54 15歳 at ラウンジ
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
あれから1週間ほど過ぎただろうか…
オスカーは時間の許す限り強化のダンジョン(初級)へと出かけている。
同行するのはバイヤード。これは彼自身からの申し出だ。ここに居る間オスカーの面倒は自分が見ると。
つまり…、乗りかかった船?…的な?そんな感じだろうか。
「レジナルド様の見立て通り彼には資質がある。この手で伸ばしてみたいのですよ」
成程ね。バイヤードは育成ゲーム派か…。
実はあの時バイヤードが切られたのは出来レースである。
僕の耳打ち。それは浅く、でもなるべく派手に切られて欲しいと言うもの。ま、それも僕の『ヒール』と、バイヤードの戦闘センスがあってこそだけどね。でもバイヤードは瞬時に意図を理解した。
騙したのは実に申し訳ない…。が、これもまた彼の為。いいお灸になったんではないだろうか。
さて、一方の王子様はどうしてるかな…っと。
「レジナルド、いつになったら水遊びに興じてくれるのだい?」
「…先日牧場見学に同行しましたが?球技もお教えしましたでしょう?」
「雫に濡れる君を見てみたいのだよ」
「…ただいま日程の調整中です」
馬鹿め…。そんな日は永遠に来ない…。って言うか、何でそんなに濡らしたがるんだろう?悪趣味だな…
おっ!前方にいるのはローランドじゃないか。ラケット持って今から殿下とテニスかな?意外にも気に入ったらしい。
「レジナルド…様。こう言っては何だが殿下からの申し出をこうも無下になさるのは些か不敬が過ぎませんか」
おっと!敬称の変化に誠意は認めよう。だが…
「水遊びの相手をするのが敬意ですか?」
「だが殿下はここへ日頃の重責から逃れ気晴らしをする為にいらしたのだ。この程度の希望であれば叶えて差上げても…」
「気晴らし気晴らしって何を甘っちょろい。あのねぇ、…この国は他国に比べて上手い統治が出来ている方だとは思うよ?」
ゲームの舞台だしね。ほどほどに平和でほどほどにハプニングがあって、で、ほどほどじゃない問題を抱えてて…
ゲームの展開を動かすためだとは分かってるけど、納得できるかどうかは別の話だ。
「でも未来をしょって立つ殿下やあなたがここまで王国の抱える表と裏に無関心なのはいただけない。」
「何の話だ」
瀕死のアーニーをみちゃったからね…
「そうでしょ?たまたま僕が関わった事で王都のスラムは消えたけど…、身分制度がある以上あんなのこれからもまたどこかに発生する。過保護にするよりもっと殿下のお尻を叩いていいくらいだと思うけど?」
「レジナルド様、口が過ぎませんか?」
「…道端の石ころ拾って歩くのが側近の仕事じゃないって言ってんの」
「道端の石ころだと?わ、私は!」
「ローランド・カニンガム!殿下の頭脳を名乗っときながらやってることがこれじゃぁ話にならない!」
仕様っちゃ仕様なんだけどね…。王都の暗部…。これもゲームの中で攻略対象者たちが聖女と一緒になって解決していくはずのメインストーリー。彼らの成長エピソードの一つなんだから。
でもそんなのこの世界で暮らしている不遇な人には関係ないよね。
「一部貴族が特権を笠にかけ無体を働いてることくらい知ってるでしょ?」
アウチっ!ランカスター公爵領からブーメランが…
「今すぐ何とかなるとか思ってない。けど現状程度で気晴らしが必要なほどお疲れならお先真っ暗だ」
「そ、それは…」
「いいですか?彼が王太子でいられるのは王家があるからじゃない。王家を支える民あってこそだ。なら殿下のすべきことは何ですかね」
「レジナルド様…」
「あー、もう敬称はいいですよ。どうせオスカーも「レジー」呼びだし。その代わり僕も省略させてもらいますね。では」
ローランドと長く話すとケンカになりそうだ。僕は言うだけ言うと早々にその場を退散した。
ん?どこからか聞こえるこの音色は…
北側のヴィラからセザールのいる南のヴィラへと移動していた僕の耳に届けられたのは、優しくも切ないピアノの音色。これは…、エントランスホールのラウンジか?
そっと覗き込むとそこに居たのは想像通りの人物、優雅で優美なセザールだ。
僕は邪魔をしないよう息を殺してその演奏に耳を澄ませた。ああ…ローランドと絡んでささくれた心が癒されていく…
これは…ショパンの『幻想ポロネーズ』…
確かゲームのキャプチャー25『劣等感』だっけ?セザールが聖女に悩みを吐露する乙女イベント。ジャスラックに引っかからないよう名前しか出なかったセザールの十八番。それが『幻想ポロネーズ』。妹が動画を探せってうるさかったあの曲。久々だけどやっぱりいい曲だな…
パンパンパンパン!
反響する拍手。観客はたった一人。
「とっても素晴らしかったよセザール!僕は音楽の素養に欠けてるけど、それでもこれが素晴らしい演奏だって事は分かる!」
「そう言って貰えて嬉しいよ」
「そうだ!セザールは芸術全般造詣が深いんでしょ?良かったらこのエントランスの装飾にアドバイスとかもらえないかな?」
「それは構わないけど…、僕が芸術全般造詣が深いって誰が言ったの?」
「……お、オスカー?」
「オスカーが?意外だな。彼は僕にも芸術にも興味ないかと思ったのに」
「いやー、ホントに意外だよね。と、ところであの置物だけど…」
またやっちゃった…。なんでかセザールが相手だと緩むんだよねぇ。
警戒心を抱かせない。これはすでに彼の長所だ。
そして長所はもうひとつ。
彼のアドバイスは的確で、ほんの少し位置を動かしただけでその見栄えは格段に良くなっていく。
初めの配置は僕の決定。つまり僕の美的センスが…しょぼん…
「これだけの芸術的センス…、ご両親はさぞ自慢でしょうね」
「言ったでしょう?僕は期待されていないんです。両親からも兄たちからも…」
えぇっ?嫌味に聞こえなかったよね?心の底からそう思って自然と口に出たんだけど?
「あの…どうして?こんなにも素晴らしい才能なのに」
「戦時国であるあの国で芸術の才などなんの評価もされないのですよ。長兄も次兄もそれは優秀な軍人で…、それに比べて僕は…」
「セザール…」
「この国、クラレンスに居ればそう言った呪縛から逃れられると思った。だが同じことだ。魔法に秀でた殿下、学問に秀でたローランド、剣術では右に出る者の居ないオスカー、僕一人が中庸。誰にも期待されず何も成し得ず、…僕は自分の存在意義を見失いそうになる…」
この綺麗な顔を歪ませる原因はそこか…。つまり…、思春期によくあるアレ。
セザールはこう言うけど彼は何も出来ないわけじゃない。彼の周り、お兄さんたちや殿下たちが抜きんでて優秀なだけで。
むしろ全てバランスよくそこそこのレベルを持ち合わせているのだ。だからこそゲーム内クエストでも、まだレベルの上がりきらない序盤で一番重宝したのが実はこのセザールだ。
う~ん…、こういうのはねぇ…
「…その、僕の言葉には何の力も無いけど…」
何とか彼の力になってあげたい。励ますくらいしか出来ないのが実に歯がゆい…
「僕が四人の中で一番評価してるのは他でもないセザールだよ?だってあなたには誰にも負けない〝仁”がある。」
「仁…?」
「情け…思いやり…、人間関係の基本だよ。あなたは気高い精神の持ち主だ」
「いやそれは…」
「ううん、本当に。殿下はともかくローランド、気さくなオスカーでさえも使用人には頭を下げない。彼らは決して横柄じゃないけど…、貴族の嗜みってやつ?世話をされるのが身についてるんだよね。分かってるけど僕は好きじゃない。」
「オスカーもローランドも私の知る貴族子女からすれば十分人格者だと思うが…」
「もちろん使用人の彼らは仕事としてそれで報酬を得ているわけだから過剰な感謝は要らないよ?でも「ありがとう」ってたった一言かけるだけで彼らはもっと仕事に誇りを持てる。それでね、その言葉をごく自然に口に出来るのがセザールだ」
「それくらいのことで…」
「大事なことだよ。して貰って当たり前のことなんて一つもないからね。僕の目指す平和で平等な世界にはセザールのような人こそ増えてほしい。これ本心ね。だから自分に存在意義が無いなんて言わないで」
まっすぐに僕を見つめるうるんだ瞳。泣くか…?泣いちゃうか…?セーフ…
けど翌日からの彼は少し晴れやかな顔をしていて…少しは慰めになったかな?
今度はもっと楽し気な曲を聴けそうな気がする…
毎日更新を目指しています。
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この作品はアルファポリス様で連載済みの作品を全年齢バージョンへ改稿し投稿していきますので、R18が苦手な方はあちらに行かないでくださいね(;^ω^)




