54.5 ローランドとセザール それぞれの独白
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「過保護にするのが側近の仕事じゃない」
彼に言われた言葉があれ以来耳から離れない。
過保護になどしたつもりは無かった。殿下の望みを理解し殿下を支えること、障害を取り除き全てを整えるのが親衛隊である自分の役割だと思っていたから。
この国の第一王子、アルバート殿下は非常に聡明かつ魔法の才にも優れたまさに眉目秀麗と言ったお方だ。だが決して偉ぶることのない君子でもある。
それは学院でも変わらない。殿下は王太子としての特別待遇を好まず一般の生徒と同じようにカフェテリアでの食事を望まれ、また有志で行われる慈善活動などにも時間が許す限り必ず参加される。
「学院に居る私は皆と同じ普通の一学生だ」
それが殿下の口癖。
それでも寮を抜け出し一人で下町に出ようとした時ばかりはさすがに閉口してしまった。が、
「この目で見なければ民の暮らしはわかるまい」
そう言われてはその志を無下には出来まい。
だからこそ目が届かぬところで抜け出されるよりはいっそ…とお忍びのおぜん立てをしたのだ。護衛代わりのオスカーを同行させて。
決してレジナルド、彼の言うよう、ただ過保護にしているつもりはない。だが彼が背負う王太子としての重圧…それが分かるからこそ、せめてここでは気晴らしをさせてやりたかった。それはそれほど責められる事だったのだろうか…
「一部貴族が特権を笠にかけ無体を働いてることくらい知ってるでしょ?」
「現状程度で気晴らしが必要なほどお疲れならお先真っ暗だ」
確かに…
彼、レジナルドが壊滅させた退廃地区。だが苦しむ人々が居る限りいずれまたあの場所はもとに戻る。
獣人との融和を謳った政策すら、未だ思うように浸透はしていない。
課題は多い。そしてそれらを背負うのはいずれにしてもアルバート殿下なのだ。
「彼が王太子でいられるのは王家があるからじゃない。王家を支える民が居るからだ。なら殿下のすべきことは何ですかね」
頭の中で繰り返される言葉…
「殿下の頭脳を名乗っときながらやってることがこれじゃぁ話にならない」
ローランド・カニンガム…私は…左大臣の息子であり行く行くは殿下の側近として右に立つべき男。
ならばその私は殿下に対し何を言うべきだったのか。私は殿下にどう在って頂きたいのか…
この地の民を見るがいい。東の難民、スラムの貧民、人間種を恐れたはずの獣人族、その全員が安寧の中で笑っている。
明日への希望に満ちるウエストエンド。それは心強き指導者に導かれているからだ。
「認めねば明日へは進めないな…」
殿下のすべきことは何か。そして私のすべきことは…
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「僕が四人の中で一番評価してるのは他でもないセザールだよ?だってあなたには誰にも負けない〝仁”がある!」
「あなたは気高い精神の持ち主だ」
「僕の目指す平和で平等な世界にはセザールのような人こそ増えてほしい。だから自分に存在意義が無いなんて言わないで」
僕にかけられた飾り気のない率直な言葉の数々。その一言一言が乾いた心に沁み込んでいく。
物心ついた時からいつでも僕は惨めだった。
出来の良い兄たちと常に比べられ、どれほど頑張ってもそれが認められていると思えなかったから…
才知に長けた長兄は軍の中枢で指揮の一端を担っている。戦略に長けた次兄は若いながらも中隊を率い既にいくつかの功績を挙げた。
だがこの僕はどうだ。魔法学の教師による報告。それを読む両親はいつも小さくため息をつき首を振る。
両親の期待に応えられない。その事実にいつもどれ程苦しかったか…
十五の誕生日を控えたある日、母は言った。
「あなたがこのままウルグレイスの貴族学院を卒業しても戦線で無事にいられるとは思えません。お祖父様の伝手を辿ってクラレンスの魔法学院へお行きなさい。三年あちらで過ごして戦況が好転しないようなら定住しても構わないのですよ?あなたは気ままな三男なのですから」
もしかしたらそれは僕の身を案じてのことだったのかも知れない。だが僕をどん底に突き落とすのには十分な言葉だった…。
何故なら僕にとってそれは「お前には何も期待しない」そう言われたも同然だったのだから。
平穏に治められたクラレンス王国。だがこの国でさえなんの問題も無いわけではない。小さな火種であればいくつも抱えている。
だからこそ重用されるのは魔力であり武力であり、またはそれらを活用できる頭脳であり…ここもウルグレイスも何も変わらない。
何処へ行っても僕は中庸。誰かに認められ求められることなど決して無い凡庸な男。
…そう諦めかけていた僕に与えられた賞賛の言葉。
それはピアノが奏でる調べでは無く、またエレガントと称されるこの容姿でもなく、気に留めたことすらも無かった裸の己自身…
目の前にいるこの天使のようなライラックの彼は言うのだ。あの才気あふれる彼らよりもこの平凡な僕を評価するのだと。そして彼の目指す世界にはこの僕が必要なのだと。
両親からも兄たちからも「侯爵家にあるまじき振る舞い」と言われ続けた威厳無き振る舞い。それを彼は気高いと、そう評するのだ。
それですべての憂いが無くなる訳では無い。僕の抱え続けた十五年の劣等感はそれ程簡単に消えたりしない。
だが、至高なる紫の光を纏う天使が僕をそうお認めになるなら、僕の存在に意義を見出してくださるのなら、こんな自分自身にも少しは価値があるんじゃないか、そう思えたのだ…
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




