【平行協定】
最早、収集がつかなくなってしまった。
神話の領域から綿々と息づく、妖と魔は、タガが外れたように白昼の下にさえ現れ出した。
妖怪が歩き、人が怪物となり、夜は完全に人のものでなくなった。
魔がいなくなってしまったから、機能していた夜の部分が崩壊し、物流を破壊した。決して今までなかった、人の社会にさえ影響を与え始めた。
あった可能性。あったかもしれない技術。超科学。魔術。超能力。堰を切って、あふれだした。これまで稀にしか確認できなかった異能の持ち主たちが、大量に目覚め、確認されはじめた。
魔術を制御する月本一族や、鬼郷の者、錬仁宗。それらが掌握し、管理している以外の異能者の出現は、共同体の崩壊をさらに招いた。
地球と相対する存在、ア・イデア。彼女の眷属が地球に落下することは、それなりの数が確認されていた。しかし、白川実子が門を開いたその日から、宇宙からの来訪者達は、そのすべてが、月本市に落下点とするようになった。因果が、そうねじ曲がってしまった。
白川実子が門を開いたその日から起きた、この一連の大災厄は、いまだ止まらない。
これに対して、根本的な対策がないからだ。
異世界と月本市をつなぐ門はなんとかすべてを閉じることに成功した。
けれど、チャンネルがつながってしまった今、いつまた門が開いてしまうかわからない。
今、この町にただよう彼らを、どうやって止める? 誰が止める?
ならばどうする?
結論から言うと、それぞれの世界の代表者と話しあうことにした。
そして、お互いに不可侵とするべきであることを確認し、それぞれの世界の者や物が流れ着いた時は、それぞれの世界の執行官がそれを対処回収することにした。
剣祖文明圏に繁栄する王国から流れ着く、怪しい魔術師やあらくれ者は、黒い甲冑に身を包んだ騎士が捕まえることとなった。
地獄より糧を求めて這い出す魂を吸う怪物達は、地獄より現れる時を操る少女によって、ぶちのめすこととなった。
数十万の竜が生息する大陸より迷い込んだ幻獣の雛は、竜の王自らが迎えに行くこととなった。
人類が存在しない地球より迷い込んだ人によって根絶されなかった絶滅動物達は、知性あるゴリラによって導かれることとなった。
滅びた世界より難民としてたどりついた妖精達は、平行協定を理解できた一体の代表妖精によって管理されることとなった。
この世に生を取り戻した妖怪達は、自らの組織を作り、統制を取ることで廃滅の動きから逃れた。
このように、このように、確認できる異界と、その代表者との間で、相互救済を目的とした協定が結ばれることとなった。
しかし、大きな問題が出てきた。
この一連の異変に、解決の方向を見出した。
つまり、平行協定の話を実現にまでこぎつけた一番の立役者が、就職活動真っ最中の女子大生であったということ。
無限の異世界を相手取り、彼女の名で協定を結んで、組織は機能するのか?
そもそも、その組織は何だ?
その時、運用に資金を出すのは、誰だ? 公的資金を導入するにしろ、その法的根拠は?
というか、彼女は誰が給料を払うのだ?
なし崩しであった。流れのまんま、一番最初に、異界に関する苦情を受け取って、化け物とのファーストコンタクトを経験した月本市役所が平行協定の実務機関となり、彼女、女郎屋敷小夜子は月本市役所に採用が内定した。
そういうわけで、彼女はなんとなく、コネで入ったような気がして、あまりこの時期のことを話したがらない。




