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ココトキ  作者: 奈月翼
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二人で過ごした忘れられない日々には 第10話

 次の日の放課後、部室で帰る準備をしていた楓月の元に達也と聡史がやって来る。

「昨日は部活をサボるなんて、なかなかやるじゃないか」

「ほんまや。一応うちのエースやから誰も言うてけぇへんけど、昨日はみんなめっちゃ怒っとったんやで」

「ちょっと急用だったんだよ。もう何回も謝ってるじゃん……」

「部活をサボる程の急用なんて楓月にあったっけ?」

「一応、俺だってそんな時くらいあるよ」

「女やな!」

「……違うよ!」

「はい! 図星~!」

「マジで女やったんか!?」

「最近タイムも前のように戻ってきたし、絶好調だから調子乗ってんだよコイツ!」

「せやせや。俺らのアドバイスのお陰っちゅう事は忘れたらあかんで!」

「お前らには感謝してるよ……っていうか俺が頑張ったからじゃねぇか!」

「あぁ! やっぱりコイツ恩を忘れてやがるぜ!」

「懲らしめんといけんなぁ……」

 そう言うと達也と聡史は楓月を挟むようにして密着して座ると

「っで、どうなん?」

「急に何がだよ?」

「勿論、何かしらの進展はあったんだよね? だって毎日病室に通ってるくらいなんだからキスの一つや二つはしたんだろ?」

「おお! そんなちょっとアダルトティックな事をもうしたんかいな! 俺らよりも先を行ってしもうたんやな!」

「おいおいちょっと待て! 何か俺の知らないところで話が勝手に一人歩きしてないか。キスなんてまだしてねぇよ! っていうか付き合っても無いんだから!」

「マジかよおい! 告白してねぇの?」

「だって相手の気持ちも分からないのに告白なんてしてフラれたりなんかしてみろ。折角、毎日会いに行ける仲になったのに壊れてしまうかも知れねぇじゃんかよ!」

「いやいや違うで。寧ろ毎日会う仲なのに付き合うてへん方が変なんやで。相手の気持ちなんてもう分かり切っとるやないか! 気も無い男に毎日会う訳無いやろ? 向こうは待ってるんや! 楓月がいつになったらその言葉を口にしてくれるんか待ってるんやで!」

「……そういうものなのか?」

「自分だってそうだろ? 二組の菊池が毎日一緒に居たいって言って来たらどうするんだ?」

「それは断るな」

「だろ! 気の無い女と一緒に居たいとは思わないように、女だって気の無い男と一緒に居たいなんて思わないんだよ」

「でもさ例えが悪過ぎないか? だって二組の菊池ってメスゴリラみたいな顔してるじゃん。誰だって一緒に居たく無いだろアイツとは……」

「甘いな! 目には目を歯には歯をゴリラにはゴリラだ! 先輩は良いって言ってたぞ!」

「マジかよ! やっぱり野生で繋がるものってあるんだな」

「そないな事より楓月よ。今日も会いに行くやろ?」

「そりゃあ勿論だよ」

「じゃあ今日が勝負やな! 女を待たせたらあかん。早い方がええっちゅう事で、今日行ったらバシッと告白したれや!」

「ええっ今日かよ!?」

「そうだね。今日出来ない事が明日出来る訳も無いんだから、今日出来ないんだったら一生言わないつもりって事だよ? 一生待たせておくつもりなの?」

「……何かお前らって女の話になると人格変わるよな」

「今は人格の話しをしてるんじゃない! お前の女の話しをしてるんだ! 告白するのか? しないのか? はっきりしろ!」

「急に言われても心の準備が……」

「別にそんな改まる事無いと思うんやけどな。相手の好きなところを褒めてあげて、自分の気持ちを言えばええだけや。でも、まぁ緊張してしまうのも無理もないんやけどな。だから今、楓月が勇気を出すにはこの言葉が一番やと思うんや」


『いつでも楓月には俺達が付いとるんやで。不安に思う事も三分割にすれば気持ちも楽になるやろ。自分が大切だと思うとる人に伝えて来るんや。きっとその子は楓月の言葉を待ってる筈や。自分を信じるんや!』


 その言葉は楓月の胸の奥へと響いていった。茶化したり、からかったり、ふざけたりもする仲間だけど最終的にはやっぱり背中を押してくれる言葉を掛けてくれるのだ。

 こんなにも自分の事を思ってくれている仲間に感謝の気持ちで胸を一杯にしながら荷物を手に取ると楓月は言った。

「心配してくれて有難うな。いつも俺の背中を押してくれて本当に感謝してる。それじゃ行って来るよ!」

 部室から出て行った楓月は心に決めた言葉を何度も頭の中で繰り返しながら歩いて行く。何度も通った病院までの道のりだが、今日は少し違ったように見えたのだった。

(良く良く考えてみると淘子にいつも言わせていたんだよな。最初に話した時も『また……話しを聞かせて貰えませんか? あなたが迷惑でなければ……』って言ってくれた。そして昨日も『その時は私が楓月君に見せてあげたいと思っている場所があるの! その場所っていうのは一緒に行ける時までの秘密なんだけどね……一緒に行ってくれるかな?』って誘ってくれた。どれも俺が言いたかった事なのに結局は自分の口から言ってなかった。だからこそ今日は俺から言うんだ! 思いを伝えてあげるんだ!)

 もう揺らぐ事の無い決意を胸に病院の門をくぐった。

(いつもここから眺めていたんだよな……)

歩き進めると病院の入り口に入った。

(ハンカチを拾って入った時はもう頭の中真っ白で何も考えられなかった)

エレベーターのボタンを押し中に入ると『六』と書かれたボタンを指で押した。

(まるで心臓が口から飛び出してしまうんじゃないかと思うくらいドキドキしちゃってたなぁ……)

チンッと音が鳴ると、ゆっくりとドアが開く。廊下へと足を踏み出した瞬間、何かがいつもと違う感じを覚える楓月。だが、何がいつもと違うのかと言われれば感覚的なモノと述べるしかないのだった。

そう――それは『違和感』だった。

淘子の病室へと足を進めて行く楓月はエレベーターがあるフロアーから病室が見える角を曲がった。するとそこには淘子の両親と担当医師が何やら話していた。楓月は胸を掻き毟るような不安感と気の遠くなるような感覚を必死で押し殺しながら、ゆっくりと近付いて行くと次第に話し声がはっきりと聞こえてくる。

「本当に先生には長い間、淘子を見て頂いて有難う御座いました。最後は苦しまずに静かに眠るように息を引き取る事が出来て、淘子も幸せだったと思います」

 深々と頭を下げる両親の姿が目に入ってきた。

(えっ……一体何を言ってるんだ? 昨日普通に俺と話しをしてたし、いつものように笑ってたじゃないか……きっと何か違う話しをしてるんだよな……俺ってすぐ人の話しを真に受けて信じちゃって、迷惑掛けちゃうんだよな……昨日だってそれで淘子に変な心配掛けちゃったし……)

 全身の感覚は無く、意識は朦朧となる中、担当医師と両親の前を素通りする楓月。ドアが開いたままの病室に入って行くと、淘子がベットの上に座っていて『あっ楓月君! 今日も来てくれたんだ! 学校と部活お疲れ様でしたぁ!』っと在る筈の笑顔はそこには無く、白いシーツに包まれて動かない淘子らしき人が横になっていた。何故『らしき人』などという言い方になってしまったかというと、顔には白い布が被せてあって、確認が出来なかったからである。

(……まだ淘子と決まった訳じゃない……きっと部屋を間違えたんだ……俺とした事が何度も来てるのに間違えるなんて……てっきり淘子の両親がこの病室の前に居たから間違えてしまった…………間違えてしまったんだよな……)

 両足で立っているのに床がユラユラと動いているような感覚に陥っていた。もう何も考える事が出来ず、ただただ呆然と立ち尽くしていた。そんな楓月に父親が近付いて来て、優しく肩に手を置いてきた。

「楓月君だね? 君には淘子がお世話になったね。人一倍体が弱く生まれてしまった淘子は友達も作る事が出来ず、私達両親も仕事でなかなか会いに来てやる事も出来ずに、本当に毎日寂しい思いをさせてしまっていた。それでも淘子は私達に心配を掛けまいと、いつも笑顔を見せてくれていたんだ。そんな淘子の姿がどうしても可哀想に思えてね。でも、君が淘子に会いに来てくれるようになって、本当に心から笑うようになれたんだ。いつも楽しい話しを聞かせてくれると私達に嬉しそうに話してくれていたんだ。最後に君と出会えた事で淘子はやっと幸せと感じる事が出来、そのまま息を引き取れて本当に良かったと思っている。有難う楓月君」

 父親の置いていた手が微かに震えていた。楓月にもそれが伝わってきた。

必死に悲しみを堪えながら自分に感謝の言葉を言ってくる父親の気持ちが痛い程伝わってきた。


確かに淘子の存在を知っている人は少ないだろう。だけども、ここに居る人の心の中にはあの綺麗な笑顔や優しくて温かい声がちゃんと残っている。深く刻まれている。

淘子はここで生きていた。いつも笑顔で両親や楓月に幸せをくれた。現実に生きていたんだ。その生涯は決して恵まれていたとは言えないが、不幸ではなかった。何故なら楓月と出会えた事で心から笑う事を知れたのだから……


楓月は無気力状態のままゆっくりと淘子のベットに近付いて行く。今でも目の中には元気に自分に話し掛けてくる姿が浮かんでいた。いつもなら笑い声で一杯の病室が今日は静寂に包まれていた。

ベットの真横まで来た楓月は顔に被せてある白い布に恐る恐る手を伸ばした。そしてゆっくりと滑らすように取ると、そこにはとても幸せそうな顔をした淘子が居た。やっと現実を目にした楓月はその場に崩れ落ちた。ボロボロ涙を流しながら泣いた。胸の中に沢山詰まった淘子との思い出が溢れ出していくように泣いた。

「……何でだよ……俺を連れて行ってくれるんじゃなかったのかよ……見せたい場所があったんじゃなかったのかよ……今までずっと鳥篭の中の鳥だったからこれから色んな所に行って、出来なかった事を……見れなかった物を……全部俺がさせてあげたかった……それにまだ大切な事を言ってないままだ……大好きだって伝えられてない……」

 そして最後に幸せを知った淘子はもうこの世には居ない――これも現実なのだから。

 悲しさで一杯の楓月は泣いた。来る日も来る日も淘子の事しか考えられなかった。

(この現実に平等なんてものは存在する筈が無いんだ……どうして淘子だけが悲しい思いをしなければいけないんだ……どうして淘子だけが苦しみを背負わされなきゃいけないんだ……何をしたっていうんだ……淘子はただ見たかっただけじゃないか……フレームに囲まれた窓の向こう側を……それさえもさせちゃダメなのか……) 

込み上げてくる怒りや悲しみを何処にぶつけて良いのかさえも分からないまま楓月は荒れた。もう二度と走る事もしないまま、ただただ荒れた。

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