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幼い日の記憶
幼い私は夜空を眺めていた。
隣には父がいて、私の手をつないで楽しそうに宇宙の話をしてくれていた。
楽しい父を見るのがうれしかったのだと思う。私は父が熱心に指してくれる星空を目で追いながら話を真剣に聞いていた。
「つまらないかい?」
時折心配そうに聞いてくる。
私はふるふると小さく首を振る。
「もっとお話して」
「そうか」
優しそうに笑い父は私の頭をなでてくれる。
「お父さんはね。いつかあそこに行きたいんだ」
遠くにある星を指していろいろ説明してくれる。
難しい話もありわからなかったが父が行きたいならと、
「私も行きたい」
思わずそういう。
「そうか」
さらに笑みを深くして頭をなでてくれる。
父は私の目線までひざを落として
「お父さんとお母さんと恵美の三人で一緒に行こうか」
「うん!」
幼い日の私の記憶。
父と交わした些細な約束。
でも私にとっては大切な約束であり、私木下恵美の原点というべき日の記憶である。