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前回出てきた『ローラ』の設定をだいぶ変えました。
名前も変えてしまったので、お手数ですが気になる方は一つ戻ってからお進み下さい。
城で働くこと約一月。
リンドウは仕事にも徐々に慣れ始め、充実した日々を送っていた。
最初こそは上手くやれるか少し不安だったが、ここで働いている人たちは皆親切で丁寧に仕事を教え、優しく接してくれる。そしてなにより住み込みで働けるので、衣食住の心配もしなくていい。
新しく始まったこの生活にリンドウは大いに満足していた。
「リンドウ、お疲れ」
「お疲れ様です。サラさん」
休憩時間。声を掛けてきたのはルームメイトのサラ・モウラス。彼女はリンドウより二つ年上で、サバサバとした性格で男勝り。また何かとリンドウを気に掛けてくれる面倒見のいい人物だ。腰まで伸ばした漆黒の髪を横に緩く結い、目鼻立ちがハッキリとしているその顔はなかなかの美人で異性に声を掛けられる事も少なくないんだとか。因みにルームメイトはサラともう一人いるが、今日は付き添いで城の外へ出かけている。
「しっかしアンタ、制服なんでそれにしたの?」
暫く雑談をしながら歩いていると、サラが「そういえば」という風にリンドウに尋ねた。
「別に遠くから見つけやすいからいいんだけどさぁ…女でその格好の奴、アンタが初めてだよ」
「そ、そうですか?」
「リンドウって結構変わりもんだよなぁ」
「は、はは…」
サラの言葉にリンドウは苦笑いした。
確かに、自分が変わっているのはリンドウ自身も自覚していた。この格好で仕事をしていると大抵の者から驚かれたり、男に勘違いされたりすることがこの一ヶ月よくあったからだ。
「そういえば、アンタ。今日また新しく新入りが来るんだって。知ってた?」
「あっ、そういえばさっき皆さんが噂されていました。何でも大商業の跡取り息子だそうです」
最近この城では定年を理由(主に70前半から後半)に辞める使用人が相次いでおり人材が足らず、猫の手も借りたいほど毎日忙しい。リンドウがレイゼルに呼ばれたわけもここにある。
しかしリンドウが働き始めてから誰かが新しく来るのは今回が初めてで、初の後輩にリンドウは少し胸を躍らせていた。
「皆さん玉の輿だといって喜んでらっしゃいました」
「そうらしいねぇ。ま、役にたちゃこっちは何も言う事ないんだけどさ。そういう奴って嫌々来る事が多いんだから困るよな…」
「えっ、そうなんですか?」
リンドウがそう言うとサラは「うーん」と唸り、リンドウの耳に顔を近づけ、声を小さくして話し始めた。
「なんか前にも何回かそういうのが来た事があってさ。ほらここ仮にも王城だろう?だから純粋にここで働きたいってよりも王様に…何ていうんだろう?アピール?するために親が来させるみたいでさ。子供の方は全然やる気ないから邪魔なんだよ。注意してもろくに聞かねぇし。」
「そ、そうなんですか…」
はは…と苦笑いするリンドウをよそに、サラはギュッと顔をしかめ鼻を鳴らした。せっかくの美人が台無しである。
「挙句の果てには「お前ごときがいちいち指図するな」だもんな。腹立つぜ、ほんと!」
「はは…大変だったんですね……。今回来た人はそうじゃない事を祈りましょう」
「そうだな。じゃ、アタシはちょっとこっちに用があるからまた後で」
「はい、分かりました」
―新しい後輩…どんな人だろうか?
出来れば誠実な人がいい。
自分のためにも、サラのためにも、リンドウはそう強く願った。