第十四章『負い目』
───ドボンッッ!!
冷たい水が全身を打つ。その衝撃を受けても、何とか男を掴んだままでいられた。
どうにか水面から顔を出し、上空を見上げる。キラービーが追い掛けてくる気配は…無い。とはいえ、ここですぐ川から上がるのは得策ではないだろう。万が一にも仲間を呼んで来られては、生還が危うくなる。俺は改めて男をしっかりと抱え、川の流れに沿って泳ぎ始めた。
「ゲホッ!ちょ…およ、泳げるって自分でっ…ブクブク」
「今は体力を温存しておけ」
泳いでいる最中に意識を失う可能性が無いとは言い切れない。キラービーの毒が回り切ると危険だ、早く解毒しなければ。
水の流れに翻弄されながらも少し移動した先で、身を隠すのに良さそうな木陰が見えた。川岸に上がる頃には、男はすっかり静かになっていた。呼吸音は聞こえるので、ひとまずは安心か。
木陰に入り、男を木に凭れ掛からせる。念の為、周辺には忌避剤を撒いておいた。水を含んで重くなったマントを脱ぎ、木の枝に引っ掛ける。体を温める為に火をおこしたいところだが、解毒が先だ。
傷口を確認すると、皮膚が紫に変色し始めていた。バッグから解毒薬を取り出し、傷口に埋めるようにして塗り込んでいく。
「ぐっ……!」
痛むのか、苦悶の表情を浮かべている。だが処置する手は止めない。消毒効果のある薬草を軽く握り潰し、水分が出たところで傷口に貼り付けていく。傷の処置を終え、次は飲み薬の入った瓶を取り出し、蓋を外して男の口元に近付ける。
「念の為にこれを飲め」
後頭部を軽く掴み上向かせると、返事を待たず口の中に流し込んだ。
「ヴォェッッ!!まっず…!待っ…不味ぅっ……!」
抵抗出来ないまでも文句を言う元気はあったようだ。不要ではあったが、俺を庇って受けた毒だ。──死なせる訳にはいかない。ひとまず問題無さそうか、と短く息を吐き、再度木に凭れさせた。
念の為、雨に晒されていない場所に火を焚き、体が冷えないようにしておく。薬が効いてきたのか、男の顔色は少しずつ良くなっていった。
そして暫くすると天気雨は通り過ぎ、暖かな木漏れ日が差し始めた。




