第十三章『不可避』
「つぶらな瞳に、ほっそい前脚、後脚…」
ブブブブブ……
「小柄な女の子くらいのデカさはあるよなぁ、抱き心地良さそう〜……って無理無理。オエェ…!」
震えながらもキラービーを観察していた男は、何故か最後に嗚咽を漏らした。なるほど、虫系が苦手なのだろう。確かにこいつは面倒な魔物だ、下手に刺激したり迂闊に殺すと仲間を呼ばれてしまう。このまま距離を取って逃げるべきか。
念の為に左手で短刀を構えつつ、ポーチを静かに探る。その間も、敵は不快な羽音を立てて停止飛行をしながらこちらを見据えていた。匂い消しを使うべきか……最悪、忌避剤を自分達の体に振り掛ける他ないかもしれない。
───プシッ!!
「……!?」
唐突に聞こえた発射音。毒液と共に飛んできた針を間一髪で叩き落とした。針を失ったはずのキラービーの腹部に、次の針が生成される。
「本当に厄介だな…」
そして、
……カチッ…カチカチカチ…
威嚇音。強靭な顎を鳴らして威圧してくる様子から、どうやら敵だと認識されたらしい。
「うええぇ、デカイ虫はマジで無理…!」
隣で泣き出しそうな声を漏らす男も、退避するしかないと理解したようでじりじりと後退りし始めた。少し距離はあるが、俺達の背後には川が流れている。逃げるとしたらそちらだろう。
方向を把握すると、手の中で短剣をくるりと回転させて柄の魔石に魔力を込めていく。簡易なシールドだが、魔力を練って強度を上げれば毒液ごと針を弾けるはずだ。
敵に背中を見せないよう、ゆっくりゆっくりと後退っていく。あと数メートルすれば、そう高くもない崖に辿り着く…このまま見逃してくれればいいが。
崖までの距離を確認しようと一瞬振り返ったと同時に、
───プシッ!!
発射音と同時に聞こえた、息を呑む声。そして、
「危ねぇっ!!」
「っ!?」
男が急に俺を庇うようにして前に飛び出す。針が横腹を掠め、そのまま倒れ込んでしまった。
「っ……ボッチ!!」
再度、針を生成したキラービーがこちらへ向かってくるのが見えた。咄嗟にぐったりとしている男を支えて立ち上がり、急ぎ崖へと走る。
「お、おまえにだけは言われたくねぇええ……!」
男の力無い叫びを聞きながら、崖下の川へと飛び込んだ。




