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ココトキ  作者: 奈月翼
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初めて聞くその想いの中には 第4話

「へぇ~そんな話をイシンさんとしてたんだね。何だか前よりも良い感じになったようだね」

 話を聞く事が出来てハルが和んでいると、すっかり忘れていたイシンとテツキが奥の事務所から出て来る。何だかすっきりした様子で両腕を天井に向かって広げながら「いやぁ~今日も終わった終わったぁ」とフウトとハルの元に近付いてくる。その後ろからテツキがまるで生気でも失ったかのような表情を浮かべながら歩いて来る。そんな両極端な二人を見たフウトとハルは言葉を失っていた。

(――一体事務所の中で何が起こっていたんだろう)

 そうフウトとハルが同時に思っていると、すっきりした表情のイシンが突然何かを思い付いたかのように

「今日の配達はもう終わってしまったから残りの時間はみんなで御飯でも食べないか?」

 ふと時計を見るとまだお昼を過ぎたばかりだった。こんなにも早く配達の仕事が終わるなんて滅多に無い事なので、ハルは嬉しそうに胸の辺りで手の平を合わせると「本当ですか!」と笑顔を見せた。そして今の今まで死にそうな顔をしていたテツキも一転して「やったぁ! 飯だぁ~!」と歓喜の声を上げる。

 だが、一人浮かない表情を浮かべているフウトに気付いたイシンは真横まで近付いて行くと、

「そんな顔をするな。たまにはみんなで御飯を食べたりするのも凄く大切な事なんだぞ。しかもそれが『仲間』なら尚更だ」

「いや……別に嫌がっている訳じゃないんだけど……いつも一人だったからさ」

「それなら一層の事だな。色んな意味でもそういう触れ合いでまた何か分かる事もあるかも知れないからな」

 そう言うとフウトの背中を軽くポンッと叩いてハルとテツキに向かって「バーベキューなんてどうだ?」と提案を投げ掛けると「あっ! それ良いかも」と好反応が返ってくる。

 イシンの考えとしてはただ御飯を食べるだけじゃなく、準備からみんなでする事で一層の深まりが出来ると考えた上での提案だったのであろう。

 口々に役割をどうするかなど話し合っていると「ポト~!」っと窓から声がする。一斉に振り返って見るとそこにはポトの姿があった。

「依頼ポト! また今回も早急に頼むポト!」

 一瞬、空気が張り詰めた様な感じになった。それもその筈である。『ファーラ』からの手紙のせいでフウトは散々な目に遭ってしまったのだ。とはいえ別に『ファーラ』からの手紙が悪い訳じゃないという事は分かっている。だが、簡単な仕事じゃないという事も前回の事から悟っていた。

 そんな中、唯一緊張感の無い人物がいた。テツキだ。何故ならテツキはポトに会うのが初めてで……一体何だ? このふざけた生き物は? くらいにしか思ってなかったのだった。ポトの居る窓目掛けて向かって行くと、指でポトの体を突付き始めた。

「お前一体何だ? 折角みんなでこれからバーベキューをしようって打ち合わせをしている時に早急な依頼なんて持ってくるんじゃねぇよ。コートラルの今日の仕事はもう終わったんだから依頼は明日持って来いよ」

 柔らかい羽の奥へと指がズブズブ突き刺さっていく。バランスを崩しそうになったポトは羽をバタバタと羽ばたかせる。それでも止めようとしないテツキに対して、ポトの怒りが爆発するのだった。思い切り羽ばたいたかと思うとフワッと宙を舞うと共にテツキの頭目掛けて嘴で突付き返すのだった。あまりの痛さにテツキはしゃがみ込むようにして

「あ~! いってぇ~! 分かった分かったぁ! 悪かったよ! 依頼は引き受けるから止めてくれぇ~!」

 苦悶に満ちた表情を浮かべながら許しを請うテツキに対して、攻撃の手を緩めようとしないポトをイシンが捕まえる。まだ怒りが収まらない様子のポトはイシンの手の中でも尚、暴れ続けていた。

「もうそのくらいで許してやってくれ。別に悪気があってやった訳じゃないんだ」

「初対面なのに失礼ポト! 先輩として後輩を指導してやるポト!」

 相変わらず暴れるポトにイシンが制裁を与える。ポトの耳元に口を近付けると誰にも聞こえない小さな声で、「これ以上暴れると言うならハルに手渡すぞ!」と笑顔を浮かべて言うと、急に大人しくなるポト。

「そそそそれだけは止めて欲しいポト……」

 震えるような声でポトは言った。余程前回のハルにされた事に恐怖を覚えてしまったようであった。イシンはすっかり意気消沈したポトが首から提げている鞄を外すと、中を開けて手紙を取り出した。そして窓まで歩いて「依頼は確かに預かった。今回もご苦労だったな」と外に放してやると、暫く何かを考える仕草をした後「今回もこの配達はフウトに引き受けて貰いたいんだがどうだろうか?」とフウトの方に体を向けて言った。

「はい、大丈夫です」

 二つ返事でそう答えるフウトだったが、ハルは納得がいかない様子でイシンに意見する。

「イシンさん! どうしてまたフウトなんですか? 前回フウトはちゃんと『想い』を届ける事が出来たんですから今度は私かテツキの番じゃないですか?」

 少し表情を曇らせたイシンに何か重要性があるように感じるハル。そして重たい口を開くと同時に自分の想いを口にするイシン。

「だって……フウトにバーベキューの準備を任せるの不安じゃないか? 何も知らないのに任せてしまって全員食中毒になんて事になってしまったらいけないじゃないか……」

 その瞬間ハルとテツキは同じタイミングで頷いた。フウトはよく自分の置かれた状況が理解出来ていなかったが、違和感を覚えた。

(そんなに思い悩む程の事だったのだろうか?)

 さておき問題が解決した事で準備をする担当が決まった。みんなが張り切っている中で何と無く受け入れ難い様子のフウトだったが、配達の準備の為に一旦奥の事務所へと姿を消した。前回ボロボロになったコートはイシンの計らいで交換して貰い、新しく支給されたコートに袖を通す。だが、帽子と鞄は相変わらずあのままの為、少しアンバランスのようにも思えた。

 準備を終えたフウトは再び元の場所に戻って来ると、それに気付いたイシンが話し掛けてきた。

「ちゃんと俺達でバーベキューの準備をしておくからあまり遅くならないように帰って来るんだぞ!」

「そんな事言われたって届けて終わりっていう依頼じゃないから早く帰れるか分からないよ」

「はははっフウトならきっと大丈夫だ! 『ファーラ』からの手紙の届け方をちゃんと理解している筈だからな」

「まぁ取り敢えず早目には帰って来れるよう頑張ってくる」

 そう言い残しコートラルを後にするフウト。何も心配はしてないように振舞っていたイシンはフウトが居なくなると心で思うのだった。

(今回もきっと大変だと思うが俺はお前なら出来ると信じているからな。頑張って依頼主の『想い』を届けて来るんだぞ)

 どんな手紙であろうと『ファーラ』からの依頼は特別なものだという事は変わらない。それ故、いつだって大変さが付き物になってくるのだ。

 いつものようにコートラルを後にするフウトだったが、その心の中は不安で一杯だった。

(また今回も届け先の人を傷付けてしまったらどうしよう……一番強く依頼主の『想い』が残っている場所を見付ける事が出来なかったらどうしよう……)

気持ちが揺らいだまま『風のトンネル』の中へと姿を消していく。


 田舎道を歩く二人の子供と父親の姿があった。無邪気に父親の目の前を走り回り、追い駆け合う八歳くらいの女の子と五歳くらいの男の子。すると女の子の方が道端に置かれたダンボールに気付いて近寄って行く。その後を真似するように男の子も近寄って行く。二人並んでしゃがみ込むと、ダンボールの中に目を向けるのだった。何を見付けたのか疑問に持った父親が二人の頭の上から「どうした? 何か見付けたのか?」と言い覗き込む。


 キャンキャン!


 そこに居たのは子犬だった。見た感じ雑種で生後二週間といったところだろうか。女の子は見詰めながら父親に話す。

「この子何でこんな所に居るの? お父さんとお母さんは何処か行っちゃったのかな?」

 それに釣られるように男の子も父親に話す。

「子犬だね! 凄く可愛い! 連れて帰りたいなぁ!」

 二人の子供は嬉しそうに話している傍で父親は体を強張らせながら目を逸らしていた。その様子は普通の人なら異様にも思える態度だった。目の前に子犬が居れば殆どの人が「可愛い」と言い撫でるとか抱き上げるとかしてもおかしくは無い。余程の犬嫌いなのだろうかとも思えた。そんな父親に更に子供達は話す。

「もしかして捨てられちゃったのかな? 一人ぼっちだなんて可哀想だよ! 家で飼ってあげられないかな?」

「僕も飼ってあげたい!」

 父親は困った表情を浮かべながら優しく言う。

「う~ん……ママに聞いてみないと分からないかなぁ。それに本当に捨てられているか分からないから今連れて帰る事は出来ないよ」

 しゃがみ込んでいる子供達を立たせると、手を繋いで家へと歩き出した。何度も後ろ髪を引かれる様に振り返る子供。子犬が入っているダンボールからゆっくりと離れてく中で父親は心でずっと謝っていた。

(――もう犬は飼いたくない……あんな思いはもうしたくないし、この子達にもさせたくないんだ……居なくなって十七年になるんだな……もう生きている筈無いよな……全部俺のせいだ……どんなに謝っても許して貰えないだろうし、償い切れる訳も無いけど……本当にごめん……クルア)

 この父親には忘れられない程に悔やみ続けている思い出があったのだ。そのせいで犬に対して異様なまでの反応を見せていたのだ。

そんな複雑な気持ちを巡らせていると、突然子供達が走り始めた。母親の待つ家が見えてきたからだ。ゆっくりと歩く父親と子供達の感覚は広がっていくばかりだったが、以前とペースを上げる事の無い父親。すると後ろから呼び止める声が聞こえた。

「楠木洸耶さんですよね?」

足を止めた父親が振り返るとそこには目が見えないくらいまで深く帽子を被り、コートを羽織り、その上から斜めに鞄を提げている少年の姿があった。無事に『地上』に降りてくる事が出来たフウトだった。

その様子に不審そうに感じながらも父親は恐る恐る答える。

「はい。私が楠木洸耶ですが……何か御用でしょうか?」

 明らかに警戒しているのが手に取る様に分かったが、フウトはそんな事を知ってか知らずか表情を変える事も無いまま

「楠木クルアさんからあなた宛てに『想い』を届けに参りました」

 その瞬間、洸耶は驚いた表情を浮かべると共に言葉を失った。何故ならその名前はつい先程まで心の中で謝っていた相手だったからである。

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