そして、君と恋まで
タイトルに恋とありますが、期待はなさらずにお読み下さい
この世界は、二つの大陸で二人の王様が争い続けている。私は楠木楓高校二年生の平凡という言葉が似合う、自称少女だ。
何故、自称かと言うならこの世界の人間は、デカイ。近年の小学生の発育何か目じゃない。これでも、私の身長は164だよ?17の私のこの身長が、この世界では何と驚き桃の木…10歳頃の身長なのです。
馬鹿みたいでしょう?
これには理由があって、彼等は人間では無い。えぇ、『えるとせら』という種族なんだそうで。私から解説すると。
虎の、獣人でした。
この世界は、人が太陽の加護を受けて獣の強さを得た、と言われていて。その為に獣の姿が美人の条件になっているとのお話。
髭も無いし、耳も尻尾も無い私は『加護無し』と言う保護対象だけど、ブサイクで憐れな存在なんだそうだ。
ケモ耳爆発しろ。
そんな私は国に拾われ「此処何処!?」「何これ!!?」とパニックだった所を、咎人の牢獄の使用人として放り投げられました。
なぁ、保護って辞書で調べてみな?
そこで、虎が二足歩行するこの大陸の王様に「巨大な円形脱毛症になれ!」と、歌う様に呪いながら。牢獄という塔の庭の周りをちまちま掃除する毎日をしています。
腰の曲がったケモ耳のお祖父さんが、門番をしており、その人のお陰でやっと世界やあの虎キングの事を知ったのですがね。
あの王様は無いと思う、突然。マッスル野郎も尻尾や耳を生やして、顔がリアルタイガーマスクで何処のサーガです!?と、なっている私がグレイよろしく連れて来られて一言。
「何と醜い!咎人の牢獄へ連れて行け!」
だから、私は呪っても許されると思うんです!
ノロウイルスでもかかれば良いんだ!
「はっげっろ!はっげっろ!虎の王様、はげてまえー。そうして、君こそ醜いぞー?どうした、寒いか?ザマァミロ!」
衣食住の保証がされている中で、私は今日も自作の『禿げよタイガー』の歌詞の4番目をノリノリで歌いながら、箒で落ち葉を集める。
あぁ、この落ち葉があのタイガーの抜け毛なら。
どんなに遣り甲斐があった事か!
口惜しいと集めた落ち葉を見下ろして、私はいそいそと大きな布袋に入れる。これは、憎らしい事にキングタイガーの元へと運ばれるのです。何故?
解説しよう!
この世界に来て一ヶ月目の私は、保護した義務というトラペラー(虎エンペラー)の気遣いと言う名の、言葉の暴力にキレたのだ!
だって、この世界の文字。古典とかで稀に資料にある崩し漢字みたいなので、読めないから、私が。なので、直々に遣いの虎が、毎回読み上げるのだ。
「醜い加護無し、何か欲しい物があるなら加護以外でならば用意してやろう」
とか。
「今回は染料を用意してやったから醜い顔に髭でも描いて慰めるが良い」
と、遣いの人が私の顔に髭を描いて、肩を震わせながら帰った。
とか!
だから、落ち葉を裸の虎様の毛色に近い色の落ち葉を一週間掛けて、厳選に厳選を重ねて日干しして、簡単に粉々になる様に徹底的に乾かして。
「醜い加護も無い私からです。お優しい陛下の心労を木々の葉の香りを全身に浴びて、どうか癒して下さい」約:醜い言い過ぎだこのタイガーマン!加護何て面倒なのいらねぇんだ、ボケッ!この枯葉で悲惨な目にあえばよろしいわい!
と、贈ったら。
風呂に入る前に、専用の部屋作って、童心に返って遊ぶ位気に入ったらしく、あの落ち葉を所望されているとか。
そして、塔の廻りに数本だった木が一週間の間に十倍以上になった。
ガッテム!
「カエデ、お疲れさんじゃな」
「あ、おじいさん!いえいえ、まだ後…第18番目は歌えます」
「カエデの歌を聞いとると、ジジイが禿げそうだなぁ…」
「やだなぁ…私の歌の効果は、虎殿まっしぐらです。山脈だろうが、軽々飛び越えますよ」
門番のおじいさんがへたぁ、と耳を器用に下げるのに満面の笑顔から鬼気迫る表情を浮かべて私は拳を握り締める。
そう、私の願いは唯一つ。
地球に帰れなくても良いから!
あの、虎の国のキングが禿げてくれる事のみ!
「きっと…それが叶えば私は聖人になれる」
「あまり、遣いの兵士には知られない様にするんじゃぞ?」
うっとりと禿げた虎陛下を想像して、私が恍惚の表情を浮かべるのにおじいさんが、深く息を吐きながら私に何かを差し出した。
「まぁ、良いわい…それより、カエデ。頼みがある」
「はい?これ…鍵束ですよね?」
おじいさんから受け取った鍵束は、どれも同じに見える鉄の鍵が1、2…18個もある鍵束でした。
「うむ、この牢獄の鍵じゃ」
「へぇ…どれも同じに見えますね」
「うむ、しかし。一本だけ違うんじゃ」
一本一本、私は手に取って良く見るが、違いが判別出来ない。鍵を戻したら、直ぐにさっきの鍵がどれかも検討が付かなかった。
「これを見分けるとか、おじいさん…流石、門番ですね!」
顔を尊敬したじい様が、遠い場所に居る。
「おじいさん…?」
「うむ…わしもわからん」
遠い場所で更に後ろに退くじい様は、変わらずの笑顔だ。そして、嫌な予感がする。気のせいだと良いな。
「カエデ」
「…はい」
「その鍵束はやろう」
「はぁああッ!?」
「この牢獄の一番上にな、その中の一つでしか開けられん鍵があるんじゃ」
「いや!?言わんといとくれ!私の中2が騒いでるから、あきまへん!」
「それが、どれか分かったら…カエデにやろう」
おじいさんが笑みを絶やさずに言うと、彼は跳んだ。高らかに、木々の上を跳んで、逃げた。
歌の効果にじい様も加えよう。
流石、加護持ちは違うと私は恨みを込めてじい様の消えた方角を睨み付け、盛大にキングオブタイガーにも念を送る。禿げ散らかせと。
「…虎穴に入ずんば、バリカン得ず」
気を取り直し、私は気合いを入れて鍵束を握り締めると、初めて咎人の牢獄に足を踏み入れた。
「はげよーよ、おうさまー…わたしーの、た…めーに…」
キッツイ、この牢獄。
牢獄の中は大きな柱が真ん中にあり、そこから油…いや、止めておこう。柱には板を突き刺しただけというシンプルなものだった。きっと螺旋階段の代わりに、これを使うんでしょうが。板ですよ、板です。
踏む度にぎしぃ…となって、心臓に悪いし不安定だし、怖い!そして下の床が小さくなってもまだ天井が見えないってどういう事だ!
「バリカン欲しいけど、命が大切だぁあああっ!」
恐怖に勝つ為に、登りきったらバリカンが手に入る。そう認識しないと、到底登れません。
ぐずぐずと鼻をすすり、震えながら螺旋階段を登り続けていると、柱の部分にぽっかりと大きな穴があったのを私は発見した。
見つけた瞬間、私は罠だとか危険とか考えずに飛び込んで。やっと、不安定な状況から脱出…しとらんが、落ち着けたのに安堵する。
「じい様め…もしかして、加護無しとやらの私の事を考えずに言ったの?」
ならば、許さん!
じい様の髪もバリカンで刈り取ってくれる…ッ!
歯軋りをして私は怒りに拳を震わせていると、ふわりと穴の奥から風が吹いてきた。
「…奥に、何かある?」
不思議になり私は再び、四つん這いになりながらもゆっくりと奥へと向かっていく。
「むしろう、むしろう。ブチブチと!憎しみこーめて、と…お、梯子だ!」
穴の奥を進み続けると、目の前に頭上から光と一緒に梯子があった。
勝った!!!
「ふふふふっ!これであの虎の巻皇帝も年貢の納め時よ!」
梯子を意気揚々と登った私の視界に広がるのは、檻。
そしてその中に鎖を全身に巻かれた。器用に背中を壁に預けて床に座っている、銀色の大きな狼が居た。民族的、例えるならアラビア系の衣服を身に纏い目を閉じていた狼は、目を見開くと。
「先程から、不穏な呪いをしていたのは、お前か。幼子よ」
金色の目で此方を見て、低いけれども艶のある声で話し掛けてきた。
「…どうした、やはりエルクレムは恐ろしいか」
「…た…」
「…何?」
私の呟きに狼は耳をぴくりと、動かして此方へと顔を向けた。それに、私も彼を睨み付けて。
「バリカンじゃなかった!って、言ったんです!」
「ばり、かん?」
そんな、恐怖に頭を軽くヤられてハイになっている私が、咎人である狼の獣人の、マハカティと出会って。
木々が増えて侵入が容易くなった為に、彼の国の人達がマハカティを助けようと突撃してくるのと。
私がマハカティを助けてしまった事で、色々と面倒な旅に同行する事と。
猫科の王様の背中に、ぽっかりと綺麗な十円禿げが出来るまて。
「…狼の毛って、むしりやすそう」
「止めろ」
あと、少し
クイズ『楓が虎の王様の事を、何回呼び方を変えて言ったでしょうか?』