もののけ三銃士・時系列的には最後の会話
試験管もすべて洗い終わり、一時間ほどお喋りをして、左子と文蔵は解散の運びとなった。
誠一と千草は今日は来れない日であった。
しかし、ついに明日は誰も用事のない日であり、顧問の先生も来れるという。
ついに、全員が集まる日が来た。
そう考えると、もしかしたらこの騒動はちょうどよいタイミングであったのかもしれない。
左子達が、お互いのことをそれなりに分かりあう機会としては。
明日が楽しみだが、証城寺文蔵は家路の途中ため息をついた。
不安が二つあった。
一つは、明日化学の小テストである。5点以下では再テストの復習プリントを、4月から全て再テストになっている。明日もなりそうである。
真面目にやってはいるのだ。
生物と地学のテストは満点を取れている。
なんでだろう。
帰ったら復習しようと心に決めた。
しかし、できるだろうか。そんな時間があるのかどうか……。
もう一つの不安。それは。
寮住まいである姉の刹那が、久しぶりに非番で家に帰ってくる日なのだ。
さて、何を言われるのやら。
古くから月本市に建つ木造屋敷が、証城寺家である。
月本コンバーティング取締役は、それなりのステータスなのだろう。
玄関の引き戸に手をかけ、いつものようにただいまと声を出す。すると、お手伝いさんではなく、着物に割烹着姿の刹那がとたとたと出てきた。
「文、御帰りなさい」
「……た、ただいま」
まるで夫婦のように文蔵の鞄を取り、夕飯か風呂かと訊いてくる。
「姉ちゃん、どうしたの?」
「私いつも着物でしょ? 父さんも母さんも出かけているから、今日は久しぶりにお姉ちゃんがご飯作ってあげるね」
「姉ちゃん、僕も大概なところあるけれど、一応言っておくね」
部屋まで着いてきた刹那に脱いだ学ランを渡しながら
「あの、ついこの前まで対立してたと思うんだけれど、いいの?」
「ああ、それ? 私、公私は分ける方だから。今はただのブラコン独身女よ」
「……、まあ姉ちゃんがそれでいいなら、僕もいいけれど」
姉の作ってくれた食事は、品数が多い癖に、一々手間をかけた、随分と愛情の籠った料理であった。
見た目通りの大食漢である文蔵と、意外と健啖家の刹那の二人の食卓は、あっさりと全て平らげた。
御櫃を空にしてごちそうさまをして、お茶を飲んでいる最中に、刹那が、質問した。
「文、一つだけ教えて」
「二つでも三つでも」
「何故、最初の時に、あれを無視しなかったの?」
「……助けてって言われちゃったから」
「それ以前に、あれに近付かないって選択支もあったでしょう? この世ならざる者と出会うのも初めてでなし。情が湧く前に切り捨てる判断は、あったはず。見ず知らずの宇宙生物と、友達二人の安全だったら、前者を切り捨てる。それは、あなたの許容範囲だったはずよ」
「……そうだね。異界と触れる時は、中途半端な手助けはしない。ばっさり切り捨てるか、全力で守るか。本当の一番最初に、どちらかを選ぶ。うん、姉ちゃんの教えてくれた気構えだもの」
「なのに、どうして危険をおかしたの? 怒ってるんじゃないの? ただ、今までの文なら多分、選ばなかった選択だから、どうしてかな? って」
「うん……」
一度視線を下に落としてから、考えを整理して。
「多分、先輩と話したからだと思う。僕に、ありがとうって言ってくれたから。1人でどうしようもない時に、声をかけただけなのに、それを、本当に大事そうにありがとうって、さ。だから、もしあの時に切り捨てるって判断をしたら……、先輩がっかりしちゃうんじゃないかって……」
今度は、刹那がため息をつく番であった。
「博愛主義の塊に、気になる異性ができることを、お姉ちゃん喜んでいいのか、さみしく思うべきなのか」
「先輩は、そんなのじゃないよ」
文蔵は、頭の後ろを掻きむしりながら、そう答えた。
「ところでなんで先輩って言葉だけで島先輩のことだってわかんの?」
「そりゃ、弟の身辺調査くらい済ませてるわよ」
「姉ちゃんそんなキャラだっけ?!」




