、乳白色の霧で覆われていた。

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