孤島
ハロウィン仕様と言えなくもない………かも、しれない。(^^;)
「マジ、無茶しやがる……」
「だからそう言ったでしょう?」
「事前説明くらいしろよ」
「そんな暇、ありました?」
「いや、そりゃそうだけど」
言い合いながら砂浜へ降り立つ。
「………なんか、不気味」
さきほどまであれほど晴れていた空が、どんよりとくすんでいる。
「この島だけ靄がかかっているような感じですね」
リートも眉をひそめる。半分エルフである分、気配にはアドより敏感だ。
「なんだか、変な『気』を感じます。油断しないで下さい」
「変な『気』って?」
「すみません、こんなのは初めてで……変、としか……」
「ピィ」
隣でメラも同意する。
「ま、そりゃそーだ。ここは前人未到のアンゴル島、だもんな」
「これが終わったら私たち、伝説の主役になれますねえ」
「詩、創ったら最初に聞かせろよ」
「気に入らないところ、直す気でしょう」
「決まってんじゃん」
いつもの軽口……のつもりが、どことなく生彩にかける。
「なんか、ノリが悪いなあ………」
アドがぼそりと呟いたその時
「ピィーーーーーーッ!」
メラの悲鳴が響いた。
「メラッ!?」
「リ、リート、あれ!」
アドの指差す方から、一足お先に、と飛んでいったメラがものすごい勢いで戻ってきた。その後ろには……
「な……な……何だよ、あれ……」
アドの声が震える。
流石のリートも絶句した。
まず、目に付くのは黒い塊。
実体があるようなないような、黒い気体が、空中にいくつも浮かんでいる。
顔と思しき部分には二つの赤い光。
位置から考えるに、おそらく、目、なのだろう。
その集団の下には蠢く肉体。
いや、屍体だ。
ところどころ、肉が腐り落ち、骨が露になっているものもいる。
人型が多いが、動物もいるようだ。動きは鈍重だが、それがかえって恐ろしい。
こんなもの、リートとて見るのは初めてだ。しかし、推測することは出来る。
「ゴースト……それにゾンビ……」
「な……何だよ、それ」
「ゴーストは、要するに幽霊です。あの、浮いてる黒い奴。『悪しき気』の塊みたいなものです。触れられると、多分、体力を吸い取られます」
「げ……」
「ゾンビは……人や動物の屍体に『悪しき気』が宿ったものです。触れると……多分、病気になると思いますよ。なんせ腐ってますから」
「頼まれたって触れたくねえよ。それより、あれに武器って効くのか?」
「普通の武器でも効くことは効くんですけど……。ゾンビって二つにされても頭切られても動くっていう話で……」
「……………マジ?」
「やっつけるには、それこそ細切れに切り刻まないと駄目だとか……。あ、でも、あなたのは『聖剣』ですから、もしかしたら……」
「……聖剣を聖剣にするのは人の意志って言ってなかったっけか?」
「『信じる者は救われる』って言うでしょう?」
「だ~~~、こんなことなら、月神殿で浄化の術でもならっときゃ……っておい」
「あ」
アドの台詞の途中でリートも気付く。
「「聖歌!」」
二人の声がハモった。
「っしゃあ! 特訓の成果の見せ所だ! ガンバレ!」
「いや、それはいいんですけど、効果を発揮するまでの間の援護、お願しますよ!」
「げっ! 即効性じゃないの?」
「『悪しき気』の程度によります! それからメラ!」
「ピ?」
「今度は炎が効くはずです。思う存分やっちゃって下さい!」
「ピッ!」
「行きます!」
ターンッ!
リートの竪琴が唄い出した。
ゴオオオオオオッ!
それを合図に、メラが空飛ぶゴースト集団に炎を吐き出す。
アドは、リートとゾンビ集団の間に立ちふさがった。
リートの喉から不思議な旋律が流れ出す。
辺り一面に、島に似つかわしくない音が鳴り響く。
と、同時に、小さなゴーストが消えていく。
原形は小動物らしきゾンビが土に返る。
しかし、それでもなお、不死者集団は、のそり、のそりと近付いてくる。
「チッ……」
冷や汗を流しながら、アドが聖剣を抜き放つ。
微かに差し込む光が、刀身の七つの星をきらめかせ、七つの環を生み出す。
「……?」
一瞬、不死者集団が、たじろいだように見えた。
「そういえば聖剣の材料はオリハルコン、黒竜の角、だったな。だとしたら……」
タッと地を蹴り、先頭のゾンビに切り付ける。
「浄化の効果くらい、あってもおかしくねえッ!」
シャッ!
紙でも切るかのようにあっけなく切り裂かれる屍体。
直後に飛び退くアド。
ゾンビは、二つに切り裂かれたくらいでは滅びない。そう聞いていたから。
しかし
「……あれ?」
真二つにされたゾンビはそれきり動かない。
それどころか、見る見るうちに土へと返っていく。
「……マジで浄化の効力、ありやんの」
「ピィッ!」
呆然とするアドに、上空でメラが警告する。
あわてて近付いてきたゾンビに切り付ける。
「よっしゃあ!これならいけるぜ!」
メラも、上空でゴーストを次々と焼き払っている。
しかし
多勢に無勢。
いくら相手の動きが鈍重でも、いかんせん量が多すぎる。
「……くそッ!まだかよ、リート!」
無論、戦闘中にも、中途とはいえ聖歌の効果で姿を消す不死者はいるのだが、はっきり言って焼け石に水。
「うわッ」
土に返る途中のゾンビを踏みつけたらしい。
足を取られ、尻餅をつく。そこへ、別のゾンビがのしかかる!
「…………ッ!」
反射的に目を閉じたその時。
竪琴が、最後の音を弾いた。
一瞬にして空気が変わる。
サアァァァッ、と、清浄な風が吹き抜けた。
風にあたった不死者が次々に塵と化す。
聖歌が完成したのだ。
「大丈夫ですか!?」
リートがアドに駆け寄る。
「…………死ぬかと思った」
アドは、体中でため息を吐いた。
「すみません。時間がかかってしまって」
「間に合ったから許す」
「それはどうも」
苦笑しながらアドを抱き起こす。その右肩にメラが舞い下りる。
「メラもご苦労様」
「ピ」
答える声に元気がない。流石の仔竜も疲れたようだ。
「ケガ、してないですか?」
「ああ」
「ピィ」
一人と一匹が肯く。
「歩けます?」
「ああ。サッサと行こうぜ。こんなとこ」
了解、とメラも鳴いた。
「ちょっと待って」
しばらく歩いたところでふいにリートが皆を止めた。
「何?」
「……何か、います」
「え?」
辺りをキョロキョロと見回すアド。
「枯れた木しかないけど?」
「森の民の気配がします」
「森の民? だったら、別に怖れること、ないじゃんか」
「普通の森の民ならね。でも、ここはアンゴル島です」
「……あ」
「おそらく、『悪しき気』に汚染された者たち……」
注意深く周囲を見回すリート。その視線が一個所に固定された。
「メラ」
「ピ?」
「あの辺りに向かって火を吹いて下さい」
ゴオオオオッ!
了解、の返事の代わりに勢い良く炎を吐く仔竜。
「うわっ! 木が動き出した!」
枯れた木の燃える炎の中で、そこから逃れようと動き出した物体が、数体。
一見、ただの枯れ木のようだが、良く見ると、幹に巨大な口があり、鋭い牙が覗いている。
枝を手のように振り回し、根を足のように使ってずるりずるりと動いている。
「トレントです!」
リートがその正体を看破する。
元はおそらく、己の宿り木と同化した森の民。
宿り木と一体化して、ただの植物としてその生涯を終えようとしていた者たちだろう。
「気をつけて! 枝のような腕で獲物を絞め殺します!」
かつて星船で仕入れた古代の知識だ。
今の今まで無駄と思っていたが、人生、何処で何が役に立つかわからない。
「弱点は!?」
「火!」
アドの問いに簡潔に答えるリート。
「メラ! 一丁派手に頼むぜ!」
アドに言われるまでもない、メラはとっくに戦闘中だった。
「……ま、いっか」
聖剣を引き抜き、手近のトレントに切り付ける。
「え……」
意外に固い手応え。
切れはしたが。
「聖剣で、これかよ。トレントって、恐ろしく固ぇ……」
その横でリートは、水晶をかざし、唱える。
「火炎!」
グオォォォォォォォッ!
成竜の力は流石に桁が違う。
一気に数体のトレントを消し去った。
「火炎!」
次々に灰塵と化すトレントたち。
「でいやぁぁ!」
アドが、ようやく一体仕留めた。
返す刀でもう一体に切りかかるが
「アド、退がって!」
リートの声に、慌てて飛び退く。
ゴォォォォ!
アドのいた場所をメラの火炎が吹き抜ける。
「俺を殺す気かよ」
「ピ! ピィピィ、ピ!」
「『自分の炎の前に立つ方が悪い』って言ってます」
「へいへい……って、まだ動いてるぞ、こいつ!」
あわてて止めを刺すアド。
「詰めが甘いんだよ、お前は!」
「ピィピィ、ピピピピピッ!」
「まあまあ、落ち着いて。どうやら全部やっつけたみたいですから。火炎使い切っちゃいましたけど」
「で、どーすんの? この炎……」
辺り一面、火の海になっている。当たり前といえば当たり前だが。
「消せる?」
「そういえば、竜族の力の中に、雨とか水とかって、ないですね……」
「要するに、無理、と……」
「燃えるものがなくなれば消えますよ。それまで少し待ちましょう」
「それしかないか」
一行は仕方なく、炎を避けられるところまで後退した。
「枯れ木の森の次は湿地帯、か」
「なんか、不健康な場所ですねえ……」
炎が消え、再び歩き出した一行は、ほどなく巨大な湿地帯に差し掛かった。
「こういうところってさ、何やら不健康そうな化け物がいそうだよなあ」
「例えば?」
「う~~~ん、そうだなあ。ナメクジとか、ヒルとか……」
「当たり、みたいですよ、アド君」
「え?」
額に一筋、冷や汗を流しながら、リートの指差す方向に目を凝らすアド。
「うげッ……………」
ぬめぬめ、ぬとぬとした半透明の巨大なナメクジが、湿地帯を埋め尽くしていた。
「こ、こ、ここ、こ、ここ…………ここ渡るのか!?」
「……………渡るしか………ないでしょうねえ…………」
リートもひきつっている。
「あ、メラずるい!」
我関せず、とばかりに、メラは翼あるものの特権で、さっさとナメクジの群れを飛び越えた。
「どーすんだよ……」
「どーしましょうか……。こいつらには聖歌、効きそうにないですしねぇ……」
しばらく考え込む。
「あ……そうだ。この手がありました」
ややあって、ポン、と両の手を叩くと、リートは水晶を取り出した。
「合図したら走って下さいね」
「ああ」
「泥人形!」
泥人形が10体、あらわれた。
「ちょっと足りませんね。じゃ、もう一度。泥人形」
泥人形がまた10体、あらわれた。これで合計20体だ。
『泥人形たち、そのナメクジを一個所に集めて下さい』
人ならざる言語の命令に、黙々と従う泥人形たち。
しかし、相手は唯のナメクジではない。一匹一匹がやけに大きいし、おまけに力も強い。
泥人形20体がかりでも一個所に止めおくことは難しそうだ。
「どーすんだよ」
「大地」
アドの問いに、呪文で答えるリート。
途端に、大地が揺れた。
湿地帯は地盤が緩い。揺れに耐え切れず、亀裂が生じる。
そこへ集められたナメクジたちが落ちていった。
残ったナメクジたちも皆、泥人形に押え込まれている。
「今です!」
リートが声をかけるより早く、アドは走り出していた。
「…………湿地帯の次は洞窟、ですか」
「も………何でもいいけどサ………」
ようやく乾いた大地に辿り着いたと思った途端、現れた洞窟に、二人は揃ってため息を吐いた。
「ダンジョンフルコースってとこですね」
「……? 何だよ、そのダンジョンって」
「あ……いえ、古の無駄な知識ってヤツです。お気になさらずに。それより、中に入ったら、聖剣を抜いてくれますか?」
「え。何か、気配するのか?」
「いえ。あ、いや、何かいるとは思いますけど、とりあえず、松明代わりに」
「あっそ……」
脱力しながらも言われた通り、聖剣を抜いて前にかざす。
一行はアドを先頭に、洞窟の中へと踏み入った。




