初めて聞くその想いの中には 第6話
「そういえば会社の同期の奴が最近ペットを飼ったらしいんだ。猫らしいんだけど凄く可愛いって携帯の待ち受けをそのペットにして見せびらかして来るんだよ」
「凄く可愛がっているんでしょうね。ペットって言っても家族も同然だものね」
「家族だからこそいつまでも大切にしなきゃいけないし、面倒だって最後まで見ないといけないっていう責任も出て来るんだよな。まぁこの家にはそんな話は無いし、関係無いのかな。洸耶の友達でもペットを飼っている家はあるのか?」
そう振られた事により、洸耶は勇気を振り絞って両親に切り出した。
「僕の友達でもペットを飼っている人は居るよ。だから僕もペットを飼いたいんだ。ちゃんと面倒だって見るし、散歩にだって連れて行くからお願い! 飼っても良いかな?」
父親は箸を置くと洸耶を真剣な表情で見詰めて言う。
「命を飼うという事がどんなに大変な事なのか分かっているのか? 途中で飽きたからといって捨てる訳にはいかないんだぞ。犬だってちゃんと生きてるし、人生というものがちゃんとあるんだ。それを全て受け入れて共に生きていくという事が出来るのか?」
「ちゃんとするよ! 寂しくないように僕がいつでも遊んであげるし、一緒にだって寝てあげるんだ!」
父親の真剣な眼差しは洸耶とって少し怖かったが、子犬の為にも説得を頑張るのだった。
「最後まで面倒を見れるのか?」
その問いに洸耶は頷く。すると真剣な眼差して見詰めていた表情が緩んだ。
「そこまで洸耶が考えているのならお父さんは何も言えないよ。あとはお母さんの意見を聞いて大丈夫なら飼って良いぞ!」
ずっと元気が無かった洸耶の表情も晴れたように明るくなった。喜びで胸一杯になった洸耶は母親の方を見て「ねぇ飼っても良い?」と許可を強請った。母親は笑顔のまま答える。
「そんな、お父さんが良いって言うものをお母さんが反対出来る訳無いでしょ。洸耶の好きにして大丈夫よ」
その言葉で胸にずっとあった靄が晴れていくような感覚になった。洸耶は椅子から降りて飛び跳ねるようにして喜んだ。すると父親が洸耶に言う。
「そうと決まったらずっと外で待っている新しい家族を家に入れてあげなさい」
「うん! って何で知ってるの?」
「何でかって? それはお父さんが洸耶のお父さんだからだよ。息子の事なら何でも分かってあげられるのが親なんだからな。そんな事より早く入れてあげなさい」
洸耶は「うん!」と答えて玄関へと走って行く。とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。その様子を見ていた母親が父親に尋ねる。
「知っててずっと洸耶が言い出すのを待ってたのね。急にペットの話をし始めたから何事かと思ったわよ」
「実は俺、本当ならもう少し早く家に帰って来れたんだよね。帰り道に洸耶の姿を見付けたから声を掛けようとしたんだ。すると草むらで何やら子犬と話し込んでて、連れて帰って行くのを見ちゃったから少し時間を遅らせて帰って来たんだよ」
「じゃあ本当に何もかも知った上での事だったのね。それならあんな遠回しに言わなくても良かったんじゃないの?」
「いや、自分の口から思いを言うって事は凄く大切な事だと思うんだ。これからの洸耶の事を考えると今回の話は洸耶から切り出して貰いたかったんだ。何はともあれ上手くいって良かったよ」
「でも洸耶に話をしている中で普通に『犬だってちゃんと生きてる』って言ってたわよ」
「あれ? 俺、言っちゃってたのか……」
そんな話をしていると洸耶が子犬を連れて帰って来る。相変わらず泥に汚れたままの子犬を見て父親が
「まずはそいつをお風呂に入れてあげるのが洸耶の初めてのお世話だな」
そう笑いながら言うと
「僕、もう一回この子とお風呂に入ってくる!」
洸耶は再びお風呂場に向かって行った。
その日から洸耶は子犬の事を本当の兄弟のように毎日可愛がるのだった。そして名前だってちゃんと付けてあげた。父親から子犬はジャック・ラッセル・テリアという犬種だという事を教えて貰い、その犬種から「クルア」と名付けた。それぞれの語尾から取ったのだ。
学校が終わるといつも家まで走って帰り、ドアを開けると同時に「ただいま! クルア遊びに行こう!」と言うと洸耶の部屋からクルアが勢いよく飛び出してきた。そして日が暮れるまで公園で遊んだり、森に探検に行くなどして泥だらけになっては、いつも家に帰ると母親は笑いながら洸耶に言う。
「あらあら、今日もクルアと沢山遊んで来たみたいね。お風呂沸いてるから入っていらっしゃい!」
クルアが家に来てから毎日が幸せで溢れていた。それは洸耶だけで無く、傍で見ている両親も同じであった。
お風呂に入り、汚れた体を洗い流しながら明日の計画を一緒に考えるのが毎日の日課になっていた。お風呂から出て夕飯の時間は、洸耶の椅子の横でクルアも一緒に夕飯の時間を過ごす。そして勿論、クルアを飼うと決めた時に洸耶が言った『一緒にだって寝てあげるんだ』という言葉の通りいつも同じ布団の中で同じ夢を見ていたのだった。
楽しく過ごした時間が沢山の思い出になり、その思い出が増えていく事で洸耶とクルアも成長していく。そんな成長が徐々に洸耶とクルアに変化を齎していったのだった。
学校が終わってすぐに家に帰っていた洸耶は友達と一緒に遊ぶようになり、家に帰って来る時間が遅くなっていた。遊び疲れて帰って来た洸耶が玄関を開けると、その音に反応するように洸耶のベットの上にいたクルアは起き上がり勢いよく飛び出して来る。嬉しさを最大限に表現しているかのように尻尾を思い切り振りながら洸耶を迎える。だが、遊び疲れている洸耶は
「クルア。今日はちょっと疲れちゃったから遊びに連れて行ってあげられないや。ごめん」
そう言いながら横を通り過ぎていく。思い切り振っていた尻尾が徐々にゆっくりとなりながら洸耶の後を付いていくクルア。
その様子はとても寂しそうな感じに思えた。




