なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
聖女はのろわれている!
この年になると、食べるくらいしか楽しみがありません。
うん冬に肥えて脂肪をたくわえたチキンは格別よね――
「聖女! お前は呪われている!」
聖女?
あ。わたしか。
わたしの婚約者ということになっている王太子が、壇上でこちら指さしています。
「聖女! 聞いているのか! お前は呪われている!」
「はいぃ?」
ちょっと声が上ずってしまいました。
実際に呪われているようなものなので。
あのボンクラの殿下が、習ってもいないはずなのに、推理できるとは、腐りきっていてもあの人の子孫だからかしら。
「お付の侍女であるジャスミンを、いじめているそうではないか! 聖女ならそんなことはしない!」
あ。ちがったみたいです。
期待するだけバカでした。
「ああ、ジャスミンちゃんですか、殿下と毎日乳繰り合っているジャスミンちゃんですね」
わたしのモノをちょこちょこくすねるジャスミンちゃん。
泣きまね上手なジャスミンちゃん。
王太子殿下の隣に立っているジャスミンちゃんがわめきます。
「ひ、ひどい! そうやってわたしをすぐ貶めようとする!」
「そ、そうだぞ! 我々の関係はそんな下賤なものではない! 真実の愛だ! しかもジャスミンは新たな聖女の資格がある!」
ないです。
カケラもないです。
ジャスミンちゃん、ぴかっと光ったりしてみせたみたいですが、結界とか全く張れません。
まぁ、思い込んだり騙されたりするのは勝手ですが。
この国、聖女であるわたしに頼り切りで軍備とかゼロの商業国家なんで、どーするつもりなんでしょう?
「はぁ、真実とかはどうでもいいんです。下賤でも上等でも、男女が裸になってやることは同じですから。凸を凹に」
「な、なんという下品さ! やはりお前は呪われている! お前は聖女ではない!」
「ふぅん。なら性女ですか?」
「誰がうまいこと言えと!」
まぁ思春期真っ盛りの殿下が、やれない相手と白い結婚とかってやだもんね。
でも、いったん結婚すれば愛人とヤリたい放題なのに。我慢ができなかったんですね。
「で、どうするんですか? わたしが呪われてるとして、で」
「処刑だ!」
「なるほど。では、どうぞ」
私は壇上に登ると、首を殿下の前に差し出しました。
「なっ」
「せ、聖女様! あ、あたしは謝ってほしいだけで」
「いや、もうそれムリだから。だって、今日、この場を選んだのは、陛下と王妃陛下がいないからでしょ? 帰って来たらげきおこだよ。あのひとら」
「そ、そんなことはないぞ! いじめているのは明白なのだから」
「ふーん。あのさジャスミンちゃん。陛下たち帰って来たら徹底的に調べるよ? それに耐えられるような証拠があるのかなぁ?」
「ぎくぅ」
「ぎくっ。ってなんだジャスミン! ま、まさか」
「まぁ、今、わたしを殺せば、取り返しがつかないから、なんとかなるかもねー。ほら、さっさとさっさと! 処刑処刑!」
長い人生。処刑されるのは初めてです。
ちょっと楽しみかも。
「で、殿下! や、やっちゃってください! 実はこのクソ女は、すでに陛下も王妃様も操り人形にしてるんです! 今、殺すしか!」
「え、いや、今さっき、謝って欲しいだけと……」
「そ、それは間違えだったんです! あたしたちが生き残るためには、このひと殺すしかないんです! もうほら、早く殿下!」
おおっとジャスミンちゃん。
殿下の腰から勝手に刀を抜くと、その手に押し付けましたよ!
自分でやらないあたりが女子力高いよね!
「だ、だが! 、その、あの。オレ、人を殺したことなんか……。え、衛兵! こ、こいつを殺せ!」
「あーそれはだめ。殿下みたいなバカはいないので、普通の神経の人間なら、殿下の命令でも聖女は殺しません。さぁどうするどうする!」
ジャスミンちゃんが絶叫した。
「殿下やっちゃって! 愛のために! 男ならできるでしょう!」
殿下は顔を青くしたり白くしたり点滅させたあげく、
「う、うぉぉぉぉぉぉ!」
すぽーん!
ぱっきーん!
「あーすっきりした。よいしょと。こらしょ」
首をつけて、落ちた銀のロケットを拾ってと。
「おっと、後ろ前逆にしちゃった。よいしょっとなおしてと」
首の位置を直していると、
「ひぃぃ! ば、化け物ぉ!」
「お、お前、今、しししし死んだはずじゃ」
「あのね。聖女っていうのは死なないの。まぁ死んだことなかったけど」
「な、なんで!?」
「あのさ。殿下って王家の人間なのに知らなかったんだねー。わたし、あんたらが初代と思っていた聖女なのよ」
周りじゅうの貴族たちも聞いちゃってるけど。最後だからいっか。
「まさか!」
「あの頃は若かったからさー。この国の初代と一緒に魔王倒してさ、プロポーズされてさ、『ベル、一緒に王国を守ってくれ』って言われてさ」
「ベル?」
「あ。それわたしの名前。ここ400年くらい誰も呼んでくれなかったけどね。で。うなずいちゃったんだよね。はい、一択よ!」
久しぶりに思い出してしまったわ。
あのひとかっこうよかったな。
イケメンで、誠実で、我慢強くて、不器用で。涙もろくて。
この銀のロケットもあのひとがくれたんだよね。
「そうしたら、わたしは聖女だからさ。言葉にも神力があって、うっかり契約結んじゃったんだよね」
「契約……」
「そ。王家の血とね。でもさ、あのひとはさ、すごーくいいひとだったから、あのひとが生きてたあいだはねしあわせだったんだわ」
一途にわたしを愛してくれて。
ああもう、あのひと素敵すぎて、思い出しちゃうと哀しくなっちゃうから、思い出さないようにしてたのに!
「あのひとは、これをなんとか解除しようと頑張ってくれたんだけどさ。最期も『ベル……君を解放できなくてごめん……』だったもの」
いやーあれは泣いたね! つか聖女だから後追いもできなくてさ!
「わたしの息子もさー。これまたよく出来た子で。わたしの地位と立場を守るために、形式上結婚するけど白い結婚ってことを定めてくれたわけよ」
あの子まではね。
「ま、待て! 今、さらっと言ったが、貴様、オレの先祖ってことなのか!?」
「ああそうよ。もう情もなにもないけどさ。だって、王家ってば、だんだん劣化していったから」
「劣化だと! ふ、不敬だぞ不敬!」
劣化の証明がなんかわめいているわー。
「しょーがないじゃん事実だから。子孫ってっても、どんどん情は薄くなって、でも契約があるから離れるに離れられない。こうなると呪いだよねー」
なぜか、殿下の顔に、なんともいえない卑しい笑いが浮かんだ。
あの人はこんな顔、絶対にしなかったなぁ。
「つ、つまり、お前はいくら偉そうに言っても、オレに反抗はできないってことか」
「殿下! こいつは契約に縛られた奴隷だったんですよ! 殿下が何をしようと逆らえない!」
「くっくっく。そうかそうか!」
「これであたしと殿下はゼイタクだけして、こいつに全部やらせれば」
「なんて便利なんだ! がはは!」
卑しさではお似合いだよね。
やれやれ、これがあの人とわたしの子孫とはね。
「なんか都合のいい妄想暴走させてるけど残念! 今まさに、そっちから破棄してくれたわけ」
「え」
「まさか、今、切ったのは……」
「そう。契約。こんなに簡単に契約って切れるとは思わなかった! いやいや首ちょんぱで解除って予想外!」
あのひとやあの子が思いつかないのも当然だよね。
「ってなわけで、さよなら!」
「ど、どこへいくつもりだ!」
「だって、もう契約ないから、ばっははーい。これでわたしもあの人のところへ逝けるわ!」
わたしの体は消えていく。
契約だけが、この世にわたしを繋ぎとめていたから。
あの人とあの子――ルイとレオポルドに会えるかなぁ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! すぽーん! の次のぱっきーんって何よ!」
最後なんで、サービスで説明してあげる。
「アレはね。契約が切れたんで、この国の結界も解除されたわけ。瘴気とか笑気とか魔物とか帝国とか共和国とか騎馬民族とかいっぱい押し寄せて来るけど頑張って! ファイト!」
流石に卑しいふたりも真っ青になってますね。
「え、あ、は、はは。だ、だいじょうぶだ! おおおオレにはジャスミンが――」
「あ。ちなみに、ジャスミンちゃんの聖なる力って、単なる手品だから」
「ぎくぎくっ」
「え。おま、て、手品ぁぁぁ!?」
「ジャスミンちゃんのポケットに、タネが――」
銀のロケットがぴかっと光った。
その光は、とてもあたたかく包み込んでくれて――
「じゃ、ジャスミン! な、なんだこの袋は!? これがタネなのかっ」
「え、あ、ちちちちちが――」
わたしは消滅した。
あとのことはしらん。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




