81 16歳 in 二人きりの部屋
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
冬空がそろそろ終わりをつげ淡いラベンダー色の春空へと変わる頃、ついに王都から能面のような顔をした勅使が訪れた。
あっ、彼は王都の門番と同じ、ゲームの中に出てきたモブ…というかNPCじゃないか。
ほとんどのメインクエストはこの人から『王の命』という形で王子や聖女へと届けられたんだよね。そういう仕様のキャラクター…じゃぁこの表情の無さも納得いくってもんだよね。
僕は物は試しにとばかり、彼を笑わそうとじっと目を見て変顔なんかを披露して見た。なのに彼は笑うどころか無表情のまま次第に真っ赤になってしまったのだ。
あー…、笑いをこらえ過ぎてああなっちゃったか…やりすぎたかな?
悪いことしちゃったな…と、少しばかり反省をして僕はその立派な封蝋の施された王からの手紙を恭しく受け取った。
「遂に王城へ行く日が来たか…」
遠縁には違いないはずなのにハミルトンの叔父様に会う時みたいな高揚感は微塵も無い。
今までさんざん辛酸をなめさせられてきたんだ。
ランカスター領への舐めた態度にも思うところはある。王家と議会に不信しかないのも当然のことだろう。
唯一の楽しみと言えば…
叔父様から王都のグルメマップは既に頂いている。
クラレンス王国は近世ヨーロッパが舞台だって言うのにヒロインと攻略対象者の乙女イベントのおかげでカフェだけじゃなく、ビストロにバル、トラットリアなんかがとても充実しているのだ。因みに意味はどれも大差ない。
食フェスみたいな王都の城下町…、何から攻めるか…それは胃袋を最大限に満たすための非常に大きなポイントである。
おっ!前方にアーニー発見。
最近のアーニーは成長期だろうか?どんどん上背が伸びて、ヴォルフには少し届かないけどドンドン男っぽさが増してきている。
もうとっくに少年期は終わっちゃったな…。あの発展途上感が良かったのに…
子猫もそうだけどあっという間に大きくなっちゃうんだよね。
黒猫の様なアーニーの、刹那だからこそ貴重で愛おしい姿…それが少年から青年へと移り変わるあのしなやかな姿だ。
その時期をつぶさに見届けられた僕は史上最大に幸運だったんじゃないだろうか。
ソロリソロリ…バッ!
「うわっ!誰だ!…なんだレジーか…、な、何やってんだよお前!」
「ボーっと歩いてるから驚かそうと思って…。ちょうどいいや。このまま食堂までおぶって行ってよ。歩き疲れちゃった」
「レジー様、それでしたら馬に騎乗を。アーニーに背負われるなどと…いけません!」
「ダノワ…、固いなぁ…いいじゃない。領内で何しようがとやかく言う人なんか居ないって」
「そうだぜ。今さらレジーが何しようと誰も何も言うもんかよ。よしこのまま連れてってやる」
「そ、それでしたら帰りは私が!それなら!」
「バカ言えダノワ。帰りは俺に決まってる!」
「うるさいマーシャル!お前はお呼びじゃない!」
な、なんかモメてる…、こっわぁ…
「早く行ってアーニー。退散あるのみだよ」
「任せろ!」
今日の共同食堂は座るところもないぐらいの満員…。えー、どうしよう…。あ、新作メニューの発売日なのね。なら仕方ない。
みんな気を遣って一斉に席を空けようとしてくれたけど僕はそれを丁寧に辞退した。それならそれで食事をテイクアウトしてアーニーの部屋で食べようと思ったのだ。
「良いけどよ…、散らかってるぜ。」
「散らかるほどモノ置いてないじゃん」
「いろんな設計図なんかが置いてあんだよ。お前俺を舐めてんのか?」
「はいはい。僕が悪うございました」
軽口を叩ける相手って貴重だよね。
アーニーは少し上とは言えヴォルフより歳が近い分、彼とはまた違う種類の気安さがあるのだ。
部屋の中ではいつも二人きり。
そんな人目のない空間ではマナーも何も関係ない。僕たちはお行儀悪く寝転がったままポテトをつまんだり、口いっぱいにサラダを頬張ったり、時にはアーニーの齧りかけたチキンを味見と称して一口貰ったり、立場も忘れ気ままな時間を過ごす。
これが出来るのもアーニーが僕に立場を感じさせないからだ。
彼は「飼い主」と僕を呼ぶくせにまるで世話をさせてやってる、みたいな態度で実に尊大に振舞う。だからウィルとは気が合わない。だけど…
ウエストエンドにまだ何も無かった頃からずっと側に居たアーニー。
ニャーニャー文句と要望の多いアーニーはまるで「お兄ちゃんお願い~」が決め台詞だった前世の妹みたいに勝手気儘で…、僕をいつでも〝パソコンの前でコツコツ街作りをしてたあの頃の礼二”に戻してくれる。
僕がそんな彼の姿にある種の安らぎを感じていること、それを分かっているからこそ、護衛の騎士たちもこうして二人っきりにしてくれるのだ。
「アーニーの髪は相変わらず手触りが良いよね」
「…お前はいつもそう言って髪をかき回すけどな、お前の髪の方が手触りが良いって分かってるか?」
お腹いっぱいになった後にすることと言ったらお昼寝だ。僕はだらしなくベットに寝そべりながら、まるで食後のグルーミングみたいにアーニーの髪をいじり倒した。
お返しとばかりにアーニーも僕の髪に手を突っ込むが…もう少し優しく梳いてもらいたいものだ。禿げるか禿げないか、それは猫ッ毛の男の子にとってとても切実な悩みなんだゾ。
「手触り良い?あー、コモンダンジョンで手に入れる〝パン・テーン”使ってるからかな?サラフワでしょ?」
「…なんか臭う…」
「臭いもの見たいに言わないでよ!い香りでしょ?嗅いでみてよ?」
僕の髪に顔を埋めたアーニーは暫く顔を上げなかった。
少しの間そのままもぞもぞして…、そしてようやく離れたと思ったらアーニーは何だかおかしな表情で…、はっ!これはもしや…
フレーメン反応!
僕の衣類や靴下の匂い(洗い立てだよ?)を嗅いでは「ほげ~」っとしてたアイルーと同じ、猫の情報分析フェイス!
アーニーってば、やっぱり…
久しぶりに見るフレーメン。アーニーのフレーメン…。
僕はアーニーが照れて背を向けるまでいつまでもその表情を見つめ続けた。
自分勝手に振舞うくせに僕にはいつでも側に来いという。
ヴォルフと居るとすぐにやきもちを焼く僕のおネコ様。手のかかる僕のアイルー、構われたがりの黒猫アーニー。分かってるよ、僕は君の下僕だって。ねぇおネコ様…
ここで終わらないのがウエストエンドの良い(?)ところだ。
まさか帰り道、ダノワとマーシャルから本当に背負われることになるとは…、それも交互に。
いやしかし、これも当主の務め。これで騎士たちの士気が少しでも高まるなら…って、
そんなわけあるかいっ!
毎日更新を目指しています。
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




