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「…ところでレイゼルさん。こちらで雇ってもらえるって話は本当なんですか?」
机に飲みかけのカップを置き、リンドウは床に置いた鞄から一通の手紙を取り出した。手紙には丁寧な字で差出人『レイゼル・グリスト』、宛名『リンドウ・クロウズ様』と書かれている。
「なんでも使用人として住み込みで働けるのだとか…」
リンドウの言葉に、彼女…もといレイゼルは「もちろんですよ」と笑顔で頷いた。
「貴方とは昔からの付き合いですもの。困ったときはお互い様とよく言うでしょう?」
「っ…ありがとうございます」
レイゼルの言葉に胸がじぃんと熱くなり、リンドウは深々と頭を下げた。しかし、彼女は「いえいえ」と謙遜しカップを机に並べる。
「そんなに頭を下げないでください。あ、そういえばリンドウさん。」
「はい?」
「制服の事なんですが、本当にあれでいいんですか?随分と変わったデザインを注文されていましたけど…」
「ええ、あのままでお願いします。あの格好が1番動きやすいので」
「そうですか…ふふっ」
「どうかされましたか?」
「いえ、そういう少し人と変わっているところ、貴方のお姉様…スイレンさんとそっくりね。なんだか昔を思い出します」
「……!」
『スイレン』
その名前を聞いた途端、リンドウは肩を強張らせ、目を見開いた。膝で握り締めた拳が小刻みに震え、嫌な汗が頬を伝う。
―リンドウッ!
えっ?
…お姉ちゃん?
う、そ…だよね……?
ねぇ…そう、だよね?
…なんで?
ねぇってば……返事してよ……
お姉ちゃ…っ!!
どうして…
何故だ?何故お前が生きているんだ…!?
お前が…
お前が死ねばよかったのに!!
近寄らないで!
アンタの顔なんか見たくない!!
「……ドウさん、リンドウさん!」
「……っ!!」
「どうかされましたか?」
顔を上げると、向かいでレイゼルが心配そうな顔でこちらを見ていた。
(何してるんだ、しっかりしろ。こんなところで取り乱してどうする。
もっと冷静にならないと…)
深呼吸を繰り返し、どうにか平常心を取り戻す。
「いえ、何でもありません。それよりこちらではいつから働かせて頂けるのでしょうか?」
「ああ、それなら今日制服を渡しますから、明日からでいかがでしょう?今日はここに泊まっていって下さい」
「…お願いします」
「では、ここで少し待っていてくださいな。貴方の制服を取ってきます」
そう言ってレイゼルが部屋を出て行った後。
冷え切ったお茶を口にしながら、リンドウは一人、天窓から覗く太陽を眩しそうに見つめた。