落魂の都
額に角の生えた、常人には見えない少年の姿をしたモノを総称して『童子』と呼ぶ。
『童子』を見ることのできる人は、自分達を『安綱』と呼ぶ。
あまりにも、的確で、的確であるがゆえに足りない説明を済ますと、スカジャンを着たおかっぱの少女は、続けた。
「まあ、子鬼だわな。陰を好んで、にたにた笑ってるだけ。ただ、その笑いが心のやましい人間を苛立たせるんだ。だから、童子が見えてるつもりが、逆に見られていることに耐えられなくて、心を病む人間も多い」
私の父が、典型的なそれだった。
随分と遠くを見ながら、少女は言葉を口にする。
「<開眼童子> 人に童子の姿が見えるようにしてしまう、異質な童子に魅入られたせいだな。お前様も、『安綱』になってしまったということだ」
あの日見てしまった、角の生えた、白髪の男の子。
あれが、それだったのか。
「よその町には童子なんてほとんどいない。1万人くらい人が住んでいれば、童子が一匹。ほとんど誰もその姿を見ない」
「でも、この町には少なくとも30万を超える童子が住んでいる。人間は10万人も住んでいないのに。この町は、子鬼の都なのさ。そして、童子を見ることのできる人間が増え始めたせいで、人の社会と童子の社会がだいぶ近い」
窓の外には、木に逆さにぶら下がる半裸の少年がいる。
ビルの陰で、体育座りをしている、小柄な男の子が、嗤っていた。
毛むくじゃらで、2足歩行をする犬のような姿の子供のようなものが、道の真ん中を歩いている。
皆、額に小さな角が生えている。
誰も、彼らに気付かない。
「まだ、だあれもあいつらに気付いていない。けれど、あの白髪の糞餓鬼が歩きまわれば、見える人は増えていく。さて、あいつらと向き合わなければならなくなった時、人は、折り合いをつけることができるのだろうかね」




