【魔法使いのラブソング】
人は誰だって精神が荒む時はある。
心に闇がおりて、辛くってどうしようもない時がある。
そんな時は、強い光でなくたっていい。
夜道に浮かぶ、カンテラの灯火程度の光でいい。
そんな明りでも、人は前に行くことができるから。
種類様々な異能があふれる月本市に、魔法は存在する。
白川実子が開門する以前より、地球に存在するその技術の根本は『繋ぐ力』である。
遠くと近くを繋ぐ力。
他者の心と自身の心を繋ぐ力
敵と破壊を繋ぐ力。
その力を持つものを、心を繋ぐ魔法使い<ラブソング>と呼ぶものは呼ぶ。
まったく逆の魔法を使う者達がいる。
力を使いこなせず、使うことを怖がり、他人に恐怖を押しつけてしまう。
他者を拒む力となってしまう者達。
思春期の少女が陥る傾向の強い、その分類を、心を拒む魔女<ヘイルホーリー>と呼ぶものは呼ぶ。
広瀬罪雛という少女は、魔法使いの家系に育ち、一流の魔道教育を受け、特別な家系以外には使用不可能であった術さえ復元してしまうほどの才覚を持った、将来有望な娘であった。けれど、周囲の期待は心に負担をかけ、普通の子供のように遊んだり友達を作りたいという気持ちを抑えつけて過ごす日々は彼女の心を蝕んでいた。
そして、とある夜に魔術の行使に大失敗して以来、彼女の心の均衡は崩れに崩れ、ついに罪雛は、人を拒絶する魔法しか使えなくなってしまった。
という典型的な魔女で、
鬼灯炎という少年は、異能などと関わってはこなかった。両親共働きのため祖母に真っ当に育てられ、よい意味で血の熱い先生によい教育を受け、大切な大切な友達を作り、その子が魔法使いであったため、思わず魔法を習得してしまった。
とかく優しくて、人の心の繊細さというものを、大事にしたがる傾向があった。
それが、わがままだとしても、自業自得だとしても、荒んでしまった同年代の人間を、放っておけない性質で。
心を持てあまし外部に悪意をふりまく魔女を放っておくことなどできなかった。
炎にとって、罪雛はもろ、ど真ん中であったのだ。
罪雛は戦う。
人に害なす者と戦い、それを止める。
罪雛自身のように、他人も自分も苦しめる行為をしなくていいように、戦って止める。
その瞬間だけは、自分が世界に必要とされている気になれるから。
炎は会話する。
苦しんでいる者と話し、それを共有する。
別に自分が救ってやれるなんて思ってはいないけれど、やれることはやる。
その瞬間だけは、幸せを祈る時間だけは、誰にだってあっていいはずだから。
月本市月本町。二人の魔法使いが、生きている。
ラブソングを口ずさみながら。




