湖面童子
4月。
少し色素の薄い髪をした少女と同類、いや友達になってから、幾日がすぎた。
同じクラスだが、帰宅部である親友はさっさと帰ってしまい、帰り道は大抵一人。
そうして、一人のときは、よく空を見上げる癖がある。
月の光に、生気が満ちてきたように思う。
部活の片づけが遅くなり、帰ろうと校門をくぐる頃には、外は夜になっていた。
田園のど真ん中に立てられた柊学園の出入り口から、バス停のある国道までの50m。
農業用道路を無理やり拡幅舗装した一本道(10mごとに防犯灯)
おかっぱの髪の少女は、その風貌やしゃべり方とは似つかない、可愛らしい歩みでてくてくと帰路についていた。
それなりに、歩みは速い。
春の夜の空気の、ちょうどよい湿度と気温が、高揚感を与えてくれるから。
今年はまだ桜をちゃんと見ていないな、なんてふと思う。
暦の上では、<花咲童子>が出てもおかしくないのだが。
去年は、入学式に桜吹雪が重なって、見ものであった。あれだけでも、この学校に希望が持てた。しかし、最近疲れて余裕がないせいか、あの幻風景を見て、ちゃんと心が揺らぐか、心配である。
そんなことを友達に話せば、一体何と言うだろうか。
不思議な気分だった。
一人の時に、誰かのことを気にすることなんてなかったのに。
少し、恥ずかしい話だが。
『童子』が見えない他人には、自分の気持ちはわからない、なんてこっ恥ずかしいことをつい最近まで心に秘めていたのだ。
自嘲を含んだ、笑いが口元に浮かぶ。
ほんの少し、強い風。
春の温度と、水田の湿度を含んだ、温い風。
そんな風に撫でられて、無意識に、視線を横にやった。
防犯灯で照らされないくらい、向こうの方。
田植えの準備のために、水を張った田の向こう。
水面の上に、角の生えた少年が立っていた。
「確か、<湖面童子>だったか。水鏡の上にだけ、存在することのできる」
どうやら、こちらを見ている。
「言い伝えでは、己の気持ちと向き合わなければならない人間が、見ることが多いのだった、かな?」
子鬼は、ただこちらを見ている。
いや、見ているのは私か?
さて、今夜も帰れば進路のことで母と口論になるのだろう。
だから、私に見えているとでも言う気なのだろうか。
間久部冬子は空を見上げる癖がある。
見上げたら、ちょうど防犯灯の真下で、光に思わず目を閉じた。




