64.5 ローランドとパーヴェルの午後
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「全く何て言う奴だ!正午をまわったというのに戻らないではないか!」
狂魔力への偏見と馬が合う合わないは別の問題だ!私には理解しがたい!
「ふふ。レジナルド様はお忙しいのですよ。あのお方はこの領の為、領民の為、常に色々な事をお考えなのですから。さあこちらへどうぞ。カールが昼食を整えてくれました。質素な食事ですがご一緒してくださいませんか?僕はこの地に友人が少なくて…、あなたとのおしゃべりはとても楽しいのですよ」
「友人が少ない…、ああ。物静かな君の友人となると…ここの領民は少し不向きに見受けられる」
「よくお話しするのはお屋敷のウィルとコリン、それにコーエン家のご令嬢でしょうか。そうそう。医者のラドリー先生とも親しくしておりますよ」
パーヴェルという裁判官秘書は小柄なせいだろうか…?年上だとあまり感じさせない、どこか儚げなそんな雰囲気を纏っていた。
だが彼の事情を聴いて得心がいく。
彼は生まれつきとても虚弱で床に臥せる時間が多く、屋外で同じ年頃の子供と遊ぶといったことをほとんどしてこなかったのだとか。
それならばこの線の細さも仕方あるまい。ならばここへは療養に来ているのだろうか?
「いいえ。レジナルド様のお力で全ては克服いたしました。ですが…その、憂いなく過ごすために…ここに移住したのですよ。…あの方にはどれほど感謝してもし足りません。立派な屋敷もご用意くださって。執事のカールも喜んでいるのです。僕が元気になった事も、兄が笑顔になった事も…」
彼の言葉を受け執事が続ける。
「ええ。レジナルド様はこの私にヴィラの使用人教育という大役を与え、老後の楽しみまで下さいましたからね」
「…失礼だが君たちはどういった家系の?とてもその、庶民階級とは思えぬ立ち居振る舞いに思われるのだが…」
「僕たちは…」
「お話しするほどのことはございません」
言い淀む彼らの姿はそれ以上の詮索を固く拒んでいた。
何か事情があるのだろう。
だが彼のこの品のある佇まいは裕福な家庭の生まれというだけでは醸し出ないものだ。おそらく彼は没落したどこかの貴族、それも高位貴族の子弟に違いない。
私の記憶に間違いなければクラレンスの貴族年鑑に〝クーデン”と言う名を見たことはない。
では彼らは他国からの移住者か…
「しかし…、狂魔力の力と言うのは万能なのだね。私は何も知ろうとせず長い間偏った見方をし続けていた。あれは災いの種でしかないのだと…。それで彼を怒らせてしまってね。いや、すでに和解は済んでいる。だがこうして捨て置かれるのはまだ少なからずわだかまりがあるのだろう」
物静かな彼に心を許し、私とレジナルドの間に起きた諍いを思わず話してしまったのは、彼の持つ柔らかな雰囲気の生せる業だ。そうして彼は言葉も挟まず最後まで聞き終えると、少し遠い目をして語り始めた。
「僕の兄も真面目で頑固な方なのですよ。ふふ、父もそうでした。お会いしたことはないけど祖父もきっとそうなのでしょう。僕はそれを尊敬すべきことだと思っていたしそれは今でも変わりません。ですが…」
「何か?」
どこか遠くを見つめる憂いを含んだ瞳。思わず伸ばしそうになった手を慌てて引き戻す。
「父や兄のその潔癖さを煩わしく思う者が居たのもまた事実なのです」
「隅を突かれて困るという事は後ろ暗い事があるという事だろう。捨て置けばいい」
「兄もそう言いました。ですが結果としてそれが兄を追い詰めた…」
「パーヴェル…」
伏せられる薄茶の瞳が苦し気に歪められる。そこから感じる感情は…、とても一言で表わせられるものではない。
「今こうしてレジナルド様を見ていて思うのです。心の豊かさとはほんの少しの鷹揚さから生まれるのではないかと。正しいばかりの中で人は安らげない」
「だ、だが人々が全て勝手をしては秩序と言うものが…」
「ですから程度の問題なのです。父にはその加減がまだあったのでしょう。ですが兄にはそれが無かった。賄賂とさえ呼べないようなほんの僅かな付け届けであろうと兄は決して受け取らず送り返された。気持ちを無下にされたと怒った者もおりましょう。利害が生まれぬようどんなささいな誘いにも乗らず…、結果兄は孤立し…いいえ止めましょう、この話は。ですが気付いたのです」
「何をだろうか」
「レジナルド様がここに領民を集められた経緯には大きな声で言えないものもある。ですが結果として彼らは救われた。それは不正と断じられるものでしょうか?」
「それは…」
「…それを見て兄にも思うところがあったようです。正義とはかくも難しい…」
正攻法では助けられないものもある。真の悪人とは法を順守したうえでかいくぐるのが上手い。そうして手をこまねいたままの問題がどれほどあるか…
レジナルドの言った表と裏。彼はその一つであるスラムを力任せに消滅させた。
だがそれですら王都内で狂魔力を揮ったことに上がった非難の声は少なくなかったのだ。「あの狂魔力を王都で発動するなど危険極まりない!」と。
そしてその筆頭こそが…私の父だ。
「是非ローランド様は見誤りませぬよう…。ああ…、なんにせよ人は欲深い。命があるだけもありがたいことだと言うのに。僕は与えられた第二の人生を悔いなく真っ当出来ればそれでいい…」
再び遠い目をするパーヴェル。恐らく彼らは何らかの抜き差しならぬ問題を抱えて、…そしてレジナルドに救われたのだろう。あの狂魔力の力によって。
放っておいたら今にも消え入りそうなその横顔から、私は暫くの間視線を外すことが出来なかった…
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




