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ココトキ  作者: 奈月翼
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二人で過ごした忘れられない日々には 第9話

時間が過ぎるのも忘れてしまう程、二人は色んな話をした。

「それでさ、ここに入院している先輩っていうのがゴリラみたいな顔してるんだよ! こんな感じかな……ウッホウッホ!」

「あははっ本当にそんな顔してるんですか」

「本当だよ! 最初会った時は動物園から逃げ出して来たんじゃないかと思っちゃったくらいだよ! しかも自分と同じ制服を着てるんだからダブルで驚いてしまったよ! しかもそれだけなら未だしも――」

 

 カーン……カーン……


 楓月は話しを止め、腕の時計を見た。

「もうこんな時間になってたんだ。何か沢山話しちゃってごめんね」

「ううん。私こそ長い時間、引き止めちゃってごめんなさい。学校と部活が終わった後で疲れているのに……」

 罪悪感を感じてしまい俯く女の子だったが、楓月は明るく振舞う。

「全然疲れてないよ! 寧ろ逆に元気になったくらいだよ! いや、元気になった! それにさっきも話したように陸上っていうスポーツはどんなに疲れていても傍に居てくれる人から元気を貰えるんだから……ね」

「……それなら私も陸上出来ちゃうかな?」

「えっ何で?」

 女の子がどうして自分も陸上が出来ると言ってきたのか楓月には分からなかった。

「だって私もあなたから元気を貰えたから!」

 一瞬どういう意味なのか理解出来なかった楓月だったが、急にとても恥ずかしくなったのだった。ここに来てまた頭の中が真っ白になってしまった楓月は徐に立ち上がると、ずっと忘れていたハンカチを女の子に手渡した。

「あっ何か忘れてると思ったら、これを届けに来たんだよな俺。それじゃ長居して本当にごめんね!」

 ドアへと早足で向かい開けた瞬間だった。後ろから女の子に声を掛けられる。

「また……話しを聞かせて貰えませんか? あなたが迷惑でなければ……」

 楓月は自分の耳がおかしくなってしまったのかと思った。今の今まで一緒に居られただけでも夢の中の幻想の世界で幻を見ているような感じだったのに、また話しを聞かせて貰いたいと女の子の方から言ってくれている。

(あぁ、やっぱりか……何かおかしいと感じていたんだよな。こんなに現実世界が上手くいく訳が無いんだ。きっと今見ている世界は今朝ベットで寝惚けて壁に頭をぶつけた際に気を失って入り込んだ夢の中なんだ。ここで頬を抓れば幸せの時間は終わり現実の世界に戻されるんだ……)

 ゆっくり左手を顔まで持っていくと頬を抓った。


 ――痛い!


「あの、やっぱり……迷惑……ですよね……」

 ずっと背中を向けたまま無反応な楓月に女の子が悲しそうな声で言った。すると高速で楓月は振り返ると。

「迷惑なんてそんな事ある訳無いだろ。こっちこそまた話して貰って良いかな?」

「はい、是非是非お願いします」

 とても嬉しそうに笑う女の子。楓月も同じように笑っていたが、そんなのは全体の喜びの三%に過ぎなかったのだった。心の中では既にパレードが開催されていた。

「じゃあまた時間が空いてる時に来るからね」 

「はい、待ってます! ところであの……名前を教えて貰って良いですか?」

 その言葉にドキッとしてしまった。自分の名前を知りたいと思ってくれた事に、最高の幸せ状態になった楓月は声を震わしながら答えた。

「俺……緋河楓月だよ」

「私は淘子です。沢谷淘子!」

 こうしてお互いに名前を知り合った二人だった。楓月は学校と部活が終わると毎日のように淘子の病室を訪れて色んな話しをしていき、次第に惹かれ合っていくのだった。だが、楓月はずっと聞けないままだった事があった。それは淘子が何故入院しているかという事。会って話している間も元気そうに見えていたし、特に怪我をしているようにも見えなかった。気にはなるが、少し体調を崩してしまった程度だと考えていた。

 そんな時、学校である噂が流れていた。

 授業が終わり部活に向かおうと楓月が教室から出ようと、するとクラスメートが声を掛けてくる。

「おう緋河。何かお前病院に毎日のように通ってるらしいじゃん! 隣のクラスの奴が見たらしいぞ!」

「えっ! あ、うん。先輩が入院してるからお見舞いに行ってるだけだよ」

「もしかしてその先輩の病室って六階じゃないよな?」

「違うけど……何で?」

「なんかさ、最近あの病院についての噂があるみたいなんだけど、六階に入院してる奴ってさ。もう退院出来ないらしいんだよ」

「退院出来ないって何で?」


『そりゃあお前、死ぬからに決まってんじゃん!』


 咄嗟に楓月はそのクラスメートの胸倉を掴んだ。

「誰がそんな事言ってんだ! 死ぬ訳ねぇじゃねぇかよ!」

「お、おい止めろよ。俺じゃねぇよ。ただの噂だからそんなムキになるんじゃねぇよ」

 掴んだ胸倉を払うようにしたクラスメートは床に腰を打ち付けた。楓月は立ったまま見下ろして言う。

「下らない噂なんか流してるんじゃねぇぞ!」

「だから俺じゃねぇってば……」

 楓月は教室を飛び出して行く。

「おう楓月!」

「偶然やな! 俺達も部活に行く途中なんやで」

すると丁度同じように部活に向かっていた達也と聡史に廊下でバッタリ会うが、気にも止めず、そのまま走り去ってしまった。

「どないしたんや? 楓月の奴」

「……さぁ?」

 怖いくらいの形相になっていた楓月の事を疑問に感じる二人だった。

 必死に校門を抜け、全力で走る楓月の向かう場所は病院だった。

(そんな訳無い! そんな訳無い! そんな訳無い! 淘子が居る六階の病室の患者が

死ぬだなんて嘘だ! 淘子が死ぬだなんて嘘だ!)

 病院の門をくぐり、院内に入るとエレベーターを使わずに階段で六階まで一気に駆け上がる。そのまま淘子の病室に入るとベットの上にある筈の淘子の姿は無かった。

(まさかこんな事って……嘘だろ……噂じゃないか! 本当にある訳が無いじゃないか!)

 絶望によって呆然と立ち尽くす楓月だったが、

「あれ? 今日の部活終わるの早いね!」

 咄嗟に声がする後ろへと振り返ると、そこには淘子が立っていたのだった。

「ちょっと喉渇いちゃったから売店までジュース買いに行ってたんだ」

 いつもと変わらず淘子の笑顔はそこにはあった。思わず楓月は強く抱き締めると淘子は辺りを気にしながら恥ずかしそうにしていた。

「ちょ、ちょっとどうしちゃったの? ……ここ廊下だよ……恥ずかしいよぉ~」

「良かった……本当に良かった……俺馬鹿だよな。あんな噂本当な訳無いのに……」

「噂って? 何があったの? 部活は?」

「何でもないんだ。ただの俺の勘違いさ。今日の部活は休みだからさ」

(そう何でもないんだ。ある訳が無いんだ。俺が見ているこの世界が現実であって、全てが真実なんだ。淘子が俺の傍に居る。そうこれが現実であって真実なんだ……)

 二人は病室の中に入るといつものように話し始めた。楓月が冗談交じりで話す事を聞いて笑う淘子。それがいつも通りだった。だけど今日は淘子が自分の事を色々話してきたのだ。

「ねぇ、楓月君。私ね、今までずっとこの病室で一人だったの。毎日この窓から見える空を眺めるだけだった。小さい頃から体が人一倍弱くて学校なんて殆ど行った事無かった。そんなんだから友達なんて全然出来なくて寂しかったんだよね。けどね、あの日門の所に立ってた楓月君を見て『私も普通に学校に行けてたらあんな感じの男の子と友達になる事が出来てたのかなぁ』って思っちゃったら嬉しくなっちゃって……あの時、いきなり笑ったから変な女だと思ったでしょ? でも私が落としたハンカチをキッカケにこうして毎日私に色んな話しを聞かせてくれるようになって、何も変化の無い毎日に楽しみを持てるようになった。本当に有難う。楓月君の話しを聞いているとね。何だか元気を貰えてるみたいで自分の体が弱いのが嘘みたいに思えてくる事があるんだ。きっと退院出来る日も近いと思うから、その時は私が楓月君に見せてあげたいと思っている場所があるの! その場所っていうのは一緒に行ける時までの秘密なんだけどね……一緒に行ってくれるかな?」

「勿論だよ。でも、そういう風に言われたら気になっちゃうな。ヒントだけでも教えてよ!」

「ダメだよ! 私が楓月君を連れて行ってあげるんだから。それまでのヒ・ミ・ツ・だよ」

 今まで知りたくても聞けずにいた淘子自身の事。

これまで感じてきた全ての事。

それらを知る事が出来て嬉しかったが、何よりも素直に話してくれたという事が一番楓月は嬉しかった。そして淘子自身が退院出来ると感じている事こそ、順調に回復している証拠だと言えるだろう。

 病院から帰っていた楓月は上機嫌だった。頭の中では退院した淘子とどんなところに遊びに行こうかという事で一杯にしていた。

家に帰った楓月は学校の宿題などを済ませたりして一日を終えた。眠りに付くベットの中で明日はどんな話しを淘子に聞かせて笑わせてやろうかと思うのだった。

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