第十章『花言葉は、無い』
ギルドの扉を潜る。戻りの時間はほぼ予定通り、依頼完了の手続きをするべく窓口へ向かおうとした矢先、
「おう、おかえり〜っ!」
何故かほぼ真横で、誰宛のものだか不明な声が響く。気にせず手続きを済ませ、ギルドを後にした。
翌日。
今日は森の少し奥まった場所に自生する花の採取依頼。薬としても使え、これを調合にプラスするだけで回復量が格段に上がることがある。…薬師の腕次第ではあるが。
これは自分が作る薬にも使える為、受けることにした。
群生地を知っているとはいえ、距離がある分魔物に遭遇する確率が一気に増す。単独行動する以上、軽い怪我でも命取りになる可能性がある為、準備は怠らない。
一度宿屋へ戻り。小さくはあるが収納量を拡張したポーチ、所謂「マジックバッグ」と呼ばれるものに作り置きの薬を詰めていく。装備品の確認と…万が一に備えて携帯食料も用意しておくか。
準備を終え、目的地へと向かう。
途中、食料になりそうな魔物を狩り、果実もいくつか手に入れておいた。薬草もある程度採取。
大型の魔物が付けたマーキングに気付いて以降、慎重に進んだ為か…目的地に着いたのは空が赤くなり始めた頃だった。採取をする前に、安全に夜を越せる場所を探すのが先だな。
辺りを見回していると、不意に
「お、アランじゃん。奇遇〜っ!この花、こんなとこに生えてんだな〜」
…?先客が居たらしい。名前を呼ばれて反射的に顔を向けてしまった。先日の男が木の上から降りて来た。
「名前、なんで知ってるんだって思ったか?まぁ、フツーに聞き込みしただけなんだけどさ」
そう言いながら歩み寄ってくる男からは、特に殺意や害意を感じなかった。だが、左手はいつでも短剣に伸ばせるよう意識しておく。
「オレは『ポッテ』ってんだ。はいコレ、お近付きの印」
差し出されたのは、目的の花が一輪。それも丁寧に手折ってある。その行動の意味が分からず、花を凝視したままの俺の右手を取り、そっと握らせてきた。視線を上げ、目を合わせる。
「…お前もこの依頼を受けているんじゃないのか?」
「いや?オレには必要無いから、アンタにやるよ」
必要無いのに何故持っているのか、と。尚更に意図が掴めなくて顔を顰める俺に、男はニヤリと笑った。




