初めて聞くその想いの中には 第9話
「それなら行きましょう。きっとそこです!」
「いや……でもあそこは……」
洸耶は何故か思い詰めた表情を浮かべながら移動しようとはしなかった。
「どうしたんです? クルアさんの『想い』を聞きたかったんじゃないんですか? その場所にきっとクルアさんの『想い』が強く残っている筈です!」
「……無いんだ」
「無いって何がです?」
「俺とクルアの『秘密基地』だ……」
「どういう事ですか?」
二人の間に流れていた時間が凍り付いたかのようだった。洸耶は口を重たそうにしていた。言いたいけど、言い難いという感情がひしひしと伝わってくるのが分かった。
「クルアが居なくなった夜から雨が降り始めたんだ。その雨は日に日に強さを増していき、ついには山の一角を崩した。その崩れた場所は俺とクルアの『秘密基地』だったんだ」
流石にフウトは言葉を失った。確信した場所が本当ならば、クルアの『想い』が強く残っている場所は無くなってしまっているという事になる。だが、フウトは洸耶に言う。
「例え『秘密基地』が無くなってしまっていても、きっとその場所に行けばクルアさんの『想い』は消える事無く洸耶さんが来てくれるのを待ってくれていると思います。きっと大丈夫です。今までずっとクルアさんの事を思い続けてきた洸耶さんならクルアさんの『想い』も待ってくれてます」
その言葉で洸耶は少し元気が出たようだった。吹っ切れた表情をした洸耶は「行こう!」と言うと歩き出した。その後に付いて行くフウト。どんな状況であろうとも繋がってる『想い』が消えている筈は無いと信じて。
子供の頃の記憶を思い出しながら辿っていく洸耶は山道に入って行くと木々が生い茂っていて前に進むのがやっとの状態だった。掻き分けても掻き分けても途絶える事は無かった。
本当にこんな場所に『秘密基地』があったのだろうかと疑問を感じずにはいられなかったが、突然洸耶が立ち止まり言った。
「本当ならこの先に『秘密基地』があったんだが……」
そこは崖になっていた。崩れた一角とは『秘密基地』の事だったのだ。言葉を失うフウト。だが、ふと見た崖の下に何かあるのに気付くと指差す。
「洸耶さん。あの下にある物何でしょうか?」
言われた洸耶は指の先に目をやるとそこにあったのは
「あ、あれは……クルアの首輪だ……」
形振り構わず崖の下に降りて行き、手に取るとぼろぼろと涙を溢した。
「クルアは俺との約束を守る為にずっとここに居たんだ……雨に打たれても耐えて俺の事をずっと待ってくれていたんだ……俺が早く気付いてここに来ていれば山崩れにも巻き込まれずに……命を落とさずに済んだのに……本当に俺は馬鹿だ……信じ続けてくれたクルアに酷い事ばかりして……本当に馬鹿だよ……」
クルアが居なくなった日から何をしていたのかを知った洸耶は苦しみ嘆いた。地面を何度も叩きながら涙を流した。
それを見ていたフウトの鞄から光が溢れ出した。手紙を鞄から取り出すと洸耶の目の前に差し出して言った。
「クルアさんはずっと待っていました。そしてやっと洸耶さんに会う事が出来たんです。クルアさんが伝えたかった『想い』を是非聞いてあげて下さい」
涙で視界が滲んで見えなかった洸耶は腕で拭うと光輝く手紙を受け取る。そして封を開けて中を取り出して開くとクルアの声が語りかけてきた。
――洸耶くん、元気にしてますか? ずっとあの日の事を謝ろうと思っていたのにもう会う事が出来なくなってごめんね。僕あの日、洸耶くんを見送った後にどうしても迎えに行きたいと思って、開いていたドアから出て行っちゃったんだ。でもそんなにすぐに洸耶くんは帰って来れないから、一人で遊んでいたらあんな姿になっちゃったんだ。良い子で家で待っていれば良かったのにね。そして洸耶くんの姿を見付けて飛び出して行ったんだ。でも友達と一緒に帰っていたのに邪魔しちゃって本当にごめんね。汚い犬が洸耶くんのペットだなんて恥をかかせてしまうだけなのにね。それなのに僕の横を通り過ぎて行く時、凄く申し訳無さそうな顔をしてくれて、洸耶くんはやっぱり優しいんだなぁって思ったよ。その後に洸耶くんとの秘密基地に来て、ずっと洸耶くんに迷惑を掛けちゃったなって考えてた。こんな事になってしまって、もう洸耶くんに会えないんだと思うと本当に悲しいよ。会いたくて会いたくて仕方無いけど、それも叶わない事なんだよね。でも、捨てられてた僕を拾ってくれて、家族として幸せな時間を一緒に過ごさせてくれて本当に有難う。洸耶くん大好きだよ!
「何でクルアが謝るんだよ……悪いのは全部俺だよ……酷い事をしちゃってごめんなクルア! 幸せだったのは俺も一緒だよ……クルアには本当にもう会えないんだな……会って謝りたかったのに……本当にごめんなクルア……そして有難うクルア……」
ずっと自分自身を苦しめ続けてきた洸耶はクルアの本当の『想い』を聞く事が出来て少しくらいは許せたのかも知れない。心から通じ合えている者同士どんなに離れた場所に居ようともその絆が消え去る事は無い。また傷付けられた事を恨んだりもしないのだ。何故ならそれが『大切な者同士』だけが作り出せる『特別な存在』というものだからだ。
フウトは最後まで様子を見ていたが、ゆっくりと振り返り歩き出しながら
「クルアさん、あなたの『想い』ちゃんと届けました」
その言葉を残すとスピリアに帰って行った。そしてコートラルに帰って来たフウトをみんなが待ってくれていた。
「もうフウト遅いよ。先に食べちゃおうかと思ったわよ」
「俺もうお腹ペコペコで背中とくっ付いてしまうくらいだぜ!」
「フウトも無事に帰って来た事だし、さぁ始めるか」
自分の帰りを待ってくれている人が居る事。無事だった事を喜んでくれる人が居る事を嬉しく思う。きっとこういうのが仲間であり、『家族』なんだろうかとフウトは感じたのだった。
その頃、洸耶は道端でしゃがみ込んでいた。視線の先にはダンボールの中に居る子犬。ゆっくりと手を伸ばし、子犬に首輪を付けると抱き抱えた。
夕日を背に洸耶の姿は小さくなっていった。
「この首輪は俺にとって大切な家族の形見だ。今日からこの首輪はお前のものだ。そして今日からお前は俺の『家族』だ」
洸耶は子犬を連れて家に帰って行った。すると子供達の喜ぶ声が聞こえてきたのだった。




