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在らぬ者は名を持たない  作者: 紋 余白


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第五章『代替可能』

「護衛の依頼、ですか?」


窓口に移動して第一声。聞かされた言葉を反芻する。


今回呼び出された理由は、とある貴族を護衛するメンバーに加わって欲しい、というものだった。

腕が立ち、仕事が確実。余計なことを口外しない。そういった人間を求めているらしい。


「依頼主の身分は明かせなくて…ギルドの方で条件に見合っていると判断した冒険者に、こうして直接お声を掛けているんです。どうでしょうか?報酬も高額ですし、成功すれば名声だって得られますよ!」


興奮気味に話す職員の声に耳を傾けながら、依頼書に目を通す。

長距離移動の護衛。何処から何処へ、などの情報は記載無し。受けた者にだけ伝えるのだろう、余程身分がある人間なのだと窺える。


軽く息を吐き、依頼書を裏返して職員へと返す。


「悪いが遠慮しておく」


「…えっ?え?でも…こ、こんな依頼は滅多にありませんよ?」


断ると思っていなかったのか、狼狽えてなおも説得する材料を探しているようだった。


「あまり派手な仕事はしたくない。…声を掛けて貰ったのにすまないな」


それだけ伝えると、職員は肩を落とした。

この条件なら他に引き受ける者が居るだろう。ソロでやっている俺にまで声を掛けるとは、恐らく過剰な程に護りを強固にしたいという先方の希望か。


評価されていることは有難いが、俺はそもそも単独でこなせる依頼しか受けていない。『仕事が確実』というのは、それ由来だと思えば当然のことだ。


それじゃあ、と短く告げて席を立つ。

多少の申し訳なさはあれど、身の丈に合わない仕事を請け負うリスクは排除したい。


まだ早い時間だ。自分にこなせる案件はないか、掲示板を確認しておこう。




『大至急!!』


焦って書き殴ったらしい文字にすぐ目が留まる。

判別の難しい薬草の採取。記憶によれば、群生場所はそう遠くない。

その依頼書を外して懐へ仕舞う。今から向かえば、夕方には帰れるだろう。

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