初めて聞くその想いの中には 第1話
「いつもご苦労様!」
「いいえ、それでは失礼します」
そんな遣り取りの声が聞こえたかと思うと、路地から大通りへと姿を現すフウト。いつも通りの単調な口調に無表情。あの配達の一件以降も特に変わった様子も無く、ただ黙々と仕事をこなしていた。
次の届け先に向かって走っていると、目の前の路地からテツキが姿を現した。丁度バッタリと出会う形になった為、テツキは少し驚いた様に「おわっ!」と声を上げて体を仰け反らせた。だが、フウトだと分かると嬉しそうな表情を浮かべながら体を元に戻した。その時、フウトはと言うと驚いた様子も無く、小さな声で「あっ」と言う程度だった。
スピリアの街の中で配達中に出会える事は意外と少なく、テツキはそんな偶然にちょっと興奮した感じで話し掛ける。
「配達中に出会うなんて珍しいなぁ~! スピリアって小さいのに意外と配達している時に出会う事って滅多に無いんだよな。因みに俺は今配達してきたので終わりなんだけど、フウトもコートラルに帰る途中なのか?」
「いや、あと少し配達が残ってるよ」
「そっかぁ。じゃあここで会えたのも何かの縁だから残りの配達を一緒にやろうぜ!」
「大丈夫。一人で行くからテツキは先にコートラルに戻ってて良いよ」
「遠慮しなくても良いぜ! 滅多に出会えるものじゃ無いんだから、たまには一緒に配達するっていうのも良いじゃん」
「……だからいいって」
(――滅多に会えないって言うけど、毎日コートラルで会ってるじゃないか……)
面倒な奴に会ってしまったと言わんばかりに若干困った表情を浮かべていたフウトだったが、そんな事など気にしていないテツキは右手でフウトの背中をグイグイと押しながら走り始める。
「何かこうして一緒に横に並んで走っているとコートラルに入ったばかりの頃を思い出すよな。研修でイシンが実際に配達するのを見学する為に三人で必死に後を付いて行こうとするんだけど、手加減っていうものを知らないのかどんどんイシンに離されてしまって、気が付いたら三人共スピリアの街中に置いてけぼりにされた事があったよな。あの時はイシンの奴にマジで殺意を覚えてしまった事は秘密なんだけどな! そんな事もあって、徐々にイシンのペースに付いて行けるようになっていったんだよな。あっ! そう言えばこんな事もあったよな! やっと付いて行けて喜びに打ち震えていたのにイシンが配達先の家の前で急に固まって、どうしたのかと思ったら届ける筈の手紙を持って来るのを忘れたって……本当に頼りになるのかならないのか良く分からない奴だよな」
コートラルに来てからの思い出話に花を咲かせていたテツキが同意を求めるかのように右に顔を向けると、そこにはフウトの姿は無く鞄がテツキの右手に提げられていた。
「おわっ居ねぇ! いつの間に消えやがった! あいつは忍者か!」
驚愕にも似たその声はスピリア中に響き渡り、近くの人々達から何事かと注目を集めてしまった事は言うまでも無い。
一方、フウトがどうやってテツキの前から行方を晦ましたかと言うと、長々と下らない話を聞いている暇は無いという事で鞄に入っている残り数枚になった手紙を取り出すとテツキに気付かれないように、鞄に帽子や上着を入れ、ある程度の重さにするとテツキの右手に提げると同時にすぐ横にあった路地に入って行ったのだった。
呆然と立ち尽くすテツキの周りからヒソヒソと話し声が聞こえる中、折角の感動の再会を喜んでいたのも束の間、一瞬にして孤独となってしまったテツキは仕方無くコートラルに戻って行く。それとは真逆で開放的な一人になれたフウトは次の配達先に向かって行った。
先にコートラルに戻って来たテツキから十数分遅れる感じでフウトが帰って来る。ドアに手を掛けて開けた瞬間、物凄い勢いでテツキがフウトに向かって来た。
「何でいきなり姿を消すんだよ! ついつい大声を出してしまって街の人達から変な目で見られちゃったじゃないか!」
「僕の鞄は?」
「あ、鞄なら机の上に置いといた。あと中に入っていた帽子と上着はウッドコートハンガーに掛けといたから――」
「うん、有難う」
ドアを閉めたフウトはそう言いながらテツキの横を通り過ぎようとする。
「いやいや気にするな……っておい! 何、話を変えてるんだよ! 俺がどんだけ恥を掻いたと思ってるんだよ!」
後方へと姿を移動させていくフウトに対して体をゆっくりと回転させるようにして追い掛けていく。
「だってそれは勝手にテツキがした事なんだから僕には関係無いよ」
「フウトが何も言わずに居なくなったからこんな事になってしまったんじゃないか!」
「だってテツキに何を言ったしても絶対に付いて来るから……」
「そりゃあ偶然にも会えたんだから一緒に配達するのも良いじゃんか!」
「いや……毎日コートラルで会ってるし……」
「分かって無いなぁ~。良いか! コートラルで会えるのは当たり前な事だけど、スピリアの街中ではそういう訳にはいかないんだよ! お互いに向かう場所も分かり合っていないのに偶然にも会えるこの奇跡! この感動が分からないとはフウトもまだまだだなぁ~!」
呆れた様子で自分の机に座ったフウトだったが、テツキは更に追い掛けて来る。そこに遣り取りの声を聞いたイシンが奥の事務所から「どうしたどうした?」と言いながら出て来た。机に座ってるフウトに対してテツキが話している状態を見たイシンは
「何だ、今日はフウトとテツキが揉めてるのか? 意外と珍しい組み合わせだな。俺はてっきりまたハルとテツキが揉めているのかと思ったぞ。はははっ」
傍でフウトと同じく呆れた様子で見ていたハルが立ち上がり
「私をテツキみたいなトラブルメーカーと一緒にしないで下さいよ!」
反発したハルの言葉に対してテツキが返す。
「何で俺がトラブルメーカーになってるんだよ! トラブルをメーカーになんてした事無いぞ!」
「そういうところがトラブルメーカーなんじゃないの? って言うか何で今トラブルメーカを二つの単語に分けたの?」
「ハルはそんな事も知らないでトラブルメーカーっていう言葉を使っていたのかよ! トラブルって言うのは『トラック』と『ブルトーザー』の略式なんだぜ。それがメーカー、つまりメイド・イン・カーって事なんだ! えっと……だから……纏めると……」
「もう自分で何を言ってるのか訳分かんなくなってんじゃん!」
一体何に対して揉めていたのかさえも分からなくなってしまったコートラルの四人だったが、取り敢えずテツキが原因だという事だけは、はっきりしていたのだった。そしてフウトが放った一言によってテツキの処刑が確定する。
「そう言えばテツキってイシンに対して殺意があったんだって」




