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月影次郎
月影という言葉がある。
意味は月の光に照らされてできる影。もしくは月光に照らされるものそれ自体。
そして、月の光。
月影とは、夜を構成するすべてに該当する言葉である。
月の光は、ただものではない。
夜に出歩く癖ができてからは、なおさらに、そう思う。
僕と、月の光から生まれた夜の影法師と一緒に、静かな夜を歩く。
歩きながら、思う。
今、この時間帯、世の中は月影で満ちている。
僕も、静かに闇をたたえる水田も、見えないけれど、確かに軌跡を感じる風も。
今はすべてが影だ。
では、僕の足元から延びるこの影は、なんなのだろう。
光に名前まで奪われたこの黒い輪郭は、なんと呼べばいいのだろう。
あの日、あの子にそんなことを喋ってしまった時。
彼女は少し首をかしげて
「月影影?」
なるほど、と思ってしまった。