乙女ゲームの逆ハーレムエンド後の〝ヒロイン〟に転生したので、これから記憶が戻る前の私の後始末をします
…ルナは、苦悶している。
今まさに、己の罪と向き合っているのだ。
「私何やってんのー?!」
ルナ。
この国の王太子妃。
そして、この乙女ゲームの世界のヒロインだ。
昨日、逆ハーレムエンドを達成したばかり。
「幸せいっぱいのお花畑女だった昨日の私が憎い…っ」
そして、今更になって前世の記憶を思い出したなんとも可哀想な女である。
「どうしようどうしようどうしよう」
日本の女子高生だった過去を思い出した彼女は、今世のお花畑女だった記憶と前世の記憶が混ざり合い今まさに常識的な女に戻れたのだ!
本人にとってはこれ以上ない不幸である。
「と、とりあえず…攻略対象者たちの元婚約者になんとかして詫びないと!」
幸か不幸か、この乙女ゲームではよくありがちな「悪役令嬢の断罪」がない。
ないというか、そもそも攻略対象者たちの婚約者は「悪役令嬢」にはならず婚約者に〝呆れ〟自ら身を引くという変なリアリティーがあったのだ。
「一応どの家も円満な婚約解消とはなっているけど…放置はまずいっ」
これでも王太子妃となったのだ。
国を背負うのだ。
貴族との不仲を放置など出来ようものか。
「と、とりあえず…まずはお金!」
ルナは自分のための予算を使い無理のない範囲で〝元婚約者〟たちに今更ながら賠償金を払った。
王妃殿下に相談の上、予算を使って構わないと了承も得ている。
「…ということで今更、しかも予算からお金を出してもらってなんですが…!」
「なんの賠償もしないよりいいです。好きになさい」
「ありがとうございます!」
元々相手の家が円満に婚約解消していたこともあり、謝罪と賠償金は受け入れられる。
元婚約者たちも嘘か本当か「今の婚約者と幸せなので気にしていません」と表向きだけでも〝仲直り〟してくれた。
それにホッとして、その後三ヶ月は大人しくした。
その間に王太子妃教育が始まったが、気合いで乗り切る。
攻略対象者たちには王太子妃教育があるからと会うのを断っていた。
そうして大人しくしていた後、そろそろ動き出してもいいかと次に国民感情を考える。
「王太子妃が逆ハーレムとかどう考えてもアウトでしょうが!!!」
ということで、王太子であるルイ以外の攻略対象者と縁を切ることにした。
自分の…王太子妃なのだからやはり王太子だけとしか結ばれることはできないという考えをみんなに正直に伝える。
王太子は大層喜び、他の攻略対象者たちは悲しみながらもルナの幸せを願い身を引いた。
また予算から攻略対象者たちに賠償金を支払った。
これまた王妃殿下に相談の上、予算を使って構わないと了承も得ている。
「これでとりあえずセーフ…セーフ?」
その後また三ヶ月大人しくして、王太子妃教育だけ頑張って受けていた。
そして三ヶ月して、次は国民たちのご機嫌取りだ。
ヒロインであるルナは聖女として不思議な力が使える。
自分の身体に叱咤して無理矢理、めちゃくちゃ強い加護を〝国〟に与えた。
結果として国民たちは〝この国から離れない限り〟健康に裕福に幸せに暮らせることがここ百年は約束された。
逆ハーレムのせいで『王太子妃に相応しくない!』という風潮だったのが、逆ハーレムを解消して攻略対象者にもその元婚約者にも賠償をして…そしてこの加護を与えたおかげで一気に王太子妃として受け入れられる結果に。
「ルナ様万歳!」
「ルナ様ありがとう!」
「おかげで不治の病だった妻が助かりました!ありがとうございます!」
そんな国民たちの声が、無性に嬉しかった。
その分、一週間ほど身体の調子を崩したが…まあ、代償としてはむしろ軽い方だろう。
この辺りから王妃殿下からの眼差しが優しくなり始めた。
「とりあえず攻略対象者とその元婚約者はなんとかなった、逆ハーレムも解消した…国に加護を授けたからこの百年は災害も戦争もなく、豊かで穏やかな国になるはず。私への国民感情も良くなったし、王妃殿下も優しくなった」
次は…何をすべきか。
「あーもう、考えがまとまらない…」
ルナは王太子妃教育でくたくたなので頭がよく上手く回らなくなっていた。
それでも王太子妃教育は確実にモノにしているのは、今世のルナ…乙女ゲームの主人公としてのスペック故だろう。
王太子妃として日々相応しくなっていくルナだが、それを気に入らない人物がいた。
王太子であるルイだ。
ルナの天真爛漫なところが好きだったルイは、最近の落ち着いた様子の王太子妃然としているルナが好きではなくなっていた。
ルナはルナで、元婚約者という存在がありながら自分に靡いたバカ王太子を愛せる気がしない。
「ルナ、前のように戻れ」
「無理です」
「俺の命令が聞けないのか!」
「王妃殿下に叱られますので」
とはいえ王太子妃教育は順調過ぎるほど順調で、王妃殿下から今はお気に入り扱いされているので離婚はこのままでは無理だろう。
ルナは一度攻略対象者たちに思考を移す。
いわゆる現実逃避だ。
「攻略対象者たちも、早々に新しい婚約者を見つけたのよね…それはよかったけど、相手の女の子たちは嫌じゃないかしら」
王妃殿下に相談して、相手の女の子たちを探る。
が、不満は特にないようで…むしろ攻略対象者側から格下とも言える家に頭を下げての婚約だったらしくそれは大層大事にされているようだ。
よかった。
元婚約者たちの方の婚約もついでに探りを入れたが、今幸せというのは本当のようで仲睦まじい様子だ。
「じゃあ後は…ルイ様とのアレコレだけよね」
攻略対象者と元婚約者たち、その現在の婚約者たちは上手くいっていて、既にお詫びも済んだ。
逆ハーレムは無事解消され、加護を与えたことで国は安定していて国民感情も良い。
国王陛下と王妃殿下も今は可愛がってくれている。
他国との外交の席でも無難に振る舞えているし、王太子妃教育は今やパーフェクトにこなしてもう必要なくなった。
いよいよ現実と向き合う時だ。
冷え切った婚約者との…王太子殿下との関係をなんとかせねばならない。
「王太子殿下」
「なんだ、ルナ」
「ご一緒にお茶でもいかがですか?」
「…今のお前とはそんな気にならない」
「そうですか…」
なんで、と王太子は言った。
ルナはルイの言葉の続きを待つ。
「何故、お前は変わった」
「王太子妃教育の成果です」
「…元婚約者と同じだな」
「でしょうね、同じ教育を受けてますもの」
「…っ」
悔しげにこちらを睨むルイ。
「お前は、変わらなくて良かったのに!」
「それは、バカな女の方が可愛いからですか?」
「―…え?」
「プライドを刺激されるのでしょう?優秀な女が隣にいると。だから前の婚約者のレミリア様に冷たくして、バカな私を囲ったのでしょう?」
「………」
青褪める王太子に、やっと自覚したのかと嗤いそうになり堪える。
「そういうの、一番カッコ悪いと思いますよ」
「なっ…」
今度は顔を真っ赤にする彼に、これは無理だとルナは悟った。
そして、とある提案を王妃殿下に持ちかける。
王妃殿下も、それを聞いて納得したらしく国王陛下にも話を通してくれた。
後日王太子は国王と王妃に呼び出される。
「お前はまた、婚約者を蔑ろにしているらしいな」
「そ、それは」
「お前には王太子は難しい。第二王子を王太子として、お前は廃太子する」
「なっ」
「心配するな、第二王子はお前と違って優秀だし器も大きい。お前は臣籍降下して新しく興す公爵家の当主となりなさい。領地は王家直轄領の一部を渡そう」
ルイは青褪めるが、もう遅い。
彼はその後、不仲の妻ルナを連れて臣籍降下し領地に移った。
その後ルイ以外の攻略対象者たちはみんな身の丈にあった生活をして、妻を大切にして過ごした。
ルナの加護のおかげもあるのか、穏やかで豊かで幸せな生活が続き、子宝にも恵まれた。
今はルナから離れて良かったと心底思う。
妻たちもまた、幸せいっぱいでほんわかした生活を送っていた。
一方で攻略対象者たちの元婚約者たちもみんな同じように穏やかで豊かで幸せな生活が続き、子宝にも恵まれた。
その夫たちも可愛い妻と子供たちにデレデレだ。
国民たちも加護のおかげで良い生活を送っている。
加護をくれた聖女が王太子妃とならなかったのが残念なくらいだ。
そして、ルイとルナ。
ルイの態度が変わる事はなかった。
ルナに冷たく接して、白い結婚は三年続いた。
他所で他の女を抱いている証拠もルナは得ていた。
ルナはルイに別れを告げる。
「この三年白い結婚でしたし、浮気の証拠もあるので慰謝料を払って別れてください」
「いいだろう!俺には真の運命の愛の人がいる!お前などいらない!端金などくれてやる、出ていけ!」
公爵家当主となったルイは、ルナの国への加護のおかげもありお金には困っていない。
慰謝料くらいいくらでも出せる。
ルナは有り難く慰謝料を受け取って、ただの平民に戻った。
元々平民が王太子妃なんて無理だったのだ。
このお金で好きなことをしよう、今度こそ真っ当に生きよう。
ルナは自由になった。
しばらくして、ルイは後悔した。
社交界で…元婚約者を蔑ろにしていた元王子が今度は妻を蔑ろにして、離縁されたらすぐにまた新しい頭の悪い妻を迎えたと噂になったのだ。
実際ルイが選んだ相手は頭が悪いとしか言い様がなく、社交界でも浮いていた。
表向きはルナと結婚を続けたまま、妻を側室に迎えればよかった。
そんな都合のいい事は許されないのだが…彼は本気でそう後悔していた。
彼の妻はそんな夫にも気付かずに、幸せそうに笑っている。
彼女にとっては、どうも悪い結果ではなかったようだ。
その頃ルナは、ルイから貰った慰謝料を使って故郷に戻っていた。
故郷ではバカなルナを叱ってくれる父と母がいて、またルナと暮らしてくれた。
慰謝料は充分過ぎる額だったので、生活には困らない。
さらにルナは、村の孤児院と養老院に定期的に寄付をした。
村でルナは加護をくれた聖女さまであり、村を支えてくれる有力者となった。
ルナは身の丈にあった生活に戻り、父と母の農業を手伝い、そして幼馴染のルークと結婚した。
今度は子宝にも恵まれた幸せな生活を送れた。
「…やっぱり、逆ハーレムエンドなんてろくでもないわ。普通の幸せが一番よ」
そして彼女はようやく、乙女ゲームの逆ハーレムエンドの続きから解放されて幸せになったのだった。




