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在らぬ者は名を持たない  作者: 紋 余白


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第十一章『不可解』

依頼品である花の群生地からそう離れていない場所。木々に隠れていた洞窟を見付け、その奥に魔物が潜んでいないかを確認する。その洞窟は予想より浅く、一晩野営をする分には特に問題無さそうだ。

道すがら、薪に使う為に拾っておいた木片を取り出し、焚き火の支度を進める。

と、そこに横から


「お、準備いいなぁ。オレが拾ってきた分も使ってくれよ」


そう言いながら男は木片を端に置く。……なぜ居るんだろうか。花を受け取りはしたが、それ以降特に会話をしないまま此処を探し当て、今に至る。


「野営すんなら、一人より二人の方が安心だろ?」


そういうものか…?こうも距離を詰めてくる理由が分からず、ただ不思議に思いながら火を起こす。

恐らく害意は無さそうだということと。今俺を襲撃したところで何ひとつ得することは無いだろう、という結論から、明確に拒否を示せずにいた。

洞窟の出入口に魔物避けの薬を撒いている男の背中を、まじまじと眺める。


「……何故ついてくるんだ?」


「え?だってオレも今からじゃ街まで帰れねぇしさ。邪魔にはならねーから、ここで雨風凌がせてくれよ」


なるほど、それなら理解は出来るか。一応は納得して、食事の準備を始める。狩ってきた小型の魔物を手早く捌く。食用に向かない内臓は焚き火にくべ、食べる分は半分に切り分ける。木の枝で作った串に刺し、火にかけて焼いていく。肉の風味が良くなる薬草を軽く振りかけると、香ばしい香りが漂い始めた。

暫くして。肉がしっかりと焼けたことを確かめてから、串のひとつを男に差し出す。驚いたような顔をしながら、肉と俺を視線だけで見比べてきた。


「…食っていいのかよ?アンタの食料だろ」


「空腹なんじゃないのか?」


さっきから腹の音が聞こえるが、男が食料を出す様子が無い。一晩ここで越すつもりなら、空腹でバテられても困る。相手がそれを受け取って向かいに腰を下ろし、躊躇いながらも食べ始めたのを確認して、自分も肉を口に運んだ。少し筋張ってはいるが、それなりの味だった。




すっかりと日が暮れ、洞窟の外は静かな闇に包まれていた。時折、風に揺れて擦れ合う葉音が聞こえるのみ。魔物の気配は、今のところ無い。焚き火に薪を追加していると、寝転んでいる男が口を開いた。


「なぁ。なんだってずっと一人でやってんだ?」


質問の意図が読めず、首を傾げる。ここのところ、やたらと声を掛けてくることと関係があるのだろうか。


「ひとりが性に合ってるだけだ」


それ以外に言い表しようがない。過去には一時的にパーティを組んだこともあったが、自分の望むように動きたいのならソロが一番だ。しかし、そんなことを聞き出す意味は何だ?さっぱり見当がつかない。


「ふ〜ん。まぁ、オレも基本的にはひとりで行動してっから、その感覚は分からなくもねぇな」


納得した様子で頷いた後、くあ、と大きな欠伸をして男は両目を閉じ…そして、暫くして寝息をたて始めた。本気で寝入っている様子を目の当たりにして釈然としない気持ちを感じたものの、気にせず仮眠を取ることにする。洞窟に入る前、簡素な結界擬きを張っておいたから、何かあれば対応出来るだろう。


徐々に小さくなる火に見守られて、この知らない人間との奇妙な夜は更けていった。

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