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再会

 魔剣は焦っていた。

 望むところになかなかたどり着けなくて。


 だから

 暴走していた


 己の主人に、次々と滅びを与えた。

 「彼」の元へ帰りたくて。


 それしか、方法を知らないから


 引き離されてから、一度、間近に居たことがあった。


 しかし「彼」は、魔剣を拾う代わりに魔剣が貫いた男に駆け寄った。


 その隙に拾われたのだ。「行商人」に。


 だから

 破滅させた。


 そして「護衛」の手に渡った。

 「護衛」は魔剣を自分の村に持ち帰った。


 ほどなく、村は全滅。

 魔剣は「護衛の妹」の手に渡った。


 「護衛の妹」は「ならず者たち」に凌辱され、息絶えた。


 「ならず者たち」は仲間割れを起こし、「兵士」に殺された。


 「兵士」は無差別殺人を繰り返し、「上官」に殺された


 「上官」は剣を差し出すよう「領主」に迫られ、拒んだ挙げ句、「領主」に殺された。


 「領主」は、己の欲望のままに、弱き者たちを惨殺した


 これらはすべて、ほんの4ヶ月(地球歴6ヶ月半)ほどの間に起きたこと。


 偶然にしてはあまりにも血生臭い符号。

 それに係わった人々は、いつしかそれが魔剣であることを感じ取っていた。


 故に

 「領主」亡き後、魔剣は献上された。


 表向きは、和平の品として。

 本音は厄災(わざわい)をもたらすために。


 黄金作りの豪華な剣は、献上品として相応しいものであった。


 だから

 献上されたシグールトの「大将」は、豪華すぎることに多少違和感を抱きながらも、疑うことなくそれを自分のものとした。


 そこからだ


 魔剣の力が空振りし始めたのは。


 魔剣の力。


 それは、人の心の奥底に秘められた黒い欲望を引き出し、増幅させるもの。


 だが、その力が通じないものが、かつて二人、いた。


 一人は、魔導師モルフィス。


 遥かなる昔


 魔剣がまだ地球と呼ばれる星にあった時


 魔剣を封じた稀代の魔導士。


 彼が魔剣の呪力に打ち勝ったのは、修行により得た強き心の力。


 一人は、ルフィーナ。


 今、人の世で白の月神として崇められている女性。


 彼女は、その身体のほとんどが機械(つくりもの)だった。


 俗に言う、サイボーグであった。


 魔剣の力は、その接点である手のひらから、骨肉を伝って全身に広がるもの。


 だから、彼女に魔剣の力は効かなかった。


 骨肉ではなかったから。


 しかし

 「大将」は彼らとは違う。


 修行を積んだ魔導師ではない。

 機械の身体を持つ者でもない。


 ただ、彼には

 彼の心には


 「哀しみ」があった

 深い、深い、そして何故か澄み透った「哀しみ」が。


 だが、所詮は人。


 魔剣の力は少しずつその効力を及ぼし始めた。


 今まで後方にいた「大将」が、いつしか積極的に陣頭へ赴くようになった。


 魔剣は、戦いの場においては常に勝利をもたらした。


 それもまた呪い。


 魔剣は、夜、吸い取った生命の重さを「大将」の上に投げかけた。


 「大将」は、昼の栄華と、夜の地獄に包まれた。


 いつしか

 黄金の剣は、「大将」のシンボルとなっていた。


 そして今

 魔剣は焦っていた。


 何故なら「彼」がすぐそこにいるから。

 いるのに、触れられないから。


 だから

 魔剣はますます暴走した。


 だから

 「大将」は毎晩、苦しんでいた


 味方は皆、剣の威力を大いなる力としか見ることが出来ない。


 誰にも言えぬ、誰にも判ってもらえぬ地獄の責め苦。


 魔剣は

 昼、戦場で多くの生命を絶ち

 夜、「大将」の眠りを殺した






 リートは、シグールトに向かって旅をしながら、様々な方法でレイに関する情報を集めていた。


 シグールトに近づくにつれ、レイの評判が徐々に変わっていった。


 最初は、リートの良く知るレイ。


 『知っているのに何もしないっていう事が嫌い』で『仲間さえ助ければいいのではなく、全員助けたい』と考えるレイ。


 その所為で色々巻き込まれながら『根本的な解決』を目指すうちに、いつしか頼られ、祭り上げられていく状況が手に取るように分かった。


 そんなレイに、『頼まれると否とは言えない』シグルと、陽気なジルが、今も付き従っているのもよくわかった。


 ただ、ティーは同行していないようだった。


 レイが望んだとおり、『家に帰してあげた』のだろう。


 しかし。


 段々と、様相が違っていった。

 『黄金の剣』を献上されたあたりから。


 普段は穏やかだが、戦場では鬼神のよう。

 微笑みながら人を屠る美しい悪魔。


 しかし戦場以外では女性と見まごうばかりの美しく穏やかな人。

 時折、苦し気に顔をしかめる様子もまた麗しい―――






「困りましたね………………」


 情報を整理しながら、リートは小さくため息をついた。


(魔剣は、すでにレイさんのシンボルになってしまっている。『黄金の剣を携えし美しい大将』が戦場に現れただけで、味方の士気は上がり、敵は及び腰になるというほどに)


「ピイ?」


 心配気に覗き込むメラの頭を撫でながら、リートは思考を巡らせる。


(今、魔剣をレイさんから引き離すと、せっかくまとまりかけているシグールトが、再び分裂しかねない…………)


 レイを、魔剣から解放しなくてはならない。あれはいずれ彼に滅びをもたらすものだから。


 魔剣を、レイから引き離してはならない。ようやくまとまりつつあるこの地が再び乱れかねないから。


 矛盾する命題。

 回答はあるのだろうか…………。


(とにかく今は、レイさんに会う方が先ですね………)


 リートは、シグールトに向かって歩きつづけた。






 だが、再会は思いがけない場所で果たされた。


「リートさん?!」


 シグールトへ向かう街道沿いの宿。


 メラを肩に乗せ、酒場で稼ぎつつ情報収集をしていたリートは、呼び声に振り向き……そして驚いた。


「…………レイさん?!」


 彼はもう、少年ではなかった。

 別れてから約5年(地球暦で8年)の月日は、彼を立派な青年にしていた。


 変わらないのは、その美貌。


 否、変わったというべきかもしれない。より美しく、より妖しく………


『地上に降りた美神ユーファ』


『絶世の美女と見まごうばかりの美形』


『類まれなる美貌の持ち主』


 全て、レイに与えられた形容詞だ。

 ただ……………………


(痩せましたね)


 というより、やつれている。


 だが


「お元気そうで何よりです」


 レイの後ろに、彼の部下らしき者たちがいるのを見て取り、リートは何も気付かぬ振りをした。


 そう。彼は今、「大将」なのだ。シグールトを統一するであろう者として、名を馳せる者。


(ここで話をするわけには…………。まあ、焦る必要はないでしょう。後でゆっくり話ができるはず)


「……………その肩のは、何ですか?」


 レイはレイで、別の事が気になるらしい。


「竜のように、見えるんですけど………」


 否定することを暗に期待している口調。だが


「赤竜のメラです」


 否定など、するはずがない。事実なのだから。


「小さいですが、火を吐きますので危ないですよ」


 ボッ……


 言ったそばから、ご覧のとおりとばかりに得意げに火を吐くメラ。


「…………あ……髪が焦げてる」


 リートの髪が一筋、ちりちりと焦げていた。


『言ったでしょう?むやみやたらに火を吐かないで下さいって………』


『ダッテェ……。アノ人、信ジナイ………』


『そんなことありませんよ』


『手ッ取リ早イ物的証拠、ダヨ』


『それはそうですけど』


『メラ、竜ダモン』


『わかってます。とにかく、何度も言うように、むやみやたらに火を吐かないで下さい』


『ツマンナ~~~~~~イ』


『……………………』


 リートは、無言でメラの頭をピシッと叩いた。






「少し、よろしいですか?」


 その夜、リートはレイの泊まっている部屋のドアを叩いた。


 ちなみに、メラは自分の与えられた部屋に置き去りにしてきている。

 連れてきたところで話がややこしくなるだけだから。


「どうぞ」


 応えは早かった。寝ていなかったのだろう。

 否、寝られないのか……?


「失礼します」


 部屋に入りながら、リートは気配を探った。


(………………ここには…………ない?)


 月神殿で感じたあの気配。

 魔剣の『気』を、感じない………………。


「ちょっとお聞きしたいことがあるのです」


「何でしょう?」


風説(うわさ)によると…………レイさんは『黄金の剣』を持っているそうですね」


 ビクンッ、とレイの身体が震えた。


「…………………ええ、持っています」


 低い、小さな返答。


「でも、今日は、持ってきていない」


「…………………?」


 レイは、何故それが判るのだろうかという疑問を顔に貼り付けながら、答えた。


「今回は、レジイクとの和平交渉が目的でしたから………」


 戦いの象徴は無用、と言いたいらしい。

 が、本音はおそらく別のところ。

 リートはそこへ、直接切り込んだ。


「その剣は、あなたに悪夢をもたらしてはいませんか?」


 ハッ、と顔をあげるレイ。


 リートを見つめるウルトラマリンの瞳に、たちまち涙があふれ出る。


「……………どうして…………どうしてそれを…………」


 台詞の影に、驚きと、そして安堵があった。

 やっと、判ってもらえると………。


「まさか」


 その様子で、レイがどれだけのものを耐えてきたのか、どれだけ孤独であったのかを知った。


「ずっと独りで、耐えてきたんですか? シグルにも………シグルにすら、何も言わずに?」


 レイは、コクンと肯き、次に激しく首を横に振った。


「………………言えなかった………………言えなかったんです、旦那にも。いえ…………………旦那………………………だから……………」


 台詞の後半は鳴咽にかき消された。


「教えて下さい」


 一時の激情が過ぎ去り、落ち着くと、レイは尋ねた。


「あの剣は、何なのです?」


「魔剣です」


 簡潔に答えると、リートはその場に座り直し、語り始めた。

 己の出生のことも含め、全てを。


「アドリアル・ジ・フロイデ?」


 話の途中、レイは聞き覚えのある名前にわずかに眉をあげた。


「ご存知ですか?」


「確か、ジルの副官が、そんな名前でした」


 ある夜、剣の悪夢に(さいな)まれ、気晴らしを求めてジルの部屋を訪れた時のこと。

 部屋に、ジルの他に茶色い髪の青年がいた。


 俺の副官だと、ジルに紹介されたその青年の名が、確かアドリアル・ジ・フロイデ。


「副官? ジルって………あのジル君ですよね?」


 リートの記憶にあるジルは、幼い少年。

 己の身を護ることもままならず、盗賊の襲撃の際、身を竦めていた姿。


「………ええ。あのジルですよ」


 リートが何を思い出したのか判ったのだろう。レイは、くすっと笑った。


「最初は確かに私の弟分、ということで色々と妬まれていたようですが、最近ではジル自身の能力を周りが認め、出世頭として頭角を現わしていますよ」


 言外に、もう昔のジルではないと告げる。


「その、副官ですか。アドリアルが………」


 ふいに思いついた。


 矛盾する命題の回答を。


 レイを、魔剣から解放しなくてはならない。

 魔剣を、レイから引き離してはならない。


 だから。

 アドリアルに、レイの傍で、魔剣を振るわせる。


「………そうですね」


 リートの提案に、レイが肯く。


「魔剣自身も、アドの元に返りたがっているのなら………」


 これでようやく、自分も解放されると、表情が語っていた。


「ただ、理由付けが、少々……面倒ですね」


「ああ………………そうですね」


 リートも苦笑する。


「アドリアルに、何か手柄でも立ててもらいましょうか?」


「ううん…………。宝剣を与えるほどの、ですか? 難しいですねえ…………」


 悩みながらも、しかしレイの表情は明るかった。

 光明を見出し、心が軽くなったようだ。


 夜が、いつのまにか明けようとしていた。

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