ポッテの独白、1
『在らぬ者』の噂を知ったのは、オレが冒険者になってからの話だ。
やれ誘拐されかけた子供を鮮やかに救っただの。下町で細々経営してる老夫婦の店が暴漢に襲われてる所に居合わせ、一瞬で締め上げて噴水に落としといただの。そんな小さな話から、巷でも有名なデカい事件まで。
何者かが介入していることは確かなのに、そいつの風貌をしっかり見た奴はほぼ居ないっつー不思議な有様。…そう、ほぼ。
───オレ以外、確信を持ってる奴は恐らく居ない。
『在らぬ者』が関わったとされる事件で一番有名なのはアレだ、王都爆破事件。当時、まだまだクソガキだったオレはその場に居合わせた。
火事の熱風、色んなもんが焼ける臭い、あちこちから聞こえる叫び声や啜り泣き。そして…オレを庇って立つ、デカい背中。あの時、確かに『在らぬ者』に助けられた。
噂を聞いた時、その確信を得て謎の興奮を覚えたんだ。ああ、あの人はすげぇ人だったんだ、ってな。
それが最近になってからどうだ?オレが今、拠点にしている街に居るなんて話になってる。
最初こそ期待したぜ、まさか再会出来るんじゃないかってな。でも全くそれらしい人物に遭遇しねぇ。そう広くもない街で、だ。
そこでオレは考えた。これは噂に便乗して名を上げようとしてる輩が居るんじゃねぇか?目撃者が居ない存在に成り代わるなんざ、そう難しくもねぇだろう。まぁ、ある程度の実力は必要だろうけどな。で、あのギルドに出入りしてる人間にアタリをつけて調べてまわった。
大抵の奴は複数人でパーティを組んでるってのに、ある人物……アランだけはずっとソロでやってる上、それなりに腕が立つって話だった。受ける仕事は薬草の採取やら失せ物の捜索やら。他の冒険者が大きな依頼を受ける傍らで、地味な依頼ばっかりやってるらしい。
その割に、受けた仕事のついでに大型の魔物を討伐してくることもしばしばあるんだと。マジで意味わかんねぇよな。
そんな折、あの街道での事件当日。街外れでアランを見掛けた。一目で分かるほどフラフラで、そのまま入り組んだ道に入って行っちまった。追い掛けるべきか悩んだが、ふとアイツが通った後に点々と血が落ちていることに気付いた。
それを辿って歩いてみたら…終点には大規模に争った跡があるじゃねぇか。魔物や人間の死体が街道の外側に追いやられていて、大型の馬車や馬の通った形跡。おおかたお偉方が乗った馬車が襲われて一悶着あったんだろうと察しがついた、が。ここからアイツだけが街に戻ったのはどういうこった?どうにも気に掛かる。
翌々日にはもう、街道での事件の話は広まっていた。護衛に参加していた人間がポロッと漏らしたんだろう。「魔物を昏倒させたのが誰なのか、居合わせた人間全員が知らなかった。『在らぬ者』だったんじゃないか」って内容だ。そりゃ皆食いつくよな、一歩間違えばお偉方が死んでたかも知れねぇんだし。
オレは確信した。アイツだ、と。あれからギルドには顔を出してないらしい。雲隠れするつもりなのか、あの時の怪我で動けなくなってんのか。ともあれ、アランが顔を出さない事には話は進まねぇ。分不相応に騙ってやがるのか、もしくは。
アイツがギルドに姿を見せたのは、そこからさらに数日後の話だった。




