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在らぬ者は名を持たない  作者: 紋 余白


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9/9

第九章『無関係』

「なぁ、アンタが『在らぬ者』なんだろ?」


意味が理解出来ず、声の方へと顔を向ける。

少し高い位置にある目と視線が合うなり、そいつはニヤ、と笑みを浮かべた。


「……?」


こいつは何を言っているんだろうか。

言葉を返す必要性が見付からず、掲示板へ視線を戻す。あの森の中に流れる川辺にだけ自生している薬草の採取、これにしよう。

依頼書を手に取り、窓口へ向かおうと移動を始めると自然、男の腕が肩から落ちた。


「っ!?ちょ、ちょい待てって!少しは反応しろよ!」


そんな声を背に、滞りなく手続きを済ませた。さて、今から行けば夕方には終わるか。

ギルドを後にする俺の背に、何故か続いてそいつも出て来た。


「おい、待っ……てめ!」

 

何やら言っている声が聞こえるが、こちらには話をすることなど何も無い。そのまま進み、街を出て人気が無くなったところで、


「お前、あの街道での事件に絡んでんだろ!?知ってるぜ、その左腕……えらい怪我してたもんなぁ?!」


それを聞いて、ぴたりと歩みを止める。なるほど、こいつはあれを見た上で勘違いしているだけか。振り返り、真っ直ぐ視線を合わせた。


「ああ、それは俺だ。だから『在らぬ者』じゃない。残念だったな」


それだけ返すと、男は目を瞬かせる。想定していない返答だったのだろうか。困惑しているようだが、俺にはもう関係の無い話だ。


踵を返し、再度、森への道を辿る。

あの川に到るには…ここから入れば最短だな。

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