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ココトキ  作者: 奈月翼
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二人で過ごした忘れられない日々には 第11話

全てを語り終えた楓月が静かに口を閉じた。とても辛そうな表情を浮かべながら今でも頭の中にはその時の事を鮮明に覚えているかのようだった。

フウトもその気持ちを察した。これまでとは心の傷付き方が違う事を分かったのだ。

(今まで手紙を届けてきた人達も悲しみを持ち、辛さを引き摺りながら生きてきたが、決定的に違うのは大切な人が死んでいるところを楓月さんは見ているという事だ……流石に今回はちゃんと渡し伝える事が出来るのだろうか?)

心の中で色々と考えるフウトだったが、取り敢えず想いが強い場所捜しの前に楓月の気持ちを確かめる必要があった。

 俯いた状態で動こうとしない楓月に声を掛ける。

「辛いのに話しを聞かせて頂いて有難う御座いました。愛しい人を失う悲しみというものがどんなものか正直僕には分かりませんが、きっと今、楓月さんから伝わってきている感情がそのものなんだと思います。言葉に出来ない悲しみ、辛さに怒りさえも覚えてしまって遣り切れないです。僕が手紙を届ける目的は人を悲しませる事では決してありません。寧ろ届ける事によってその人が幸せになれたり、救われたりしなければならないのです。もし楓月さんが淘子さんからの手紙を読んで更に悲しみが増してしまったり、苦しんでしまうなら読む必要は無いと僕は思うんです。っと言うか読ませたくないです。それを承知の上で聞きますが、淘子さんの『想い』を楓月さんに届けても大丈夫でしょうか?」

 この時のフウトは不思議な感覚がした。配達をただ単にこなしていた筈のフウトならどんな状況でも届ける事をしていた。だが、明らかにフウトの言葉には自分自身の感情が入っていたのだった。『苦しんでしまうなら読む必要は無いと僕は思うんです』本来こんな事を言ってしまうのは配達をしている者として失格なのだから――

それはきっと言った本人のフウトも気付いているに違いなかった。だが、そうなってしまったのは楓月だったからなのかも知れなかった。

「確かに俺の心には今でも淘子を想う気持ちで一杯で思い出すだけでも胸が引き裂かれる程悲しくなってしまう。だけど、俺は知りたいと思う。ずっと病室で過ごす事しか出来なかった淘子がどんな気持ちのまま亡くなってしまったのか……それにもし『想い』を知る事が出来なかったら、この先ずっと後悔したままで生きていかなければならない。だからお願いだ! 俺に淘子の『想い』を聞かせて欲しい!」

 ベンチから腰を上げた楓月は深々と頭を下げた。そんな姿を見たフウトは少し安心したように呟いた。

「良かったです! 正直楓月さんを最初見た時、生気を感じられなかったんです。今にも死んでしまいそうな顔をしていて手紙を届けて良いのか迷っていたんです。でも今『この先ずっと後悔したままで生きていかなければならない』と言ってくれました。『生きる』という事を僕に伝えてくれました。その気持ちがあるならきっと手紙を読んでも大丈夫です。さぁ、行きましょう! 淘子さんの『想い』が強く残っている場所に」

 生きるという気持ちが分かった事でフウトの気持ちが明確になった。あとは楓月に『想い』を渡し伝えれば良いのだが、淘子の『想い』が強く残った場所というのが問題だった。ずっと病室から出る事が出来なかった淘子との思い出なんて病室以外しか考えられなかったからだ。しかもその病院はもうなくなってしまっている。淘子の『想い』が残っている物など落ちている筈も無い。しかしフウトにはもう検討がついていたのだった。正確な場所までは分からないが先程まで話してくれていた中にヒントが隠されていた事に気付く。

「確か淘子さんは退院したら楓月さんを連れて行きたい場所があるって言ってましたよね? それに見せたいとも言ってました。そんな場所に心当たりは無いんですか?」

「そんな事言われても……あの時だって全然教えて貰えなかったし……」

 頭を抱え込むようにして悩む楓月だった。そしてフウトも何か楓月が思い出せるようなキッカケになる事は無いだろうかと考えていた。その考えていた事は小さく呟いた言葉にも出ていた。

「……ずっと病室に居た淘子さんが楓月さんよりも外の事を知っている筈が無い。って事は楓月さんとの会話の中に出てきた場所になる筈……けど、知っている場所に行くのに連れて行きたいって言葉と見せたいって言葉を考えると楓月さんが知っている場所に特別な何かがあるって事になるな……淘子さんが興味を持った場所か……」

 そう呟いていたフウトの声は楓月に聞こえていた。すると何かを思い出したようだった。

「淘子が興味を持った話しか……そう言えば陸上の話しをした時に興味がある感じだったな……」

「でも、それは部活の話であって『想い』が残っているかは微妙なんですよね……」

「いや、実はこの話しには続きがあって、陸上の話しをした時に必勝祈願の話しも一緒にしたんだ。毎年大会前になると俺が絶対に行く神社があって、そこに行くと絶対に良いタイムが出たってな。だから淘子には『願いが何でも叶う神社』があるって教えた事がある。その時の淘子、凄く興味を持ってたのを覚えてるんだ」

 楓月の話しを聞いたフウトはその場所が淘子の『想い』が強く残っている場所だと確信に変わった。

「きっとその場所で間違いないと思います。それじゃそこに向かいましょう!」

 神社がある場所に向かって二人は走り始めた。フウトはコートラルでイシンの次に足の速さを誇っているくらいの俊足であったが、そのスピードに楓月は付いて来ていた。もうずっと走ってないとは思えないくらいだったが、横目で見たフウトはその走りに何だか違和感を覚えたが気にせずに走って行く。

 暫くすると神社の麓に辿り着いた二人だった。流石にここまで来るといつも走っているフウトと、ついさっきまで荒れていた楓月に違いが見えた。微かに息を弾ませる程度のフウトに対して楓月は膝に手を置いて身体を支えながら必死に息をしていた。

 そんな状態の楓月を気遣うようにフウトが声を掛ける。

「少し休みましょうか?」

「はぁっはぁっ……い、いや大丈夫だ……はぁっ……行こう!」

 周りを山に囲まれた神社の階段をゆっくりと上がって行くフウト。その後ろを付いて来る楓月。そこまで階段は続いておらず、すぐに神社の境内に辿り着くとそこには人影は見当たらず静まり返っていた。何も無いように見えたその場所は『想い』があるようには到底思えなかった。

(本当にこの場所で合っていたんだろうか? 特に変わった様子も見えないし、淘子さんが楓月さんを連れてきたかった理由が見当たらないぞ……取り敢えず一周してみるか)

「楓月さん。ちょっと二手に分かれて捜しましょうか? 僕は右から行くので楓月さんは左から行ってみて下さい。それで、もし何か見付けた時は呼んで下さい」

「あぁ、分かった」

 左右に分かれると辺りを見回しながら境内を歩いて行く。真ん中に小さく社殿を構えさせた簡単な作りの神社だった。真横まで来ても特に変わった様子も見付けられないまま社殿の裏側に差し掛かった時、フウトは何かを見付ける。それに遅れるように楓月が裏側にやって来た。

「何か違ったみたいだったかな。てっきり淘子が興味を持ってくれてたように見えたから、ここじゃないかと思ったんだけど……俺の考え違いだったみたいだな……」

 自分の気持ちに嘘を付いたように笑いながらフウトに近付いて来る楓月だった。本心は凄く残念な気持ちの筈であった。フウトはある場所で足を止め、何かを必死で見ていた。そして言った。

「考え違いだなんて無いですよ。良いんですよここで。ここに淘子さんの『想い』は確かに残っていました。それも計り知れないくらい沢山の『想い』です!」

  フウトは楓月にも見えるように体をずらす。するとそこにあった物に楓月は言葉を失った。絵馬掛け所だ。しかも掛かっている絵馬全部が陶子の物だった。

 書いてある言葉一つ一つに目を送る楓月。


――明日の大会で楓月君が良いタイムを出せますように……楓月君が毎日健康で居られますように……来週からのテストで楓月君が良い点取れますように……部活でした怪我が早く良くなりますように……髪を切りに行って失敗した楓月君の髪が早く伸びますように……毎日楓月君と会えますように……これから先もずっと大好きな楓月君と一緒に居られますように……


目から溢れ出す涙を必死に拭いながら絵馬に書かれている淘子の言葉を読んでいく楓月。それを横で見ていたフウトの鞄から光が洩れ始めた。鞄を開けて手紙を取り出すと楓月の目の前に差し出すと、

「ここにも淘子さんの『想い』が沢山あります。読んで見て下さい」

 光り輝く手紙をフウトの手から受け取ると、開けて中身を取り出した。そして広げた瞬間、楓月の目に淘子の文字が飛び込んできた。


 ――楓月君。最後に何も言えないまま居なくなってしまってごめんなさい。沢山伝えたい事が残ってたのに、楓月君の前から居なくなってごめんなさい。私は会えなくなったあの日から今日まで一瞬足りとも忘れた事は無かったです。こんな私に楽しみや喜び、そして希望をくれたのは楓月君でした。どんな時でも優しく笑って私に元気をくれて嬉しかったよ。楓月君が焦った顔をして最後になってしまったあの日に来てくれた時は、六階にある病室がどういった意味の場所なのか知ってしまったんだなぁって感じたよ。私は勿論知ってたよ。でも知らないフリをしてた。じゃないと毎日怖くて怖くて耐え切れなくなるから……でも次第に楓月君と話してたら元気になっていくような気がして、もしかしたらこのままずっと生き続けていけるのかなぁって思えるようになったの。だけどやっぱりダメだったね……こんな事になるなら楓月君と仲良くならなかった方が良かったのかなって思う。だって悲しませたくなかったから……私の為に悲しんだ顔をさせたくなかったから……でもやっぱり嫌われる事なんて出来なかった。だって私、楓月君の事が大好きになってしまっていたから……病室に居る時間なんて今までは苦痛でしかなかったのに、楓月君を待っている時間は本当に幸せだった。ドアの横から顔を覗かせてくれると嬉しくて堪らなかった。こんな私と最後まで一緒に居てくれて有難う。でも本当はもっともっとずっと楓月君の傍に居たかったよ。楓月君はこの先も私にとっての幸せであり、希望そのものです。いつまでもこの気持ちは変わる事は無いよ。ずっと大好きだからね。


「……淘子はずっと自分が居る部屋の事を知ってたんだ……それなのにいつもあんな笑顔を俺に見せてくれていたんだ……心に不安を抱えていたのに全く気付いてやれなくて本当にごめんよ……そして結局、大切な事さえも淘子に先に言わせちゃうんだな……俺もずっとずっと大好きだったのに……それなのに直接言ってやれなかった……こんなにも沢山の想いを持ってくれていたのに……いつでも俺に勇気が無いばかりに淘子に本当の幸せを与えてあげる事が出来なかった。もう俺の声は届かないかも知れないけど言わせてくれ……ずっとずっと淘子に会った時から大好きでした。その事はどんなに時が過ぎても変わる事は無いよ。俺も淘子の傍にいつまでも居たかった……ずっと大好きだよ!」

 お互いに同じ気持ちで居たにも関わらず、直接伝え合う事は叶わなかった。だけどいつまでも変わらず心にある限りその『想い』は輝き続けるだろう。

 楓月の心に淘子の『想い』が伝わり、目から涙を流していたが、ちゃんと淘子がどんな事を想いながら亡くなっていったのかを知る事が出来て良かったと思えた。

「何か凄くお世話になっちゃったな! 本当に有難……」

 そう言いながらフウトの方に振り返るが、既にそこにはフウトの姿は無かった。急いで社殿の正面へと向かったが、やはりフウトの姿を見付ける事は出来なかった。

「一体何者だったのかも分からず不思議な子だったな。だけどちゃんと人の痛みを理解してくれる優しさもあった……でも何でだろう……この感覚は……」

 不思議な感覚をお互いに感じ続けているフウトと楓月。でも何はともあれ『想い』を渡し伝えた事によって荒れ果てていた楓月の心は現実を見る事が出来るようになったのだった。

その頃、手紙を渡し伝える事が出来たフウトは『風のトンネル』を通り、スピリアに帰っていた。その頬には何故か涙が流れていた。

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