71 16歳 in ランカスターの倉庫
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
憐れなるエバの餌食、ランカスター近隣の当主たちだが、彼らは家臣を装った特別部隊の隊員によって既に大神殿の療養所へと運ばれている。もちろん秘密裏に。
王都が社交のシーズンに入るのは領を離れるいい口実と言えただろう。領に帰還する頃にはすっかり元通りって寸法だ。
そして頭の靄が晴れ次第、当主たちは自ら証言台に立ってくれると誓ってくれた。
彼らはまごうこと無き被害者。醜聞とは言え下を向く理由など無いのだと言って。
そして一方確信犯で『クーザ』を使用した男爵二人。彼らも王都へ連行されたが行き先は法務院だ。
彼らは司法取引によって詳細な証言、そして当主の座から退くことを条件に投獄はしない事が決定している。代わりに領内での軟禁刑だ。彼らは向こう五年ほど領を出る事は許されない。
ここまでくると問題はランカスター領内に絞られる。
エバによって新たに雇用された上級使用人たち。彼らの父親たちをエバと接触させないよう先手を打ったのはやはり諜報隊員たちだ。
彼らはローランドの父、左大臣が用意してくれた親書を用い当主たちを説得してまわったのだ。
そこにはエバを警戒させないよう、彼女との面会に色よい返事をしながらのらりくらりと日にちを引き延ばすように、と言う密命が記されている。
外堀は埋めた。
この世界にメールもファックスも電話も無くて本当に良かった。時差があるおかげで何かとやりやすい。ま、一長一短あるんだけどね。
そんな緊張感のなか開催されるのは僕の十六歳を祝う誕生日。これは今までの祝いと違い成人の祝いも兼ねたかなり盛大なものになる。
今までの僕の誕生日に外部からの招待客なんか居ないわけで。領民だけでささやかに、だけど温かく祝うのがウエストエンドにおける宴の形だ。
だけど今年ばかりは出来上がったばかりの神殿において成人の儀を行う特別なものになる。
最速最短で洗礼までを済ませた猛者である女神官ニコ。
アルバートの頑張りにより、無事赴任の命を受け、既に向こうを発った彼女の初仕事はウエストエンドで行う成人の儀だ。
彼女はとある貴人の乗る馬車鉄道に同乗してこちらへ向かっている。
その貴人とは誰か。それはアルバート王太子殿下、その人である。
ヴィラおよびウエストエンドをたいそう気に入ったアルバート王太子殿下は、僕の誕生日を祝いに馬車鉄道に乗って急遽やって来ることになったのだ。聖騎士一隊をまるまるお供に引き連れて。
もうわかるね?
アルバートのお供である聖騎士の面々とはエバの捕縛隊だ。
これは正式な招待を受けての訪問。殿下の護衛であれば聖騎士が随行していても何もおかしくない。
もちろん王太子の護衛もホントではあるが、ウエストエンドに入ってしまえばあそこは逆にどこよりも安全な場所となる。
彼らの帯びる使命はエバ及び〝クーザ”の売人を捕まえることだ。
ただ何故やって来るのがランカスター領でなくウエストエンドなのか。
それは全て虚をつきエバを油断させるため。ランカスターからは遠く離れたウエストエンド。そこにどれだけ大勢聖騎士が居たところで奴らは何の懸念も感じまい。
騎士たちはオスカーから聞いて、僕が任意のダンジョンへ行ける『近道の鍵』を持っていることをすでに了解している。
その前提でハミルトンの叔父様が教えてくださった、ランカスター領内にある今ではペンペン草も生えないという、大昔の枯渇したダンジョン跡地へ出ようというのだ。
いやぁ…、種明かしをするとね、ホントは枯渇したダンジョンに扉は開かなかったんだよね…。だからいつものあのもっともらしい部屋のもっともらしい扉に『ワープゲート』をコッソリ仕込むことにしたのだ。
とにかくこれで彼らはあくまでダンジョンにだけ繋がるアイテム『近道の鍵』であると信じるだろう。
ダンジョンとは辺境のさらに奥まった場所にしか存在しない。
そのため、ランカスターの山脈を超えた向こう側、北の国境沿いにはCクラスからBクラス(大して人気無い)、辺境伯領の東の奥地にはBクラスからSクラスダンジョン(強化のダンジョンとかね)があったりする。
そして西から南西は魔のベルト地帯に面した樹海内にSSクラスダンジョン、ベルト地帯の中にSSSクラスダンジョンがある。つまりそれは誰も近寄れない、絵に描いた餅ってことだ。
とまあ、そんな訳で、ランカスター先々代に王女が降嫁なされた際、輿入れの付属で貰ったランカスターの北よりに枯渇したダンジョン跡地があっても不思議では無い。
脱線したがこれで聖騎士全員がエバに知られず領内に入り込むことが出来る。
彼ら最大の目標は捕縛した売人からさらに大物の情報を引き出す事。関所を通って真正面から行ったら肝心の売人に逃げられてしまう。これがベストのはずだ。
着々と進む準備の中でも最も重要な人物。それが…
「ニコ!ニコ…!よく来てくれたね…待ってたよ…」(って言っても実は昨日もこっそり会ってたんだけどね)
「レジナルド様、どうか私よりも王太子殿下様をお迎えくださいませ」(何やってんのよ礼二くん!王子様に失礼でしょ!)
前世からの盟友!運命の人ニコ、その人である!
「ふふ、恩人と言うのは本当なのだね。君のそんな嬉しそうな顔を初めて見るよ。少し妬けてしまうな…」
「ほほう、既に攻略済みと?」
「ウォッホン!あ、いえ。アルバート…今日はよく来てくれました。何から何までご配慮いただき、どう感謝すればいいか」
「事は『クーザ』に関わる。あれは国としてもいずれ何とかしたいと思っていた問題なのだよ。餌食になるのが地方の領地ばかりであるのを幸いにここまで先送りしてきたことが間違っていたのだ。むしろ謝罪すべきであろう。だが王も聖騎士団長も確信している。これは良い突破口になるだろう、と」
「アルバート…」
んんっ⁉
なんだこの聖騎士団員たちの息を飲むような表情と目じりを下げた視線は…あっ…!
僕とアルバートってば、よくよく考えてみれば遠い遠い親戚みたいなもの。
今までピンときてなかったけどよく考えてみれば遠い〝はとこ”になるんだよね?
その若い二人が長い間のわだかまりを超え、こうして親交を持つに至ったのだ。大人の彼らから見れば感慨深いのも当然だろう。ジーン…、もらい感動…
その中にあってニコの笑顔だけが違う意味を持つのだと僕だけは知っている、不本意ながらね…
さて、ニコをウエストエンド神殿に、アルバートをヴィラ・ド・ラビエルに迎えジリジリ待つこと1日半。待ちに待った月の無い夜。今宵世界は暗闇に包まれる。
この時代の夜は暗い。ましてやそれが田舎であれば尚更だ。だからこそ奴らは月の無い夜を選んで取引を行うのだ。
そして悪人とはいくら魔道具があろうと油断しない。徹底したものだ。
屋敷で待機する緊迫した時間。
現在先行しているのは夜目の利くヴォルフとシャリム。陽が地平線の彼方に消えるとき、それが作戦開始の合図だ。
「時間だ、行こう」
毎日更新を目指しています。
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




