第十二章 『転機』
朝の日差しが木々の間から細く差し込んでくる。洞窟内も徐々に明るくなってきて、ふと目を開くと対面で寝ていた筈の男が居なくなっていた。
先に起きて街まで帰ったのだろう、そう考えて立ち上がると
「お!目ぇ覚めたか?おはよーさん!」
「…おはよう」
不意に入口から呑気な声が聞こえてきた。反射的に挨拶を返しつつ顔を向けると、男は何故だか嬉しそうに見える。俺が起きるのを待っていたのか…?と一瞬考えたものの、些末なことかと焚き火の跡を軽く片付けた。
これだけ明るければ採取も捗るだろう。それを済ませて街へ帰還しなければ。
装備を確認し、男の横を抜けて洞窟から出る。……?頬に水滴が当たる感覚を覚え、周囲を見渡す。草木がほんのりと湿っていて、水気を帯びた土の匂いがする。どうやら天気雨のようだ。足元はぬかるんでいないが、濡れた草を踏むと足が滑るだろう。注意を払って、依頼品の花が群生する場所へ向かう。後から男の足音が付かず離れずの距離を保ってついてきていた。
目的地。開けた場所のため、雨を遮ってくれるものは無い。あまり長居をするのは良くないだろう、必要な数を早く採取してしまおう。
この花は根にも薬効があるため、軽く根元を掘ってから採取する。あらかじめ広げておいた布にそっと寝かせていくのだが…俺のやり方を見て、男も同じように採取し始めた。
「実は必要だったのか?」
「いや?ふたりでやればとっとと終わるだろ」
当然のような口振りで返しながら、男は手際よく花を集めていく。やはり理解不能だ。それ以降は特に言葉を交わさず、ものの数十分ほどで必要な数を採取し終えた。
花を潰さないよう包み、空間拡張されているバッグへと収納する。
「取り分は半々。ギルドに着いてから渡す」
そう告げると、男は驚いた顔で片手を振った。
「はぁ?要らねぇって、勝手に手伝っただけだしな」
本当によく分からない。恐らく俺は、この男に待ち伏せされていたのだと思う。
…何の為に?
最初から敵意は感じられず、俺を襲撃するメリットも無さそうだからと気にせずに居たが。
「『俺自身』に用があるのか?」
ギルドでのやり取りが思い出される。誰と間違えているのか興味は無いが、付き纏われるのは御免だ。
男は数度、目を瞬かせた後で…なんとも言い難い、苦笑いのような表情で口を開いた。
「用っつーか。なんか危なっかしくて放っとけねぇんだよ。お前……」
───ブブブブブ…ッ!!
「…!?急いで屈め!」
男の言葉に被せるように、不穏な羽音が響く。咄嗟に肩を掴み、共に身を低くする。あれは……
「まっ…まさか、キラービーか……?!」
震え上がる男を他所に、俺は武器を手に取り臨戦態勢に入った。




