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ココトキ  作者: 奈月翼
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初めて聞くその想いの中には 第5話

驚きを隠し切れない様子の洸耶だったが、無言でフウトに背を向けると

「その名前を何処で知ったのかは知らないけど、悪ふざけもいい加減にしてくれないか!」

 静かに怒りを顕にした洸耶はその場を立ち去ろうとするが、それを引き止めるようにフウトが言い放つ。

「信じるも信じないも洸耶さんの勝手ですが、クルアさんが命を失っても尚、未だに洸耶さんに伝えたい『想い』はどうなるんですか?」

 背中を向けて歩き出そうとした洸耶が振り返り感情を押し殺したように答える。

「クルアの『想い』だか知らないけど、そんなものが届く筈無いじゃないか。だってクレアは伝える術を持っていない。さっきから『クルアさん』と言っているけど、クルアがどんな奴か知ってて言ってるのか?」

「正直僕は依頼主がどういった方なのか、洸耶さんとどういったご関係なのかまでは知らないです。でも唯一確実に分かっている事はあります。それは今でも想い続ける程にとてもとても『大切な存在』だって事です」

 そう言ったフウトは深く被った帽子から目を伺わせた。すると洸耶は拳を握り締めて俯きながら肩を震わせると

「確かに俺にとってクルアは『大切な存在』だから今まで一日足りとも忘れた事は無かったが、クルアにとっては俺がどんな存在だったのかは分かる筈も無い……何故ならクルアは犬なんだから……」

 言葉を飲み込むように止めた洸耶だった。それから少しの間二人は沈黙したが、フウトは再び帽子の中に目を隠すようにすると

「そんなの何も分かり合えない理由にならないじゃないですか。犬だって人間だって何も変わり無いですよ。一緒に居て楽しいと思える心もそれを感じる気持ちもなんら変わりないと僕は思います。言葉が話せなくったってそれを感じる事が出来ていれば通じ合えるんじゃないでしょうか? きっとそんなのは僕に言われなくても洸耶さん自身が一番分かっている事でしょ? だって現に今のこの時までずっと忘れる事無く、クルアさんの事を思い続けていたじゃないですか。そういうのが繋がっているって証拠なんですよ」

 フウトのその言葉で今まで忘れていた事を思い出した様子の洸耶。そんな事は改めて言われるまでも無く元々洸耶自身が分かり切っていた。ただ怖かっただけなのである。あの日、クルアが洸耶の目の前から居なくなった時からずっと……


 夕暮れ時に一人の少年が家に向かって帰っていた。その少年は、まだ幼少期の洸耶だった。友達と遊んで泥まみれになっていた洸耶は帰る途中で草むらの奥に置かれたダンボールから鳴き声がしている事に気付く。何だろうと恐る恐る近付いて顔を覗き込ませるとそこには子犬が入っていた。その姿は洸耶と同じように汚れていたが、そんな事を気にする様子も無く、すぐにその子犬を抱き上げて話し掛けるのだった。

「お前何でこんな箱なんかに入っているんだよ? お父さんとお母さんはどうしたんだ? もしかして捨てられちゃったのか? 可哀想だな……僕の家に連れて帰ってあげたいけど、お父さんとお母さんに怒られちゃうかも……」

 そう思った洸耶は子犬を元のダンボールの中に戻すと

「ちょっと聞いて来るから待ってて!」

その場を離れようとすると子犬はダンボールから出てきて洸耶の後を追い駆けようとするのだった。

それに気付いた洸耶は

「何も言わずに連れて帰ったら怒られちゃうから、ちょっと待ってて!」

そう言うと再びダンボールの中に戻すが、すぐに子犬は出てきてしまう。

 困り果てた洸耶だったが、仕方無くバレないように家の前まで連れて帰る事にした。家の前まで来ると窓から灯りが洩れていて、中では母親が夕飯の準備をしている様子が伺えた。

 近くの木の陰に子犬を隠すようにした洸耶は

「あそこが僕の家だからちゃんと話すまで大人しく待ってるんだよ……」

辺りを気にするように小声で言うと「キャン!」と返事とも取れるように鳴いた。

 洸耶はせめて父親が帰って来る前に母親に話して一緒に父親を説得して貰おうと考えていた為、家の中に急いで入って行く。何事も無かったかのように「ただいま!」と言う言葉に対して母親が「お帰り」と反応してくれた。台所に向かった洸耶は母親の後ろ姿を見ながら、早く言わなきゃと自分自身を急かしていたが、そんな様子に気付いてない母親は

「あら、今日は沢山遊んだのね。泥まみれになってるじゃないの。お風呂沸いてるからお父さんが帰って来る前に入ってきなさい」

 言わなきゃと思いつつも「う、うん分かった……」と渋々母親の言う通りにお風呂に入るのだった。

(こんな事をしている間にお父さんが帰ってきたら二人同時に説得しないといけなくなる……よし! お風呂から出たらすぐに言うおう!)

 そう考えていた矢先「ただいま!」っと玄関から父親の声がする。それを迎えるように母親が「お帰りなさい。今日は早かったのね」と言う声が聞こえてくる。

(――帰ってきちゃった……どうしよう……何て話せば良いんだろう……)

 思い悩みながら、お風呂から出て行くと父親が洸耶の姿に気付いて話し掛けてくる。

「今日は沢山遊んだみたいだな。靴が泥まみれになってたからすぐに分かったぞ。だけど沢山遊ぶのは良いけど怪我だけはしないようにしなきゃ駄目だからな」

「うん、分かったよ。ところでお父さん話が……」

「おっどうした? 何か悩みでもあるのか?」

「実は…………今日は学校で図工の時間に牛乳パックでロボットを作ったんだ!」

「そっかそっか! なら持って帰ってきたらお父さんに見せてくれよ」

「うん、なら壊さない様に持って帰って来ないとね!」

 そんな取って付けたような話で誤魔化した洸耶は自分の部屋に戻って行った。

(――やっぱり言えないよ……でも、早く言わないと外でずっと待っているよぉ……)

 別に悪い事をしている訳でも無かった洸耶だったが、両親に言うのにはそれなりの勇気が必要だった。部屋のベットの上でうつ伏せになりながら考えていると母親が「洸耶、御飯が出来たからおいで!」と夕飯を知らせてきた。ベットからゆっくりと起き上がると「うん、今行く!」と答え、自分の部屋から出て行った。

 食卓には既に父親が座っており、洸耶はその前に置かれた椅子に座る。そしていつものように和やかな雰囲気で両親と食事するが、子犬の事が気になっている洸耶は食事が喉を通らなかった。

 両親は冗談を交えながら会話を弾ませていたが、どうしても洸耶だけは暗い表情が目立っていた。そんな様子に父親は気付くと

「何だか今日の洸耶は元気が無いな。学校で何かあったのか?」

 首を横に振る洸耶は更に元気を無くしていく。母親も気になったように話し始める。

「学校から帰って来て遊びに出掛ける時はいつもと変わらない感じだったのに本当にどうしちゃったの? もしかして遊びに行った時に何かあったの?」

 僅かに的を掠めた意見にドキッとする洸耶だったが、相変わらず首を横に振るだけだった。両親は顔を見合わせて不思議そうな表情を浮かべるが、父親が何かに気付いたような感じで話し始める。

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