78 16歳 in 書斎
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「坊ちゃま、お客様がお見えになっております」
「お客様…?」
アルバートを見送って十日ほど経っただろうか。父は邸内を少しなら歩けるまでに、弱った身体機能も回復している。
そうして余りにも平和で平穏なウエストエンドの環境に、何度も何かを言いかけては口を噤むのが父の日課になりつつあった。
そんな時に告げられた客人の訪問。社交界に出ていない僕を訪ねてくる人なんて、ここ最近知己になったごく少数の友人しか居ないっていうのに一体誰が…
「オスカー!セザール!うそっ!」
「宣言通りやってきたよ。君の成人を祝う特別な誕生日だ。どうしても顔が見たくて」
「当日間に合わなかったのは許せよ。糸電話でも話したがあちらでパーカーのゴタゴタに立ち会っていたんだ」
「収監までは…、滞り無く?」
「随分ガタガタ言っていたけどな。現物が出てるんだ。言い逃れは出来ないさ」
「危ないところだった。もう少しで『クーザ』の汚染がウルグレイスにまで広まるところだったよ…」
ウルグレイスの危機を未然に防いだセザール。彼は本国に感謝されてしかるべきだ。事の次第をウルグレイスには詳細に書いて送っておいてやろうと思う。
「それにしてもあの列車は良いもんだな。動く宿舎か…、考えたものだ」
「ふふ、十五日が四日に…、考えられないことだよ。だけどこれで休みのたびに来れる」
「早く本数増やせよ、レジー」
「はいはい」
僕を祝いに高価な馬車鉄道を使ってやってきた二人。その二人を有料高級宿泊施設に泊めるなど守銭奴もいいとこだ。
一週間の滞在期間、彼らは領主邸に泊めることになった。
「冬の休みは二か月だっけ?学校は大丈夫なの?」
「ああ。ギリギリ間に合う。心配は無用だよ」
「二人で来たの?」
「…実はローランドも居る」
「へー…って、ええっ!!!」
「裁判官の屋敷に泊めてもらうんだとさ。荷物を置いたら祝いの品を持ってくると言ってたな」
シュバルツ兄弟と手紙をやりとりして親しくしているのは知っていたが…いつの間に。
けど、パーヴェルに気の置けない友人が出来たのは歓迎すべきことだ。何も問題はない。何…も…。何も?
「オスカー…お前また来たの…」
「おう、シャリム、元気か!」
「たった今元気がなくなった…」
ヴィラへの滞在時、ほとんどをダンジョンで過ごしていたオスカーはこの屋敷に入りびたり…、なのでシャリムとも当然面識がある。
陰と陽、真逆の二人。でももしかしたらアーニーとセザールのように友情が芽生えたりなんか…
「さっさと帰れ、うるさい…」
「文句があるなら部屋から出るな!」
…しないんだよねぇ、これが。
「坊ちゃま、カニンガムの御子息が祝いの品を持って参りました」
「あー、聞いてるよ。それじゃぁ…サロン…、いや書斎にお通しして。それから当分誰も来ないように」
「はっ!」
お昼を少し過ぎた頃だろうか、単身ローランドが大きな祝いの品を持って領主邸へと訪れた。律儀だな。
「ローランド、わざわざお祝いありがとう。でも来てくれるとは思わなかった。驚きだよ」
「パーカーの今後を君も詳しく知りたいだろう?オスカーに任せては心許ないのでね。それに聞きたいこともある」
「聞きたいこと…?」
恐らく色々聞かせてくれるんだろう、そう思って書斎に通したんだけど…正解だったってことか。
「パーヴェルたちの事だ。彼らの素性を知りたい。事情があるのは分かっている、だが知りたいのだ」
「え…、でも…」
そうきたか…!ガバガバのオスカーと違ってローランドがあの違和感を見逃すわけがないよね?彼らはどこからどう見てもローランドの側だ。
「誰にも言うつもりはない。そこにどんな事実があろうともだ。私の口は堅い。信じてもらえないだろうか」
ローランドが信用にたる人物であることくらいゲームで見てきた僕には分っている。だからと言ってこれは…
「パーヴェルの力になりたい。お願いだ」
「…知ったところででどうにもならない。それでも?」
「それでもだ。彼はどれほど楽しそうに過ごしていても何かの拍子に遠くを見る。私はそれを見るのが辛い…。何が出来るとも思わない。当然だ。私はまだ学生で…何の力もない。だが、悲し気に揺れるその瞳の訳を知っておきたいと思う…この想いは傲慢だろうか?」
「傲慢と言うよりそれは…」
…初恋…かな?初恋なんだな?
うっひょーい!
ローランド!お、お前ってやつは…、可愛い!可愛いよローランド!
ムキになって食い下がるローランド。その顔はほんの少し紅潮して見える。あーそう。そういうこと。
僕はローランドを推してたニコの気持ちを少しだけ理解した。これがギャップ萌え…
「…色々と話せないことも多いから矛盾点は追及しないで貰えると助かる。いいね?」
「了解した…」
かいつまんで話して聞かせた内容は…、シュバルツがエトゥーリアの侯爵家当主だったこと。
厳格な彼はエトゥーリアの権威者たちから煙たがられていた事、そのためナバテアとの戦争にかこつけ嵌められ戦死者として捨てられたこと。
当主を失ったシュバルツのお家はあっという間にお取り潰しとなり、身体の弱いパーヴェルは親類中をたらいまわしにされたうえ死にかけていた事、などだ。
「そんなひどいことが…」
「セザールの国、ウルグレイスもそうだけど戦時中の国は色々と行き届かないから…」
「ではシュバルツ殿は…」
「シュバルツだけじゃない。エトゥーリアからの元兵隊は国に戻ったりしたら多分国境で消される。シュバルツが恨みを買ったのは軍部を統括する貴族だ。分かる?彼らはこのウエストエンドでしか生きられない」
「パーヴェル…故郷を失ったのか…」
「こっちから捨てたやったんだよあんな国。…でも…、僕が助けに行くまでの何か月間、彼がどんな目にあいどんな想いをしてきたか…それはパーヴェルにしか分からない。けど相当な目にあってきたはずだ」
「誰もパーヴェルを護らなかったのか⁉」
「クーデンホーフ家に救いの手を伸ばせば自分たちに飛び火する。それほど敵は徹底してた。シュバルツの遺体がそこに無い以上、見せしめになるのはパーヴェルだった」
「見せしめ…くそっ!」ドンッ!
「だから親類や友人でさえ誰もパーヴェルを助けてはやれなかった。パーヴェルは面倒な厄介者だった。そこでどんな目に合っていてもおかしくない。少しなら分かるんだよ。本来なら僕の環境も似たようなものだから。最も僕は財力も魔力も、パーヴェルには無い健康な身体も持ってたから何の問題にもならなかったけどね」
「太い鋼の精神も」
…否定はしない…しないけど…、要る?その一言…
「話してくれて感謝する。…エトゥーリア共和国のクーデンホーフ侯爵家か…」
「彼の本名はパウルだよ。シュバルツは愛し気にパウルフェンって呼んでた」
「パウルフェン…甘い響きだ。何故パーヴェルなどと、少し響きが硬いのではないか?君が付けたのか?」
「…それはどうもスミマセンネ…」
聞く事聞いたら言いたい放題だな。
「その軍部を取り仕切る貴族の名は分かるのか?」
「えーとね、ロートリンゲン侯爵家…だったかな。二年ほど前大地震で屋敷が崩壊したって言う…」
「地震…ね」
なんだよその目!地震だってば!ホントだよ?
とにかくこの日、不本意ながら僕とローランドの間に二人だけの秘密が出来てしまった。
毎日更新を目指しています。
お星さまをぽちっとしていただけると大変大変嬉しいです。作者の励みでございます(;^ω^)
この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




