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在らぬ者は名を持たない  作者: 紋 余白


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第一章『在らぬ、者』

遠く聞こえる魔物の遠吠え。

森のざわめきの中に、複数の人間が逃げ惑う足音、荒い息遣いが混ざり聞こえる。


(こんなはずじゃなかった……!)


まだ戦闘に慣れていない、初心者だけで構成されたパーティだ。

最年長だからとリーダーに指名された少年の心は、焦燥で膨れ上がっていた。

低レベルモンスターの駆除という初心者向けの仕事。それをどうにかこなして帰路に着くところだったのに…。


この森の、そう深くも無い場所。本来なら生息しているはずの無いベアー系の中級モンスターが突如現れ、逃げ遅れた仲間のひとりが攻撃を受けたのだ。鋭い爪の一撃。背中の肉が抉れる程の重傷を負っていて、早く回復しなければ危険な状態だと一目で知れた。


咄嗟に簡易な火炎魔法を放ち、モンスターを一瞬怯ませる。その隙に仲間二人で負傷者を抱え…リーダー格の少年が先導し、逃走経路を確認してはいるものの。猛然と迫り来るモンスターの迫力に気圧され、焦りで袋小路に入り込んでしまった。

岩壁を背に、全員が死を覚悟し両目を固く瞑ったところで



ドシュッ……



鈍い音。どこから聞こえた?

そして、覚悟していた死の気配は一向に降りかからない。



ズダァン……!



モンスターの巨体が地面に倒れ込み、その衝撃と砂埃が収まってようやく全員が目を開けた。

完全に絶命している。モンスターの眉間に空いた穴からは黒煙が燻っていて、肉が焼けた臭いがした。


(これは…火炎魔法なのか?でも、こんなに痕跡が小さい……そもそも、どこから?)


だって、誰の気配も無い。聞こえるのは森のざわめきだけ。

唖然とする彼らを、木の上で気配を殺していた人物が静かに見下ろす。


(怪我人に遠隔回復…と。これで死にはしないだろう。もう大丈夫だな)


重傷者の止血をする程度の回復魔法をかけて、音もなくその場から離れる。

初級の火炎魔法だったが、圧縮して弱点へ叩き込んだので一発でケリがついた。この程度の消耗なら支障は無いだろう。


この森へ来た目的、本来の仕事はまだ終わっていない。日が暮れる前には街へ戻るようにしなければ。


意識はやらなければならない事へシフトし、頭の外へ追いやられた出来事を振り返ることもなく。

俺は目的のモノを探して、森の奥へと歩みを進めた。

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