甘辛童子
その子供の形をしたものは、赤かった。
燃えるような赤い髪をしていた。
作り物のような、現実感のない長髪が、足まで伸びて、地面に垂れる。
きっと赤いシャツだった、襤褸切れを纏い、その下の皮膚は、赤銅色。
赤く、赤い瞳。
赤く、赤い爪。
その額、赤く赤く、赤い角一つ。
異形の子。
これまで幾度となく、幾種となく見てきた、『童子』達。
それらすべてを押しのけて、異形番付一等席に現れた子鬼。
時間は、土曜日の昼下がり。中途半端な時間帯。
天気は、晴れ。雲は空の3割程度を覆う。
場所は、家から、100メートル先のコンビニに行く途中のただの道。
場所は、並ぶ民家の、塀の上。
目撃したのは、『安綱』月本喜須。
悩みも、事情も何もない。
ただ、歩いていたら、それはいた。
赤い童子は、笑いもせず、怒りもせず、泣きもせず。
ただ、目があった。
合っただけなので、無視してコンビニで雑誌を買った。
帰り道にも、同じ場所にやはりいた。
家に帰り、離れ屋敷の戸をあけて、縁側に<座敷童子>が寝そべっているのを確認して、部屋に入ると、同じように床に体を横たわらせた。
色素の薄い喜須の赤髪が、畳に拡がる。
あの赤髪の童子のことが、脳裏に浮かぶ。
私の髪の色と、関わりがあるのだろうか。
赤い髪の女の前に現れる童子?
なんだ、そのニッチな存在は。
しかし30万もの『童子』がいれば、一人くらいはそういうのがいてもおかしくは、ない?
寝返りを打つ。
今まで出会ってきた童子達は、皆自然現象に子供の形を与えたものであったり、人の感情に反応する者達ばかりであった。
けれども。
特に意味もなく、そこにいるだけの童子だっているのではないだろうか。
すべての童子に意味だの役割があるわけでは、ないのではないだうか。
見た目が派手なだけのただ、そこにいるだけの『童子』
そこで、なんだか、おかしくなってしまった。
それは、私と似ているな。




