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悔恨 ―― フヌウの語る話 ――

少し短いので、2話同時更新です。

 あの日私は、かすみ網にその羽を絡ませてしまったフェアリーに助けを求められました。


 ですが私は、木の上に登る足を持ちません。

 網から羽を外す手も持ちません。


 そこで通りすがりの若者に助けを求めたのです。


 彼――アドと名乗りました――は、そのフェアリー、ピピの口の悪さに当惑しながらも彼女を助けてくれました。


 そして、礼をするというピピに向かって言ったのです。赤月神(ゼルトラン)の剣が埋められているところまで案内してくれと……。


 ピピは尋ねました。何故、赤月神(ゼルトラン)の剣など欲しがるのか、あれは、魔剣だと。


 アドの答えはこうでした。


 自分は『白月神(ルフィーナ)の年、赤月神(ゼルトラン)の月、白月神(ルフィーナ)の週、赤月神(ゼルトラン)の日』の生まれ、つまり、二つの月の重なった時に生まれた者であると。


 こじつけは承知。だがやってみるだけやってみたい。自分が、剣の力に屈しない、強き心を持つ者であるかどうか試してみたい。


 ピピは、アドを魔剣の『封印されているところまで』ではなく、『その若者が行けるところまで』案内する、と約束しました。


 私も、彼らについていきました。その若者に興味を持ったのです。


 若者は、何やら普通とは違いました。


 彼は、「好かれやすい性質」とでもいうものを持っていました。

 それは、人だけではなく、人以外のもの、エルフや、我々のようなこの惑星に元々生息するものたちにまで及ぶほどの力を持ったものでした。


 興味を持ったのはその所為です。

 果たして、彼のその性質が、生命持たぬものにまで及ぶのかと。

 人やエルフだけでなく、エルフの創りしものにまで及ぶのかと。

 もし及ぶのであれば、ならば彼こそが魔剣を支配できる者ではないかと。


 魔剣に伝わる詩はご存知でしょう?

 過去、それを支配せし者はおらず、ただ、支配さるるのみ

 そを支配せし者、現るる時

 その時こそ、魔剣の呪い、解かるるなり

 そは、魔剣ティルフィング


 魔剣の呪いは、魔剣を支配できる者でなければ解くことは出来ない。

 私は、期待したのです。彼こそが、魔剣を支配できる者ではないのかと。


 ………妙な期待など……せねば良かった……。


 フェアリーとアドだけであったならば、魔剣の場所まで行き着くことは出来なかったのに……。


 私が……結局私が、彼を魔剣の封印場所まで連れていってしまった……。






 そう、結局彼は魔剣を手にしました。


 深き谷を越え、制止する炎の精霊(サラマンダー)を振り切り、燃え盛る炎の中へ飛び込み、語りかけました。赤月神(ゼルトラン)に。


 俺に剣を渡せ、貴様が持っていても仕方ないだろう、その剣、俺が操ってみせる……


 その声が、魔剣に届きました。

 ええ、ゼルトランではありません。


 ゼルトランはただの人間。

 とうの昔になくなったあの男に、これが届くはずもない。

 そもそも、彼の封印など、とうの昔に効力を失っている。


 封印をしているのはサラマンダーの力。

 そして、人の世に飽き、ただ眠りたいという魔剣そのものの意志。


 だが。

 魔剣は興味を持った。

 自分を操って見せるというその少年の想いに。

 

 そして魔剣は、自ら目覚め、その姿を、アドの前に現わしたのです。


 私はサラマンダーに語りました。

 炎を収めよ、剣が己の主を選んだのだと……


 サラマンダーは、アドを焼き尽くす代わりに、炎を収め、そして告げました。

 持ってお行き、剣と共にそのさだめ宿命を、と。


 そしてアドは、そうしたのです。






 若者は、魔剣を手にカズィールへと向かっていきました。

 フェアリーのピピは、面白そうだからと彼についていきました。


 私は二人を見送ると、月神殿に向かいました。

 アドから、彼がそこで育ったこと、彼を育てたのが私の知り合いの白月神官(ソム・ルフィーナ)であったことを聞いておりましたので。


 アンディ――その白月神官(ソム・ルフィーナ)の名です――は、月神殿の裏手……そう、この場所で、鉄笛(てってき)を吹いていました。


 彼は月神殿始まって以来の逸材、次期白月大神官(ソムリア・ルフィーナ)と言われていました。


 彼は何故か、生まれながらに『人ならざる言語』を操ることができたと言います。


 それ故に、母親が亡くなった後、月神殿の白月大神官(ソムリア・ルフィーナ)に引き取られたと聞いています。


 彼はその他、言霊(ことだま)が……言葉に宿る不思議な霊威を用い、言葉どおりの事象をもたらす技が、得意でした。


 私が彼と知り合ったのは、ある日、ここでいきなり『人ならざる言語』で語り掛けられたからです。


 以来、私は彼の穏やかで暖かな人柄に惹かれ、時々ここに……この木の下に来て、彼と話をするようになりました。


 私は、彼がアドを育てたことを確認すると、伝えました。


 アドがティルフィングを手に入れた、否、ティルフィングの方が、彼を選んだと言うべきだ、と。


 いずれにせよ、ティルフィングとその宿命はアドのものだと。


 アンディは案じていました。

 アドは大丈夫だろうかと……。


 彼は、ティルフィングが魔剣であることを重々承知していましたから。


 心配は、なかったはずなのです。ティルフィングがアドの手の中にある限りは。


 だのに、魔剣は何らかの理由でアドの手を離れてしまった。


 そして何故か、魔剣は月神殿にやってきた。






 あの時私は、妙な波動を感じました。


 それは、あのティルフィングの(こえ)、だったのです。


 泣いていたのです。

 ティルフィングが。


 月神殿のすぐ東で。

 そう気付いた途端、駆けていました。


 月神殿に向かって。


 途中、血に塗れた男たちの遺体を見つけました。おそらくは、ティルフィングの仕業。


 しかし血を吸ったにもかかわらず、ティルフィングの波動は少しも弱まることなく、月神殿に向かっていました。


 いぶかしく思いながらも再び月神殿に行こうとしたその時、ティルフィングの鞘が、草陰に転がっているのを見つけました。


 合点がいきました。鞘に収められないままでは、『魔』の波動が弱まらぬも道理、と。


 私は、鞘を咥え、月神殿に走りました。


 そこでは死闘が繰り広げられていました。


 一人は、アンディの親友。


 フォレスと呼ばれている戦士。


 そして今一人が………


 アンディでした。


 その二人の周りに月神殿の守護を司る男たちが不自然な姿勢で固まっていました。


 無用な犠牲者を出さないようにと、アンディが言霊(ことだま)により、彼らの動きを封じていたのです。


 他に白月大神官(ソムリア・ルフィーナ)赤月大神官(ソムリア・ゼルトラン)賄方(まかないかた)の女性と行商人らしき男が、なす(すべ)もなく立ちすくんでいました。


 私は、フォレスとアンディの間に割り込みました。


 アンディに迫る刃を鞘で受け流し、そのままその鞘をアンディに渡すと伝えました。


 これに収めれば一時的に魔力が弱まる、言霊(ことだま)を使え、私が時を稼ぐ、と……


 ですが、魔剣は容易に私の右角と、脇腹を切り裂き………


 そして

 それを見たアンディは………


 アンディは、わざと


 魔剣に


 己の体を貫かせて


 己の生命を犠牲にして


 ティルフィングを鞘に


 そこへようやく、アドが帰ってきたのです。月神殿に。


 ティルフィングを追って。


 でも

 遅かった


 アンディの傷は

 素人目にも致命傷で


 そして私は

 親友を

 失ってしまったのです――

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