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虚空のレクイエム ―絶望の魔法世界で、少女は機械の記憶を歌う―  作者: 畠山ゆな@姉弟で小説共作✏️
覚醒の序曲と、空っぽの卵

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境界線の目覚め:記憶を失った少女


 目を開けた瞬間、知らない空があった。


 青い。やけに、青い。


 雲一つない空が、視界いっぱいに広がっている。鳥の声がする。風が草を揺らす音がする。どこか遠くで、水が流れている。


「……ここ、どこ」


 声が、かすれた。


 体を起こそうとして、全身が軋む。痛い。でも、どこかが折れているわけじゃない。ただ、ひどく消耗している感じ。まるで、長い長い夢から引きずり出されたみたいに。


 ゆっくりと上体を起こす。


 広い草原だった。背の高い草が風に揺れて、穂先が金色に輝いている。遠くには見たことのない形の山並みがそびえていて、その稜線は柔らかく霞んでいた。


 ——ここは、どこ。


 そう思った瞬間、もっと根本的な疑問が浮かんだ。


 ——わたし、誰。


 胸の奥を探る。名前、顔、家族。何かがあるはずなのに、指先がするりと抜けるみたいに、何も掴めない。


 記憶がない。


 パニックになりかけた。でも、不思議なことに、体はそれを拒んだ。心臓は落ち着いている。呼吸は整っている。まるで、「怖くても大丈夫」だと、どこかが知っているみたいに。


 ——落ち着いて。今わかることを整理する。


 自分に言い聞かせながら、体を確認する。手は二本。足も二本。怪我はない。着ているのは、見慣れない草原には全くそぐわない、紺色のブレザーと、チェック柄のスカート。


 学生服だ。


 それだけは、わかった。自分が学生だということ。でも、どこの学校なのか。友達は。家族は。昨日、何をしていたのか。


 何も出てこない。


 ただ一つだけ、胸の奥にわずかに残っているものがあった。感情の欠片みたいなもの。うまく言葉にできないけれど、強いて言うなら——


 ——孤独。


 その一言だけが、自分という人間の輪郭を、かろうじて縁取っていた。


---


 しばらく草の上に座って、周囲を観察した。


 見渡す限り、草原が続いている。人の気配はない。建物も、道路も、電線も何もない。ただ、遠くの山裾に、小さな煙がいくつか立ち上っているのが見えた。


 人がいる。


 それだけで、体が動いた。


 立ち上がって、煙の方角へ歩き始める。草が足に絡みつく。ローファーが土に沈む。それでも歩いた。立ち止まったら、何かが崩れてしまいそうな気がしたから。


 二十分ほど歩いたころ、草原の向こうに、木造の建物が見えてきた。


 村だ。


 丸太を組んだ家が十数軒、寄り添うように建っている。広場には井戸があって、洗濯物が風に揺れている。どこかの家から、料理の匂いがした。


 ——入っていい?


 躊躇した瞬間、声がした。


「おい、そこの」


 低くて、落ち着いた声だった。


 振り返る。


 村の入り口、大きな木の陰から、一人の青年が出てきた。歳は、自分と同じくらいか、少し上くらい。日焼けした肌に、茶色の髪。そして——耳が、獣のように尖っている。


 驚いて、思わず後ずさった。


「待て待て、逃げなくていい」


 青年は両手を上げた。敵意はない、という意思表示みたいに。


「怪しい者じゃない。俺はカイル。この村の者だ」


 真っ直ぐな目だった。嘘をついているようには、見えない。


「……わたしは」


 名乗ろうとして、止まった。


「……名前が、ない」


 正確には、わからない。でも、それを説明する言葉が出てこなかった。カイルは少し目を細めて、それから小さく息を吐いた。


「記憶がないのか」


 頷く。


「そうか」


 それだけ言って、カイルは村の方を示した。


「とりあえず中へ。倒れそうな顔してる」


 言われて初めて、自分の足が小刻みに震えていることに気がついた。


---


 村の長老が言うには、自分は草原の真ん中に倒れていたらしい。今朝、水汲みに出た子供が見つけて、騒ぎになったのだという。


 長老は皺だらけの顔で、真剣な目をしていた。


「名前は、どうする」


「……わからないです」


「なら、呼び名をつけよう」


 長老は少し考えてから、静かに言った。


「カナリア。どうだ」


 その言葉が、胸のどこかに触れた気がした。


「——カナリア」


 繰り返すと、カイルが横でぼそっと言った。


「悪くない」


 その瞬間だけ、孤独の感触が、少しだけ薄れた。


 ほんの少しだけ。でも確かに、薄れた。


私たち姉弟で小説を書いています、畠山ゆなと申します。


機械音痴な姉と二人三脚で共作している作品です。


通勤時間や寝る前のひとときに、少しでも心が軽くなったり、ワクワクしていただけたら嬉しいです。


この作品を楽しんでいただき、応援していただけたら嬉しいです。 レビューや感想をいただけると、姉弟ともに大変励みになります。

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